津尾尋華のジャンプ打ち切り漫画紹介

週刊少年ジャンプの三巻完結以内の打ち切り漫画の紹介。時々他誌や奇漫画の紹介も。

クーロンズ・ボール・パレード  2021年

クーロンズ・ボール・パレード 全3巻 原作 鎌田幹康 作画 福井あしび 2021年

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フィジカルは弱いが分析力にたける捕手・小豆田玉緒は名門白鳳学園のセレクションをうけ、急増バッテリーながら配球センスと頭脳で相手チームを押さえ込む。しかし、セレクションに通ったのはフィジカルの強い捕手だった。

 

2年間このために備えた。結果は出した。

しかし、夢はかなわなかった。

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気落ちする小豆田だったが、バッテリーを組んだ龍堂太央に一緒に野球をしようと誘われ、そこに居合わせたスカウトの黒滝かりんにより、かつての名門黒龍山高校復活のメンバーとしてスカウトされる。訳ありの逸材選手を集めて甲子園を目指そうとする小豆田たち。名門黒龍山は復活するのか?

 

龍堂は白鳳を蹴って小豆田と同じチームを目指そうとする。

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龍堂の勧誘を断る小豆田。ここで即答せずにワンクッション置くことで、小豆田の性格を掘り下げる。好感のもてるバッテリー。

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スポーツ漫画がことごとく失敗する近年のジャンプにおいて、正統派野球漫画が成功するのか?スポーツ漫画ファンからは期待半分諦め半分で様子を窺われていた野球漫画。1話のセレクション失格後にメンバー集めに言及したことから、「オイオイオイ、死んだわあいつ」と思われましたが、2話で元名門校の理事長の孫娘によるスカウト話が出たため、3話でメンバー集結、紹介しながら練習試合という早いペースのチーム構築、試合という展開に期待がもたれました。

 

雑誌で読んでた当時

「オイオイオイ、死んだわあいつ」とおもわれたシーン

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ここから、かりんちゃんスカウトで、死亡フラグを回避したかにみえたのですが…。

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しかし、スカウトメンバーは0ということで、結局メンバー集めをすることになり、実家のおもちゃ屋が人手不足で野球ができない強打者・剣、性格に難ありだが実力は確かなショート・椿、地味ながら選球眼とキャプテンシーに優れるファースト・木戸をスカウトして、志願入部のレフト強打者・寅本、守備と走塁にすぐれるセカンド洞口が揃ったところで終盤に入ってしまいました。

 

何故メンバー集めをしてしまったのか…

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流石に全員集める時間はないと判断したのか、残り2人は追加入部してきたモブで補われ夏の大会が始まります。番狂わせを起こし中堅強豪校に勝利。続く2回戦でも苦戦しつつネームドのライバルを倒して、待ってろよ白鳳学園で俺たちの戦いはからこれからだエンド。

 

まあ誰もが思ったのが、1話で出たメンバー集めという死亡フラグに何故突っ込んだのか?です。前述したように、メンバーが集められており3話でナインが揃えば、即メンバーのキャラを立てながら試合ができ、スカウトによりある程度実力がある、だがしかし超一流ではないので成長の余地があり、小豆田の分析力を生かせる、ややクセのあるメンバーが揃えられたんですよね。一巻半まるまる費やしたメンバー集めをやる必要がなかったように思います。

 

そもそも、スポーツ漫画におけるメンバー集めは80ー90年代であれば、

①部活ができるかどうかのピンチの演出

(大概廃部寸前だったりする)

②メンバーの紹介

③0から作り上げていくワクワク感

④他分野の達人や名選手をコンバートすることよる面白み

あたりが目的なのですが、現在のスポーツ漫画で0から全国大会レベルに叩き上げるのは無理がありすぎますし、なんなら素人がスタメンに1人でもいる時点でかなり苦しいです。他分野の名選手のコンバートや0から作り上げるワクワク感ももう新鮮味がないですし、部活ができないと話にならないので①のピンチの演出の意味も薄いです。結局②メンバー紹介が目的になるのですが、1人づつメンバー紹介をしていくのは恐ろしくテンポが悪くなります。

 

H2くらいじっくり腰を据えて描けるならアリなのですが、ジャンプの高速環境でこの手段を取るのは半ば自殺に等しいです。メンバー集め自体が物語として超面白く描けるなら話は別ですが、大体メンバー集めもテンプレがあります。

 

メンバー集めのテンプレ

①両親が怪我・病気で働かなくてはいかず、部活をやる暇や金がない。類似で人手不足で家業の手伝いが必要など、経済的な問題のパターン。もろ剣のケース。

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②両親や家族がスポーツを嫌い、トラウマで部活をやらせてくれない。勉強重視のため部活ができない。家庭の方針の場合。

③名選手だったが怪我で復帰できない。

④誰かに怪我をさせたトラウマや贖罪で競技に復帰できない。

⑤才能はあるがやる気がない。色々な競技の万能選手だったり、成績は良かったが燃えないとかで主人公がライバルとなり競技の面白さを伝えるパターン。

⑥過去の暴力事件等でやる気をなくし腐っているケース。主人公の純真さに触れて、競技を好きだった頃を思い出すパターン多し。

⑦競技は好きだが才能がなくて諦めていたパターン。数集め的になることが多い。

 

大体この辺りが、集められるメンバーの特徴です。このテンプレ以外のメンバーを集めつつ面白く描ければメンバー集めもありですが、そこで苦労するくらいならメンバー揃えて試合しながら同時進行で紹介して行った方がいいと思います。どうしてもメンバー集めだと1人にスポットがあたるので、冗長になること、試合が出来上ないことあたりが辛いです。スポーツ漫画だからスポーツしてるところ見たいですよね。

 

ジャンプ歴代スポーツ漫画でも、overtime、フィールドの狼FW陣、大好王、コスモスストライカー、キララなどメンバー集め漫画はありますが、一気に勢揃いするコスモスストライカーや大好王形式くらいが限界で、最初からでているモブスタメンが話の進行とともに次第にネームドに昇格していくライトウイングや、試合をしつつモブスタメンがネームドと交代していく埼玉レグルス、FW陣方式の方がが圧倒的に読みやすいです。

 

というわけでメンバー集めを選んだ時点で詰みだった感じはしますが、椿のキャラ立てや剣との掛け合いの面白さ、ぽんこつかりんちゃんの可愛さなどから一定のファンは獲得しました。

 

ダブル主人公かと思えたピッチャー龍堂のキャラが少し弱かったですが、バッテリー、主に投手主軸になりがちな野球漫画を、強豪を倒すための小豆田の分析力と内野手コンビの絡みで見せたのは面白かったと思います。ドカベンばりのインフィールドフライを宣言されなかった内野フライの処理に関するプレイで守備力、判断力に、説得力を持たせたり、高い自尊心の裏返しとしての心理描写を入れたりと、椿と剣に関してはかなり完成度が高く、掘り下げ方もうまかったです。求道の強打者として類型的な剣と比べて椿は特に、あまり見ないタイプの選手で、ウザくなりそうなラインギリギリを攻めつつ、絶妙に好感の持てるタイプに仕立て上げています。白鳳のエースと剣との対決で、皆が実力差を思い知らされているシーンで、1人いつも怒られている剣を信じるコメントを出したり、その後部員が意気消沈する中全員を鼓舞しようとしたり、要所要所で好感度を上げてくれます。

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単行本書き下ろしでは、本誌で実現しなかった白鳳との対決が描かれており、短めながら抑えるところは抑えた決着を見せてくれます。

小豆田の分析力、龍堂の素質と1話からつながる夢と覚悟、寅本、洞口、木戸の見せ場、椿のお調子者っぷりと高い身体能力、プライド、剣の雪辱を綺麗にまとめています。

 

正直近年のスポーツ物らしく今風の、キャラの見せ方にマイナスがなく好感が持てる書き方をされており、細かなキャラクターを掘り下げるシチュエーションや会話をはさみ、野球物としても興趣は得られる作品だったので非常に惜しかったと思います。突き抜けた外連味やキャラで見せるタイプではなかったですが、もう少しじっくり書かせてくれれば、及第点は取れたのではないでしょうか。

 

次回作に期待です。