応仁元年より始まる物語。捨て子だった少年俊輔は、動物と話せる能力を持っていた。
村が鬼に襲われた事から、鬼退治にやってきた稚武彦の末裔・彰炎と大吾に出会った俊輔は、己の運命に、目覚めていく。
これは、相当頑張って事前に準備をしたと思われる作品で、考えられた分長所も多いのですが、反面短所も目につきます。
変身ヒーロー物の失敗の集大成が原色超人ペイントマンとすれば、歴史・ファンタジー物の失敗の集大成となる作品の一つだと思います。
ペイントマンに関してはこちら
https://utikirimanga.hatenadiary.com/entry/2021/04/02/121935
まず舞台が応仁の乱の時代の日本。後から通して読めばわかるのですが、舞台をこの時代にする明確な理由はありません。そこそこ戦乱の日本、もしくは切法師のような和風ファンタジー世界でも充分通じる話です。あえての応仁に、著名武将でのブーストを捨てても己の構築した世界観で勝負するという気概を感じます。
これ自体は悪いことばかりではなく、手垢がついていない時代を描けること、上手くいけば先駆者となれることなどもありますが、今回の場合は時代がメインではないため、メリットがあまりなく、馴染みのないところで勝負というのはリスクの一つだったと思います。
主人公の少年は来歴が謎の捨て子。血のつながらぬ自分を育ててくれた母を愛する正義感が強く素直で真っ直ぐでちょっとバカな少年で、特殊能力を持ち、武士に憧れるヤンチャ坊主。
主人公としては、他者とは違う能力を持ち、謎があり、性格も感情移入しやすいという及第点のキャラメイク。強いて言えば王道すぎて何かへのこだわりなど特徴づけるフックが欲しいくらいです。動機面である武士に憧れるというところは弱いですが、こちらは物語の進行とともにすぐに違う動機付けで強化されます。
しかし、リアル寄りの彰炎・大吾の作画に対して、少年感を出す為か、デフォルメされた俊輔は中途半端な頭の角という特徴を持ったモブに近い外見で、ビジュアル的な引きがありません。漫画的かっこよさを優先するか、リアルよりのかっこよさを優先するか、どっちつかずになってしまいました。
動物の声を聞くという能力を使い、鬼退治に参加する俊輔。倒しても呪いとなって倒したものに取り付く大鬼を相手に、苦闘する鬼退治達、その時、俊輔に鬼封じの力が覚醒する。
主人公固有の能力が発現し、鬼退治について行く資格を得、戦いの中攫われた母を助け出すという強い動機もできて、旅立ちの物語は終わります。
よく考えられた導入であり、師匠である彰炎とライバルであり友である大吾、俊輔のパーティー結成と旅立ちもスムーズに構築されています。
これ、作者が事前準備を頑張ったと思うんですけど、設定周りはかなり作り込まれてます。
表紙で開示される刀や弓矢の形状と名称、
戦闘経験のない俊輔が闘える理由付けとして、鬼を取り込むことで戦闘経験も身につけることができるという鬼封じの力。回数制限があり、仕様と共に浄化されて使えなくなる鬼の武器。
温羅、色鬼、儀式鬼、八部衆、大鬼、下手鬼という鬼の序列
鬼の能力・言霊
鬼を滅ぼす為の12の武器
鬼の目的、記憶と技を持ったまま生まれ変わり永遠の生を手にするために五行結界「羅生門」を解く必要があること、羅生門の封印を解くための5つの鍵
彰炎と、共に活動していた大山伏百鬼丸の行く末。
全てが開示されているわけではないですが、主人公のパワーアップや、敵味方の目的に関しては、わかりやすく情報が開示されます。
しかし、12の武器の設定など、作り込んだ設定を披露したいという欲求からか、本来必要でない情報まで披露され、ノイズとなってしまったり、その後にフォロワーがなく、設定の披露をするためだけの設定になってしまった部分もありました。作り込み系作品でよく見る失敗です。羅列したくなる考えた設定!しかし読者は設定を全部知りたいわけではない…。
設定をよく考えて、進行も悪くなく、下手鬼→大鬼→儀式鬼→色鬼と順当にパワーアップする敵に、武器を持ったガキから、封じた鬼由来の武器の使用→飼い犬虎丸の魂を封じた武器の使用→鬼の戦闘経験を身につけて→五つの封印の一つである神の力の使用と綺麗に段階を踏んでパワーアップする主人公を描いているのですが、設定に凝りすぎて主人公の内面的な魅力が掘り下げられていないあたりが辛かったと思います。お使い系主人公というか、主人公のうちなる動機や欲求がほとんど語られず、せっかくの動機となる母の救出もほとんど言及されないため、何のために戦っているのかがよくわからない。場面場面でテンプレセリフをはく、狂言回しのようになってしまいました。
ラストも、なぜ人は死ぬのか、死んだらどこへ行くのかという哲学的な疑問を投げかけて終わります。恩人が死ぬときに言うことそれかなあ。
また、全体的に作劇に動きがなく、バトルメインの作品の割に、バトル自体の駆け引きを感じる部分や、絵で魅せる所がなかったため、「想いの力で勝利」、「決めゴマは必殺技を放つところ」などテンプレ的な描写になってしまいました。邪馬台幻想記なんかもこの傾向がありましたが、初々しさは感じますが、もう少しケレン味のある戦闘を見たい所です。
五つの封印の一つを解き、はじめの敵幹部を倒したところで、彰炎が死亡。突然時は流れ。転生した登場人物達が過去を匂わせ終了します。
開示された伏線は殆ど回収されず、鬼との戦いに決着はつかず、ボスは出現すらせず、母は攫われたまま終わりました。
設定を守りすぎて、回収も、消化もできないパターン!
作者はチャイルドラゴン、ソワカ、少年守護神と3連続打ち切りをくらい新世代の打ち切り漫画四天王に名を連ねますが、その後、佐木飛朗斗原作でR-16Rや爆音伝説カブラギ、外天の夏を描くようになり、佐木自身から弟子と呼ばれるようになります。
作画の傾向やとしてはリアル寄りの現代物の方が合っているように感じましま。