ぼくらの血盟 2020年
ぼくらの血盟 全2巻 かかずかず 2020年
吸血鬼の暮らす世界。孤児だったシンは吸血鬼に育てられ、その育ての親を吸血鬼に殺された。
愛してくれた両親の代わりにコウを守るため、弟コウと吸血鬼の世界に伝わる無明の血盟を結んだシンは人間と吸血鬼の共存を目指して吸血獣を退治して回る。
衝撃の2話、吸血鬼のパーセンテージ、倫理観が物議を醸した作者のデビュー作。
まず、世界と主役の説明を担う1話で、吸血鬼のいる世界である事、主人公は吸血鬼と人間の共存を目指す兄弟である事、兄は人間、弟は吸血鬼の王族、弟は兄の血しか吸えない契約を交わしている事、吸血鬼は人間を餌くらいにしか思っていない事、昔、人間と吸血鬼が共存していた時代があったこと、兄弟が吸血鬼退治をしている事、兄弟の両親を殺したボス的存在がいる事などが説明されます。
つづく2話は定石では、ライバルかヒロインの登場、1話を踏襲しつつ、1話より強い敵を相手にバトルのバリエーション、必殺技の種類や条件の説明、中ボスや事件を出して世界の設定の補強や大目的の提示とそれに至る小目的の解決を示すあたりをやるのですが、血盟の二話はその誰も選択しませんでした。
普通の人間なら勝負の2話は大事に扱う、設定の開示やボス、中ボスを出そうとばかり考える。だが、かかず先生は違った!逆に!
何も登場しない設定の開示もない箸休め回!
シンがいないお家で留守番をするコウのところへ迷い込んできた子供の子守りをする箸休め回! 確かに、シンがご飯やおやつを準備しているお母さん役で、吸血鬼と人間といえど愛が溢れる暮らしをしている事、コウが兄が大好きな事、シンがいないとコウは力がうまく操れない事あたりの設定は開示されるのですが、大目的に至る活動や、謎の敵、仲間については全く言及されない「なくても支障のない回」を持ってきました。
この回が余りにも、「好きなキャラクターの日常回を描いた同人誌」っぽかったため、「pixivにあげられている本編が見たい」というコメントが出たほど。
ちなみにジャンプ打ち切り漫画紹介40年の歴史の中でギャグ漫画以外で2回目に本編と関係ない箸休め回を持ってきたのはぼくの記憶の限り「SANTA」だけです。この作品は完璧に近いバトルファンタジーの導入1話の後に、人間に害をなす化け物が蔓延する世界で、とある村で人間を守る心優しい化け物と出会ったという箸休め回を載せたました。
3話以降は通常の話が進行するんですけど、編集はこの2話を止めなかったんですかね‥。
3話以降は人間を支配下におきたい吸血鬼が緋月兄弟を狙い襲ってきます。クラスメイトの西山、街の吸血鬼の子供・キリちゃんとその友達の人間の子供・アキちゃんなど身近な人達を利用して2人を傷つけ、利用しようとします。
このあたりの描写があまりにも吸血鬼視点で描かれているため、倫理観がおかしいと炎上。
まず、人間と吸血鬼で友達になっているあきちゃんとキリちゃんが登場。攫われた上、飢餓状態で2人きりで放置されます。
吸血鬼は飢餓状態が続くと、正気が保てなくなり、姿形が変わる獣化をおこし、完全に獣化すると理性も感情も失い、二度と元に戻れない血を求めて彷徨う亡霊となる。そうなると、もう殺すしかない。
飢餓状態の、キリちゃんは我をなくし、あきちゃんを襲ってしまいます。キリちゃんは半獣化、あきちゃんは失血で死亡。
人間を憎み、ゴミのように思っている吸血鬼・廻峯は嫌がらせでこれを行います。紆余曲折があってバトルで廻峯を倒すコウとシンですが、親人間派だった親を人間に殺されて人間を憎む廻峯を殺さずに、わかりあう道を選びます。
え、死んだアキちゃんの立場は?
自分がやったように飢餓状態にされて獣化寸前の廻峯。許すか許さないかを問われたコウは、他に謝らないといけない相手がいると語ります。
キリちゃん!
え、死んだアキちゃんのことは?
そして、優しいキリちゃんは、廻峯が苦しんでるのを見て許すのでした。
おい!なんかいい話にしてるけど、なんの罪もない人間の女の子を殺したことが、報復の連鎖はやめようって言う一言でほぼ無かったことになってるからな!徹頭徹尾吸血鬼の加害者と被害者の話しかしてねえ!
というわけで、タイパラ、サム8に並ぶいかれた倫理観で炎上。
自分で攻撃した従者が、敵にやられたことに慄く廻峯くんや、
お前さっき刺してたじゃん
最終話4話前に登場して、こいつらが出てきたならまだ終わらないだろうと思われたら特に活躍も解説もないままフェードアウトした抑止力・政府公認秘密機関「光狼」、
人を引いておいて悪態をつく、こちらも倫理観ゼロのトラックドライバーと、一撃でトラックを粉砕した結果異様にシュールな絵面を形成した灰賀、
最後まで登場せず回想シーンのみで顔をだす、おそらくラスボスのコウとシンの両親の仇・「あのお方」など
ツッコミどころが多すぎた内容と、いかれた倫理観で打ち切り漫画界隈が騒然としました。
人間と吸血鬼の共存という大目的は良かったのですが、いかんせん活動としては草の根的な吸血獣狩りで目的達成までのルートが明示されなかったのが痛いです。(吸血鬼の王になれば、穏健派でまとめられるとか)
また、人間と吸血鬼は共存できるかという問いに、子供らしく単純な、邪気のない答えを出すのですが、小学生の考えた実現不可能な絵空事が提示されたままで終わってしまい、現実的な対応や方針に至らなかったのが作品を通してモヤモヤするところです。なんというか、兄弟の中の優しい世界で完結してしまって、無垢な主人公の苦悩や成長に至らなかったのが片手落ちに思えました。
後もう一つ物議を醸したのが吸血鬼の数。
人口の0.2%に相当。
日本全国で24万人。大体中学校の先生の数に相当します。吸血鬼多いな!
世界でいうと約1500万人。軽く、吸血鬼国家を作れそうな人数がいることになります。この世界大丈夫なの?
ちなみに0.2%は女性のバストHカップ以上の人の割合に相当するそうです。吸血鬼少ねえな!