魔女の守人 2020年
魔女の守人 全3巻 坂野旭 2020年
人間を襲う魔物・魔(イビル)が蔓延る世界。人類は、イビルに対抗する唯一の手段、魔女の魔術により拠点の防衛を行なっていた。
魔女・マナスファのお付きとなった騎士・ファフナは、家族をイビルに喰われた過去を持ち、魔女の力抜きで人類が平和なら暮らせる世界を作ろうとしていた。
主人公・ファフナ
そんなファフナに、ある日、マナスファ殺害指令が下される。
魔女とは、イビルの因子を注入され適合したものが生き残り魔術を使える様になる代わりに、いずれイビルに変貌する造られた生き物だった。
普通に生きたいというマナスファの真意を知ったファフナは、国を脱出し、マナスファを人間に戻す旅に出る。
物議を醸したダークファンタジー。設定の練り込み不足というか、好きな物を集めて咀嚼し切る前に出してしまったというか、作者が読んだ作品の影響がダイレクトに反映しているため、どこかで見た描写が多く、その分話にまとまりがなくなってしまっています。
ダークファンタジーを描きたいのであれば、国家の闇に焦点を当てて描くべきだったと思います。集められる女の子、魔素の注入。ほとんどが死亡。生き残りのうち極少数が魔術を使える魔女となる。魔女は時間経過とともにイビルになってしまうため、魔女のリミットが来る前に殺す守護がつく。魔の力を利用した人間拠点防衛用の生きた使い捨て武器、それが魔女という設定はエグめながらもなかなか面白いので、約ネバや7seeds夏のAチーム過去編の様な信じた綺麗な世界は幻だったという路線であれば、主人公もファフナも現状を理想として真実を知らず、衝撃の事実を知る展開にしたいところです。読切版はこの路線だったんですが…、約ネバと被りすぎるからやめたんでしょうか?
読切版
連載版ではファフナ自身が魔女のいらない世界を作ろうとしていることや、魔女頼りで弛緩した他の騎士の描写のため、現状が理想ではないことが示唆されてしまっているので、魔女殺害指令の突然世界の裏側を教えられた時の、理想郷からの転落感が薄いです。マナスファも真実を知って受け入れている状態なので全体的に絶望感が薄まってしまいました。
一応知ってる状態だからこその諦念は描かれているんですけど、悲劇としては読切版の方がいい出来だったと思います。
連載版は、どちらかと言うと広い世界を旅する王道ファンタジーを描きたかった印象にかわってるのですが、それであれば外に憧れる描写や、魔女の不自由さの描写をもう少しいれるべきだったかなと思います。読切版は塔に閉じ込められて自由がなく、16歳になったら逃してくれると言う言葉を信じて魔女の責務を果たしているので、この方向でも読切版の方が説得力がありました。なんで連載版で劣化したんだろう…。なんというか、描きたい事はわかるんですが、それを上手く見せる為の下準備がたりないので、説得力にかけるんですよね…。
例えば、魔女の造り方ですが、国中から12歳の女の子を集めて9割以上が死亡。こんなことやってたら女の子のいない世界の出来上がりですよ!無理があるだろ!
将来のことを考えないにしても、集められた女の子たちが帰ってこないならば、国家主導の人攫いな訳で、男として育てられる女の子とか、女の子集めに逆らって隠す家が続出するはずですし、なんだったら反乱が起こる案件。この辺どうなってるんでしょう?
仮に他の国に修行とか、労働に行っていると言う嘘をついて国民を騙しているとすれば、そのこと自体がディストピア作品としてのフックになったはずです。人攫いを行う独裁国家にしろ騙して集めた少女たちのほとんどを戦力を作る為の生贄にしているディストピアにしろ、主人公たちの行動に説得力を出す為に使えたと思うのですがこの辺り特に言及なし。
掘り下げようよ。
咀嚼しきれてない要素はいくつかありますが、
まず、鬼刃とよばれるファフナの剣術。
一の技「双式ノ構エ」
鬼滅ー!!
いや、別に技と構えはいいんですけど明らかに戦いにくそうな上に、登場回以外出てこないという…。ニノ技はありませんでした。なんだったんだよ案件。出すならきちんとバリエーション考えて毎回の戦闘で使え!
次に同じく登場回以外出てこないルーティン。
ルーティンじゃないのかよ、毎回やれ!
進撃の巨人の変身シーン
魔物に襲われるので高い壁に守られた都市国家で暮らし、外から襲いくる敵と戦うあたりが進撃の巨人くさいと言われた次の回でこれが出たので誰も何も言えなくなってしまいました。
壁で守られた人類の国
ついでに1話の脱出時の跳躍
文化レベルのよくわからない魔道具
ヴィデオがあったり、ヘリコプターがあったりする。これが、魔法…?
あと、ヲにたいする謎のこだわりとか
こんな感じで、味付けが薄いのと、勢いで入れた要素が活かされないまま話が進んでしまった印象です。
国を脱出したファフナ一行は、引退した魔女=イビル化しない魔女の文献から、マナスファを助ける方法を探して旅をしつつ、追手と戦うことになります。
こちらも、追手と戦うのか、ロードムービー的に色々な魔女と国との関係を旅をしながら見ていくのかはっきりしません。一度追手と戦い、力の無さを痛感したファフナは偶然出会った元騎士の発明家ドレイクに戦いを教わるのですが、ちょっとドレイクさん都合良すぎませんかね?この話に3話から10話という長い尺をさいた割に、ドレイクに特に組織的なバックボーンがなく、たまたま居合わせて、たまたま元騎士で、たまたま愛した魔女を手にかけたことを後悔していて、対魔女・騎士戦闘を教えてくれる…。もうここまでするなら娘を殺された有力者や支配体制に疑問を持つ知的階級が形成したレジスタンスが各国を見張っていて、脱走したファフナとマナスファに目をつけて接触したとかの方が説得力がありますし、そうなれば組織対組織という形にできるので、組織側の味方キャラを仲間にすることや、複数戦闘を描くことができました。
7話かけた追手、特訓、成長が、バックボーンがないキャラによってなされたことで、キャラは増えず、話は広がらず、ジャンプでいうところの「展開が遅い」ルートに入ってしまいました。特訓後、ワンエピソード描いて打ち切りとなってしまいます。
逃亡劇のため、主要キャラが脱走した3人で魅力的な仲間が出せない。それならそれで旅することで、世界の広さと魔女の境遇を、訪れた街や国での異常な習慣や制度と出会う事で描くという展開も作れたと思うのですが、少年漫画らしく追手と成長、「対魔女・騎士戦闘」という要素を入れたばかりに仲間は増やせないし、ロードムービーは捨てるというどっちつかずの展開になってしまいました。実際、追手と戦ったのも結局一回だけ。ダークファンタジーか王道ファンタジーか、逃亡劇かロードムービーか、どっちかに決めて片方を掘り下げれば、基本の設定は悪くないし、キャラは可愛かったと思うんですよ。
包帯少女スピカちゃんとか良かったと思うんですよね
魔素侵食状態
旅の途中で話は5年後に飛び、魔素を抑える指輪ができた事で魔女は引き継ぎ制になり殺されることは無くなった。国民もそれを大歓迎というハッピーエンド風なんですが、そもそもの問題、魔女を作るために12歳の少女が大量に殺害される部分が全く改善されていません。魔女の暗殺はもともと秘匿事項だったはずなので、国民が喜んでる理由がわからないよ。これ喜ぶの苦悩してた魔女と騎士だけだろ?国民は女の子が殺されなくなって初めて喜ぶんじゃないですかね。
という事で煮詰め方がたりなかったのが、厳しかった作品でした。25歳のデビュー作でこれだけまとまってかけてるのは凄いので、今後に期待です。