津尾尋華のジャンプ打ち切り漫画紹介

週刊少年ジャンプの三巻完結以内の打ち切り漫画の紹介。時々他誌や奇漫画の紹介も。

心理捜査官草薙葵  1996年

心理捜査官草薙葵 全3巻 漫画 月島薫 ストーリー 岐澄森 構成 中丸謙一朗 1996年

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プロファイリングブームの頃にはじまった推理漫画。マガジンで金田一が人気を博し、サンデーでコナンがはじまり、ジャンプでも推理物のヒットをという目論見があったのでしょう。これについては詳しくは少年探偵Qの項目で触れますが、おそろしく悲しいエピソードがありました。

 

一時期恐ろしい勢いで流行ったプロファイリング。「交渉人真下正義」がネゴシエーターと言いつつほぼプロファイリングしてたのも懐かしい思い出です。

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とはいえ、この誘導旋回法など、身近で使えなくもない心理分析テクニックを取り扱っていれば、入り口としては悪くなかった気がします。
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まあ、でもプロファイリングの行き着く先が「せ、せやろか?」って内容だった感は否めませんでした。
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ジャンプのアンケートシステムと解決編しか人気が取れない推理物は致命的に相性が悪く、「あやつり左近」「少年探偵Q」「僕は少年探偵ダン」とこごとく失敗していきます。毎回盛り上がる要素が入るサスペンスでもあるデスノートは推理物というカテゴリーからは少し外れるので、ジャンプで推理ものはほぼ成功していないです。

 

死屍累々のジャンプ推理漫画

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ほぼというのはネウロが推理物にはいるか、なんですけど前半は推理物と言っていいと思います。しかし、ジャンプで推理物をやるならこれくらい突き抜けないときついという事を体感させてくれた作品と言えるでしょう。

 

ドーピングコンソメスープまではネウロも微妙なラインだったのが一気に弾けました。その後もはちゃめちゃな敵役が定番化します。

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ドルヒラ 1996年

ドルヒラ 全2巻 堀井秀人 1996年

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世界を狙える柔道選手だった竜二が、水泳部の直美に一目惚れした事で泳げないのに水泳部に入部することとなる水泳漫画。ギャグかシリアスかわかりにくいノリで進むんですけど、入部をかけて練習、特訓、ライバル校と練習試合と水泳に真面目に取り組み成長していきます。

 

天才柔道家から突然の水泳転身

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本気かギャグか分かりにくいノリ
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部内の恋敵と揉めたら、嫌味なライバルが何故か恋敵の邪魔をしに来て、キャラがブレたまま数週間が経過して何故かおよげることになってみんなで大会で勝負することになり終わります。話が飛ぶのとキャラのブレがthat's打ち切り漫画という感じのグダグダでした。

 

なぜか味方になるライバルキャラ 思考がおかしい

また、この辺りのノリが田丸節

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ヒロインに惚れて自宅のプールで一緒に泳ごうと誘う部内ライバル こいつも思考がおかしい

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なし崩しに成長する主人公
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時々垣間見えるノリが田丸浩史先生風なんですが高校の同級生とのことで、1ページ寄稿しています。

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もっと田丸テイストというか、テンプレ的に見えてみんな変人というキャラメイクはできているので、ギャグかラブコメにふりきって良かったと思いますが…。どうにも中途半端にスポーツをしてしまったのが敗因でしょうか。

 

2巻の表紙のヒロインがセーラー服競泳水着だったりと、妙にマニアックな趣味を少年の心に残しつつ、WJからはこれでさよならします。

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よく一話と最終話で絵柄が違いすぎるので、打ち切りをくらった作者が投げ出してアシスタントが仕上げたという説を手にしますが、実際は9話くらいから絵柄の変化が見られますので、単に絵柄を変えただけだと思います。

 

1話

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最終回

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K.O.マサトメ   1996年

青春りK.O.マサトメ 全2巻 園田辰之助 1996年 

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稲中が売れてるからジャンプでもおんなじノリのギャグやりましょう!って感じではじまったのか、ボクシング部という違いはあれど影響を色濃く受けています。少年誌なので下ネタ全開にするわけにもいかずその点では中途半端ではありました。

 

一応ボクシング部なんで部活もそこそこやってます

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真面目で優等生、ボクシングも強いモテる渡部、極貧家庭の岩井、知識だけはある宮島、問題児でエロい上にビッグマウスでバカのマサトメと、キャラはたててるんですけど生かしきれなかった感はあります。

 

基本部活の4人で話を回していきます

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モテる渡部に嫉妬してという展開も多いんですけど

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下ネタで勝負できないのは厳しい

扱うのはこのレベルくらいまで

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ノリは稲中なんですけど下ネタと可愛い女の子の2枚落ちで戦うのは厳しかったです。作者も爪痕を残したかったのか、ラスト突然マサトメがナイフで刺されて終わるという衝撃の結末で終了。本誌で読んだ時は何が起こったのかよくわかりませんでした。

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ダイヤモンド  1996年

ダイヤモンド 全2巻 柳川よしひろ
1996年 

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前作VICEに引き続き、夢中になれる何か、誇れる自分、何者かになる事を、求めつつもどうすればいいのかわからない若人の悩みを描いた作品。何も持ってない朋也は、ジョギング中のボクサーとの出会いからボクシングに目覚める。

 

取り柄も夢も誇りもない朋也

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ボクシングと出会って、やりたい事と、僅かな自信を身につける

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今回は、明確に主人公が目的を手に入れている

という点でVICEよりは一歩進んでるんですが…

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前作と違い主人公の成長は描けているのですが、いかんせん主人公に火がつくのが1巻の終わりで、グジグジと自家中毒を起こしたような描写が前半部分を占める為、非常に感情移入しづらく、スタートダッシュに失敗しています。これ、前作と同工異曲で主人公の精神面などほぼ同じ形態のため、同じように失敗してるんですけど編集は何をしていたんでしょうか…。

とりあえず少年漫画で何話もかけて悩む主人公はちとウケが悪すぎたと思います。え?エヴァンゲリオン?ありゃ、使徒によるピンチの演出とエヴァの活躍で内向的なシンジのマイナス面を打ち消しつつ、アヤナミとアスカという強力なヒロインとのボーイミーツガールでフックつけてるから!

 

神光援団紳士録  1996年

神光援団紳士録 全2巻 岩田康照 1996年 

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はい、覚えてる人手を挙げて!ジャンプ打ち切り漫画界隈でも全然話口の端に登らないマイナー打ち切り漫画です。

チアガール目当てで応援団に入ったヒデキチは次第に応援団のカッコよさに目覚めていくというジャンプには珍しい応援団物。

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応援団物は名門!多古西応援団やヒップホップ応援団のようなヤンキーバトル物と、男旗のような応援活動をメインにしたものに分かれますが、こちらは後者。ギャグをいれつつ厳しいしごきに耐えながら、応援団のカッコよさに目覚めていく描写はなかなか読ませるんですが、ヤンキー物下火時代にこのノリは…。

 

お約束のヤンキーバトルもあり、キャラも新入部員5人のうち経験者の真面目な奴が1人、主人公と相棒、女目当ての盗撮魔と、観戦が好きなデブでコンパクトにまとめており、経験者の葛藤や、練習についていけないデブの成長、仲間との関わりなどを上手くえがいていました。盗撮魔と相棒の掘り下げはもう少し欲しかったですが、2巻打ち切りだから尺がさけなかった可能性が高いです。

 

しごきに耐えながら応援団のかっこよさに目覚めていく

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実戦であまりの過酷さに途中でリタイア
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団長が応援団の真髄を語る

この辺りは結構読ませます

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作者はこの後ヤンサンに移り、球魂でそこそこヒットを出し、その後も青年誌で活躍します。一巻の中表紙の遊び心なんかは好きなんですけど、演舞の面白さを伝えるのは難しかったです。対戦形式などを導入した石山東吉先生の男旗は今思えば上手かったですね。

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チア物を除く応援団漫画は、嗚呼花の応援団と男旗を除いて軒並みマガジンなのでマガジンと間違えられていたりすることもある不遇な作品でした。

 

鬼が来たりて  1996年

鬼が来たりて 全2巻 しんがぎん 1996年 

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鬼の魂に魅入られ鬼になった人間ー「人鬼」を倒し弱き物を救う鬼の一族鬼部雷矢は、かつての鬼の大乱を再現しようとする鬼の主を止めるため旅を続ける。鬼の一族、鬼を制する神薙一族、鬼を滅ぼした鬼の一族の三つ巴の戦いが始まる。

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いわゆる和月組の一員で、真っ先にデビューをしたのが今作でのしんがぎん先生。この後次々とワンピース尾田栄一郎仏ゾーン武井宏之、ノルマンディーいとうみきおミスフル鈴木信也とデビューが続きます。
剣心連載中に和風バトルは競合しすぎたのが痛かったです。女の子の可愛さなら和月組一だったと思うのですが…。

 

和風剣戟バトル

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弱肉強食あたりが被ったのは痛かったです

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おてんば少女も…。服装デザイン!

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現代物なら女性キャラのかわいさは一番好きでした。絵柄が古い?1996年だぞ!遊戯王封神演義ワイルドハーフが始まった年だからな!

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王道というか、5話くらいかけて一話完結の悪役退治で、雷矢のキャラ紹介や能力、鬼がどう思われているかあたりをやったのは少し展開が遅かったです。そのため終盤本来の敵である鬼たちが登場してから怒涛の設定開示が始まってしまいました。

 

公儀のつくった鬼を制する能力を持つものを集めた

神薙一族

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秘術「神寄せ」 触媒となる神光玉

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全員出てこない敵の幹部クラス

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ラスボスは父親

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デビューからずっと鬼が来たりてを描いていたので、競合も仕方ないんですけど、巡り合わせが悪かったです。展開もやや遅めというのもありましたが、本題に進む前に打ち切り。その後29歳で急逝されたため、今作と次作の少年探偵Qのみが著作となります。丁寧な絵から、急逝を惜しむファンも多いです。

 

かおす寒鰤屋  1995年

かおす寒鰤屋 全1巻 大川原遁 1995年 

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骨董にまつわるウンチクでトラブルを解決する寒鰤屋の話。

 

うんちく漫画といえば、同じ作者の王様の仕立て屋や、里見桂先生のゼロ、ギャラリーフェイク美味しんぼなどが代表格で、一定のニーズはありますが、青年誌に多い題材です。

 

寒鰤屋も骨董品屋ということで、対象は幅広く、置き時計、茶器、記念硬貨ジーンズ、焼き物、掛け軸など様々なジャンルに対応できる強みはあったのですが、うんちく自体に魅力を感じるのは低年齢層には辛かったのではないかと思います。

 

骨董品全般のうんちくをカバー

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しかしながら固定ファンはついており、連載終了後に「好きだった」の声が多数上がった愛される打ち切り漫画。現在連載中の王様の仕立て屋と共通点も多い大川原遁先生の原点です。

 

上泉新陰流や楠流忍術、琉球古武術の使い手などセミレギュラーメンバーを己のジャンルの古典に詳しい強者にして少年誌らしいバトルにも対応できるようにしていたのですが…。

 

寒鰤屋は元公儀隠密

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彫り物も体術も凄い長さん

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琉球古武術と絵唐津の作者・水島大魚

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紅一点はトラブルメーカーの女忍者。

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少年誌にしては身体雰囲気になっちゃいましたね…