地球の子 2022年
地球の子 神海英雄 全3巻 2022年
ライトウイング(https://utikirimanga.hatenadiary.com/entry/2021/07/07/130650)で爪痕を残し、ソウルキャッチャーズでファンを確保した神海先生の新連載。
第一話のクオリティはメチャクチャ高く、世界の危機を救う強力な超能力者・星降かれりと、普通の高校生・佐和田令助の出会い。惹かれていく2人、通常の幸せが手に入らないというジレンマ、恋愛の成就、結婚、出産、幸せの絶頂からの地球を救うためにかれりさんが犠牲になるしかないという展開をうまくまとめていました。津尾さんも、こいつは来たぜ!と思いました。
恋愛パートをじっくり描き
地球よりも夫と子供とために死地に向かう妻。
どうすることもできない現実。
令助の悲しみを丁寧に描きました。
ソウルキャッチャーズの名場面より「全然、良くなかった。 最高(ファンタスティック)だった」と言うフレーズがTwitterを飛び交い。「俺たちの神海っちゃんが帰ってきた!」とお祭りだったのですが、一話で物語を支えたヒロインが退場してしまったため、この後どうするの?という不安を持つものも散見されました。
津尾さんてっきり二話から、子供が成長して主人公交代するかと思ってました。まあ考えられるパターンとしては、
①子供が成長して、次の地球の子として地球の危機と戦う
②主人公はそのままで、かれりさんもしくは新たなキャラとの関係を軸に話作る
③父親主人公の育児もの
あたりなんですけど、まさかジャンプで③を選択するとは……。
リアル路線の恋愛物でもなく、エスパーが出てきて何者かと戦う話で主人公が無能力者なのは結構な賭けだったと思います。尚且つ、メインターゲットの読者層が共感できなさそうな育児話。この時点でかなり危険な香りがしていました。
強大な力を持った無垢なる赤子、地球の運命を左右する子をどう育てるか?が、主題であるため、2話から5話まで4話かけて、強大な超能力を持つ赤子・衛をそだてる覚悟と苦難、絆を描くんですけど、令助の情熱が先走りすぎて既婚者子持ちの津尾さんでもちょっと感情移入しずらいです。
子育て物って、どんなに全力をつくしても何度同じことを注意しようと、子供の動きは予測できないし、子供の意思を都合よく変える事はできないし、繰り返す無力と徒労とやるせなさと、絶え間ない努力と押し寄せてくる日常と理不尽の中で、それでも報われる時があるよ。報われた次の瞬間にはまた怒涛の日々が始まるけれど。という子育ての難しさと、それでも存在する日常の中の輝きというのが話のキモだと思うんですけど、この話4話かけて、大きな山を一つ変えたら子育てパートが解決してしまうんで、子育て物としては話が薄く、ジャンプ漫画としてはヤマが少ないというどっちつかずな内容になってしまいました。
ちょっと抽象的というか…
6話からは先代地球の子・アルベールが登場して本格的にかれり救出作戦が始まります。
神海っちゃんぽいキャラもでてきたし、本領発揮かぁ〜?と期待する声もあったのですが、ドラマはイマイチ盛り上がりません。具体的な敵とかじゃなくて困難な状況と戦う話で、読者が解決法を模索できるタイプの話でもないため、とにかく受け身になってしまうんですよね。
先代地球の子・アルベール
ISSに向かい、デブリとなったかれりを衛の念動力で静止する計画を立てるのですが、衛とアルベールと訓練を行い、ISSに到着。かれりさんのデブリを止める為には、赤ちゃんの衛にデブリをかれりさんと認識してもらわなければならない。さあ、どうする?って、ISSについてからその話するの? 事前に準備しろぉ! 案の定、このままじゃ無理だから一回地球に戻ってかれりさんの実家に行くことになります。あのー、ISSに行くパート必要でした? 気軽に地球と宇宙を行ったり来たりするんじゃないよ。宇宙兄弟に謝れ。
作中で言えば無計画な上に、構成上だと一旦宇宙にいく必要性がわからない
実家に帰って衛はデブリを彼らさんと認識して救出作戦が始まるのですが、一連の、「超能力を無差別に使わない分別をつける」、「令助との絆を確認する」、「かれり救出のために空を飛ぶ」、「宇宙空間でデブリを弾く」などおそらく年齢十ヶ月程度の衛ができるようになるまでのハードルな恐ろしく高いはずなのに、あっさりと乗りこえてしまいます。この辺りの聞き分けが良すぎるため、育児物というよりは舞台装置のようになってしまったのもマイナスでした。反面恋愛パートは丁寧に描かれているので、テーマが家族と育児なのに、焦点は夫婦・恋愛になってしまって、ますます衛の存在が空気に。
恋愛パートは丁寧で見せ方もうまい
コマの使い方も贅沢
結局、愛の力でカレリさんを救うことに成功するのですが。その最中全ての黒幕、「地球の子」を作り能力をあたえ、地球を守る為の仕組みを作った存在が現れます。その正体はメスガキ「地球ちゃん」。地球を平和に保つことだけが目的のため、「地球の子」に異常を起こす令助を取り除こうとする存在。
いつか来る地球との戦いを予感させつつ、カレリ救出劇は幕を閉じます。そして六年後。
メスガキ地球ちゃん
ショタ衛、カレリ、令助の3人で地球の子としての任務をこなす日々の中、再び地球が現れます。
この辺りの、ラスボスは地球、力を与えた親たる存在にして神に近しい物。地球を感情に保つことだけが目的で人間を歯牙にもかけない存在。という壮大さにその神たる存在がメスガキ女子高生というギャップはいい見せ方だとは思うんですけど、神と戦うには積み重ねたエピソードが弱かったかしら。ちょっと作者の情念が先走りすぎた感がありました。まあ、ここでまとめるのには仕方ないのかしらね。
人をなんとも思っていない地球ちゃん
結局地球と和解し、三人は地球を守る為に働く。地球はそれを監視して、力が及ばないならば排除するということで、三人の日常は守られます。
衛の成長と、変わらぬ夫婦の愛を描いてエンド。具体的な敵がいるなら早く出したかったし、連載が長く続いてエピソードの積み重ねがあれば地球ちゃんとの戦いが締まったかなという感じ。綺麗にまとまってはいるんですけどね……。
結局1話のインパクトが超えられない事が痛かったです。三人家族で過ごさせてあげたいし、カレリさんをほっとくのも構成上やりにくかったんでしょうが、2話で七年後→アルベール登場→カレリ救出作戦開始→地球ちゃん登場あたりを一巻で一気にやるくらいのヤマを作らないとジャンプでは厳しいんでしょうね。
ところで、1980年から42年の3巻完結以内の打ち切り漫画について、315件の記事を書いてきましたが、津尾さん体調を悪くしてしまったので、ここで一旦このブログの更新は停止致します。地球の子だけは2巻まで書いていたので更新しましたが、エリエリ、すごいスマホあたりは来年に回復したら……に、なります。
目を通してくれていた方ありがとうございました。