津尾尋華のジャンプ打ち切り漫画紹介

週刊少年ジャンプの三巻完結以内の打ち切り漫画の紹介。時々他誌や奇漫画の紹介も。

アメノフル  2021年

アメノフル 全3巻 原作 たけぐし一本 作画 みたらし三大 2021年

 

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水瀬ツムギはペロペロキャンディのお菓子使い。東京を滅ぼしたペロペロキャンディのお菓子使いと間違われないように正体を隠して暮らしていた。しかし、暴走したお菓子使いを止めるためにお菓子警察〈ルセット〉のメンバー三鳥ミサキの前で能力を使ってしまう。ツムギは冤罪をはらし、真犯人のペロペロキャンディ使いを捕まえる事ができるのか?

 

評価に悩む打ち切り漫画、正直、魅力的なキャラ、速い展開、画力の最低ラインは満たした上でうまく噛み合わなかったような作品です。

 

「お菓子使い」という見た目と語感のインパクトを武器にはじまったの能力バトル。ただ、学園で能力物で反政府組織と、公的組織が能力で戦うのはヒロアカなんですよね…。主人公がヒロイン、内容がコメディ、能力がお菓子由来というところで差別化を図ろうとしているのはわかるんですけど、「お菓子使い」という概念が、「スタンド」や「個性」「念能力」と比べると能力の幅や凄さがストレートに伝わりにくすぎました。

 直接キャラクターの内面と結びつける事ができる「スタンド」「個性」「念能力」と違い、「お菓子使い」の場合は、どのお菓子が選択されているかというのがキャラクターの内面と結びつきにくく、尚且つお菓子自体が幅広いニュアンスを含んでしまうため、このお菓子使いだからこういうキャラというイメージがない上に、このお菓子ならこういう能力というのも伝わりにくかったです。ガムとグミはまあわかりますけど、ポップコーンでギリギリ、ペロキャン、マカロン、ドーナツあたりはかなり苦しい。また、「スタンド」「アルター」ならビジュアルでイメージを見せることもできますがお菓子使いは既存のお菓子のビジュアルから外れる事ができないため、かなり扱いにくい設定となってしまいました。

 

アバウトな能力の定義が最後の逆転の肝になる構図なんですけど、定義ができていないので、各キャラの能力の幅がわからない。そのため能力バトルの中核となる、「出力差でなく能力の相性や使い方で勝つ」という部分の面白みが薄いです。そもそもなぜ、お菓子が出てくるのか、召喚なのか、なんらかの物質から具現化しているのか、精神エネルギー的な物なのか、体から精製されているのか、それがお菓子なのは何故か、何故特殊効果が付与されているのかなどの説明が何もないため話に入り込みにくかったです。

 

ツムギのペロペロキャンディでさえ、サイズ自由で具現化可能、硬度の調整が可能、柄の部分は伸縮自在の直接打撃武器だが小さいサイズを飛ばす事で飛び道具としての使用も可能という自由度が高すぎる仕様。近中遠距離までカバーする物理攻撃のお菓子。解釈の幅が広いのはいいんですけど、能力に対するなんらかの納得感が欲しかったかなあ。それこそ、内面の発露たる「念能力」や「スタンド」なら能力の本質は己の心、認識次第で能力の幅は広がるとかでもよかったと思うんですけど、その辺りの掘り下げもないんですよね。

 

 メインキャラの1人入江先輩はバニラアイスクリームのお菓子使いで、物理攻撃以外に凍結能力をもつのですが、チョコアイスや、ミントアイスなど他のアイスや、シャーベット、かき氷など氷菓子系の能力は入江先輩以外いないのか?いるなら同じ能力なのか、ミントアイスとバニラアイスの能力差は?など瞬時に疑問が浮かんできます。

作中では、ペロペロキャンディ、ドーナツ、マカロン、バニラアイス、ポップコーン、グミ、ガムのお菓子使いまでで結局被りはしなかったのですが、おかしに紐づけてる能力なのにお菓子から能力が想像しにくいのはマイナスだったかなと。

 

結局、これだと普通の能力にした方が飲み込みやすく、あえて「お菓子使い」にしたことによる作品上のメリットが感じにくかったです。

 

立ち絵はかっこよかったですが
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能力バトルなのに上記の理由から駆け引きがほぼないバトルなのが残念でしたが、反面掛け合いは面白く、途中から吹っ切れたようにキャラが魅力的になりました。

 

味方の逃すために攻撃を受けてやられた隊員をダセーと馬鹿にする敵お菓子使いの、

「ダセいっていうのはそいつみたいなやつのことだろ?」「それと比べて、俺のどこがダサいって?」

を受けて

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ペロペロキャンディ使いというのを秘密にして友達を守る為に戦っていると勘違いした敵の

「心あたりがあるだろ?こいつらに言えない後ろめたい事が…」

を受けて

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この辺りのノリは好きだったので、最序盤からコメディ全振りにするか、開幕からお菓子使いとのバトルは突入すればテンポ良く進行したと思うんですけど。

 

 

 話自体はスムーズに進行しており、1話→世界と主人公と相棒の紹介、3話→頼れる味方入江先輩登場、6話→ルセット(お菓子使い組織)への入隊試験、8話→悪のお菓子使いの侵攻とサクサク進みます。よく言われる展開が遅いわけではないんですが、ペロペロキャンディ使いとバレると終われるので正体を隠さないといけない設定が足を引っ張り能力が開示しにくい、身代わり兼協力者が必要、その身代わり隊員ミサキが個性が薄い事が序盤の印象を悪くしました。

更に、試験編で新キャラ•マモルと手を組まされるんですが、ミサキのキャラも曖昧なのにもう次の相棒出すの?しかも2人ともお菓子使いではないのでバトル的には戦力外で、結局戦うのはツムギなんですよね。なんでこの2人分けたんでしょう…?

 

中盤で展開したような、正体を隠して戦うツムギと、その手柄を請け負うためどんどん勘違いされて階級が上がっていくミサキをやりたかったのか、番外編で描いたようなマモルの恋の迷走を描きたかったのか、どうにもストーリーの進行を支える脇キャラが、キャラが立たないまま話に放り込まれていくので、こんなのも描きたいという作者の嗜好が先走った、とっ散らかった印象を受けました。 

 

 愚直な味方のやられるところを見せて、敵を撃つ展開や、敵の嫌なところを見せて、溜めてでかい一撃を食らわせることで爽快感を出す作劇はうまかったので、ミサキやマモルと1話からルセット入隊仲間にして、手柄あげながら3人組でのしあがっていくか、ペロキャン被りの設定をやめて、ルセット育成枠の機体のお菓子使いとして登場させ、五菓子(ステラアントルメ)と絡めたバトルメインにすれば、早めに強キャラを出すことができて、バトルの幅も広がり話もスッキリした気はします。

 

ルセット五菓子の1人入江先輩は、とぼけたキャラクターと強キャラ感、なんだかんだでいい人というキャラ造形でファンも多かったので、同じくらい強力なキャラを序盤に敵味方に配置できれば化けたと思うんですけど、ちょっと敵に魅力が薄かったです。まあ、これは尺を使えなかったというのもあるとは思うんですけど。単行本収録の特別番外編では本編でのフォロワーが少なかったマモルと敵のお菓子使いにスポットが当てられています。

 

ボケキャラから入って

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強キャラ感

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で、基本的にはいい人という美味しいキャラ造形

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なんか文句ばっかり書いてしまった気もしますが、悪くはない出来だったと思います。ちょっと煮詰めきれてなかったかなと。次回作に期待です。