地球の子 2022年
地球の子 神海英雄 全3巻 2022年
ライトウイング(https://utikirimanga.hatenadiary.com/entry/2021/07/07/130650)で爪痕を残し、ソウルキャッチャーズでファンを確保した神海先生の新連載。
第一話のクオリティはメチャクチャ高く、世界の危機を救う強力な超能力者・星降かれりと、普通の高校生・佐和田令助の出会い。惹かれていく2人、通常の幸せが手に入らないというジレンマ、恋愛の成就、結婚、出産、幸せの絶頂からの地球を救うためにかれりさんが犠牲になるしかないという展開をうまくまとめていました。津尾さんも、こいつは来たぜ!と思いました。
恋愛パートをじっくり描き
地球よりも夫と子供とために死地に向かう妻。
どうすることもできない現実。
令助の悲しみを丁寧に描きました。
ソウルキャッチャーズの名場面より「全然、良くなかった。 最高(ファンタスティック)だった」と言うフレーズがTwitterを飛び交い。「俺たちの神海っちゃんが帰ってきた!」とお祭りだったのですが、一話で物語を支えたヒロインが退場してしまったため、この後どうするの?という不安を持つものも散見されました。
津尾さんてっきり二話から、子供が成長して主人公交代するかと思ってました。まあ考えられるパターンとしては、
①子供が成長して、次の地球の子として地球の危機と戦う
②主人公はそのままで、かれりさんもしくは新たなキャラとの関係を軸に話作る
③父親主人公の育児もの
あたりなんですけど、まさかジャンプで③を選択するとは……。
リアル路線の恋愛物でもなく、エスパーが出てきて何者かと戦う話で主人公が無能力者なのは結構な賭けだったと思います。尚且つ、メインターゲットの読者層が共感できなさそうな育児話。この時点でかなり危険な香りがしていました。
強大な力を持った無垢なる赤子、地球の運命を左右する子をどう育てるか?が、主題であるため、2話から5話まで4話かけて、強大な超能力を持つ赤子・衛をそだてる覚悟と苦難、絆を描くんですけど、令助の情熱が先走りすぎて既婚者子持ちの津尾さんでもちょっと感情移入しずらいです。
子育て物って、どんなに全力をつくしても何度同じことを注意しようと、子供の動きは予測できないし、子供の意思を都合よく変える事はできないし、繰り返す無力と徒労とやるせなさと、絶え間ない努力と押し寄せてくる日常と理不尽の中で、それでも報われる時があるよ。報われた次の瞬間にはまた怒涛の日々が始まるけれど。という子育ての難しさと、それでも存在する日常の中の輝きというのが話のキモだと思うんですけど、この話4話かけて、大きな山を一つ変えたら子育てパートが解決してしまうんで、子育て物としては話が薄く、ジャンプ漫画としてはヤマが少ないというどっちつかずな内容になってしまいました。
ちょっと抽象的というか…
6話からは先代地球の子・アルベールが登場して本格的にかれり救出作戦が始まります。
神海っちゃんぽいキャラもでてきたし、本領発揮かぁ〜?と期待する声もあったのですが、ドラマはイマイチ盛り上がりません。具体的な敵とかじゃなくて困難な状況と戦う話で、読者が解決法を模索できるタイプの話でもないため、とにかく受け身になってしまうんですよね。
先代地球の子・アルベール
ISSに向かい、デブリとなったかれりを衛の念動力で静止する計画を立てるのですが、衛とアルベールと訓練を行い、ISSに到着。かれりさんのデブリを止める為には、赤ちゃんの衛にデブリをかれりさんと認識してもらわなければならない。さあ、どうする?って、ISSについてからその話するの? 事前に準備しろぉ! 案の定、このままじゃ無理だから一回地球に戻ってかれりさんの実家に行くことになります。あのー、ISSに行くパート必要でした? 気軽に地球と宇宙を行ったり来たりするんじゃないよ。宇宙兄弟に謝れ。
作中で言えば無計画な上に、構成上だと一旦宇宙にいく必要性がわからない
実家に帰って衛はデブリを彼らさんと認識して救出作戦が始まるのですが、一連の、「超能力を無差別に使わない分別をつける」、「令助との絆を確認する」、「かれり救出のために空を飛ぶ」、「宇宙空間でデブリを弾く」などおそらく年齢十ヶ月程度の衛ができるようになるまでのハードルな恐ろしく高いはずなのに、あっさりと乗りこえてしまいます。この辺りの聞き分けが良すぎるため、育児物というよりは舞台装置のようになってしまったのもマイナスでした。反面恋愛パートは丁寧に描かれているので、テーマが家族と育児なのに、焦点は夫婦・恋愛になってしまって、ますます衛の存在が空気に。
恋愛パートは丁寧で見せ方もうまい
コマの使い方も贅沢
結局、愛の力でカレリさんを救うことに成功するのですが。その最中全ての黒幕、「地球の子」を作り能力をあたえ、地球を守る為の仕組みを作った存在が現れます。その正体はメスガキ「地球ちゃん」。地球を平和に保つことだけが目的のため、「地球の子」に異常を起こす令助を取り除こうとする存在。
いつか来る地球との戦いを予感させつつ、カレリ救出劇は幕を閉じます。そして六年後。
メスガキ地球ちゃん
ショタ衛、カレリ、令助の3人で地球の子としての任務をこなす日々の中、再び地球が現れます。
この辺りの、ラスボスは地球、力を与えた親たる存在にして神に近しい物。地球を感情に保つことだけが目的で人間を歯牙にもかけない存在。という壮大さにその神たる存在がメスガキ女子高生というギャップはいい見せ方だとは思うんですけど、神と戦うには積み重ねたエピソードが弱かったかしら。ちょっと作者の情念が先走りすぎた感がありました。まあ、ここでまとめるのには仕方ないのかしらね。
人をなんとも思っていない地球ちゃん
結局地球と和解し、三人は地球を守る為に働く。地球はそれを監視して、力が及ばないならば排除するということで、三人の日常は守られます。
衛の成長と、変わらぬ夫婦の愛を描いてエンド。具体的な敵がいるなら早く出したかったし、連載が長く続いてエピソードの積み重ねがあれば地球ちゃんとの戦いが締まったかなという感じ。綺麗にまとまってはいるんですけどね……。
結局1話のインパクトが超えられない事が痛かったです。三人家族で過ごさせてあげたいし、カレリさんをほっとくのも構成上やりにくかったんでしょうが、2話で七年後→アルベール登場→カレリ救出作戦開始→地球ちゃん登場あたりを一巻で一気にやるくらいのヤマを作らないとジャンプでは厳しいんでしょうね。
ところで、1980年から42年の3巻完結以内の打ち切り漫画について、315件の記事を書いてきましたが、津尾さん体調を悪くしてしまったので、ここで一旦このブログの更新は停止致します。地球の子だけは2巻まで書いていたので更新しましたが、エリエリ、すごいスマホあたりは来年に回復したら……に、なります。
目を通してくれていた方ありがとうございました。
守れ!しゅごまる 2021年
守れ!しゅごまる 全3巻 伊原大貴 2021年
ジャンププラスで話題となった「恋するワンピースを休載して本誌に殴り込んだ伊原大輝先生のボディガードギャグ漫画。
王城財閥の一人娘、王城さなぎは暗殺者「スカル」に命を狙われたことから、ボディーガードの10歳の少年しゅごまると行動することになる。守るためには周りが見えなくなるしゅごまると普通の彼氏を作りたいさなぎの高校生活が始まった!
という学園コメディ。
ロボコ、ウィッチウォッチ、高校生家族、マグちゃんの4本連載中に5本目のギャグ漫画となったのはタイミングが悪かったですが、内容的にも、HIKAKIN、マグちゃん、遊戯王などの飛び道具が多かったのが評価を下げてしまいました。ウケてる人にはウケてるんですけど反感もかったというか。
なんでしょう、M1でドラえもんネタをやるみたいな、自力で勝負してない感が……。後半の遊戯王カード推しもそういうわけで賛否両論。
HIKAKIN(実写)の登場
マグちゃんの終わった次の週にマグちゃん
怒涛のデュエル
オリジナルゲーム回とか、バーバパパ回なんか普通に面白かったので、もう少し他に足をつけてやってもよかった気がするんですけど、飛び道具が続いたのはちょっと残念でした。
この手のギャグ漫画としては、ギャグをやりながらメインキャラを増やしていき物語の幅を広げることをきっちりやっており、レギュラーとして蛇原、小福ちゃん、藤井、葵、セミレギュラーとしてスラッシュ滝沢、愛照が配置され、更にちびっこボディーガード投入でキャラクターは揃っていました。
増えたキャラをバトルや長めのエピソードで有効活用しきれなかったのが少し痛かったです。ちびっこボディーガードの対決回とかはちょっと弱いんですよね。ただ、蛇原の葵ちゃんを落とす回の様なキャラを活かした回もありました。
オリジナルゲーム回
オチンチン回とかHIKAKIN回とか小学生男子の心をがっちりつかむような要素はありましたし、ジャンプに少ない低年齢向け作品としては悪くなかったと思うんですけど、ちょっと飛び道具多めなのと、低年齢なのか大人向けなのかターゲットが絞りきれてない部分はありました。
オチンチン回
単行本書き下ろしではスラッシュ滝沢の切ない思いが描写されるのですが、葵ちゃん回とかしゅごまる成長回とか意外と恋愛方向のエモさの描写が上手いので、エロなしの年齢差ラブコメ方面に注力してもよかったかもしれません。
しゅごまる成長回
この裏でスラッシュ滝沢は切ない事に
終盤は振り切れたのか一話丸々遊戯王デュエルをしていたりするのですが、現在本誌に掲載されてない遊戯王のデュエルがわかる人はどれくらいいたんでしょうか。ここなんかはっきり大人向けになってしまっているミスマッチがありました。まあ、打ち切り決まってからなので、やってみたかったことをやっただけかもしれませんが。
最終的には、しゅごまるが無差別に世界を破壊していく殺戮兵器であることが判明して、兄弟から殺されそうになるところを仲間たちとさなぎで救出して、めでたしめでたし。最後のしゅごまるからさなぎにあてた手紙「おかあさんみたいだった」が泣かせます。津尾さん母のような姉のような恋人のようなお姉さんキャラ大好きだからよ……。
単行本には書き下ろしエピソードとして5年後のエピローグが掲載。ちなみに2巻にも一話分の暗殺者とのバトルが書き下ろされています。割と綺麗に纏まっているので読後感はいいですし、エピローグも満足のお話。ターゲットが分散してしまったとか、色々やったけど突き抜けきらなかった面はありますが、好きな人は好きだったろうなという作品でした。
ただ、削除されてしまいましたが、作者が出した謝辞は余計でした。
連載終了後にTwitterで、「自分が信じきれないものを世間に出した」とか「自分、もっと面白い物かけます」とか書いちゃうのははカッコ悪かったと思います。
アヤシモン 2021年
アヤシモン 全3巻 賀来ゆうじ 2021年
ジャンプ+で連載の「地獄楽」でスマッシュヒットを飛ばし、アニメ化も決定した賀来ゆうじが本誌に凱旋した期待の作品。師匠の藤本タツキの「ファイアパンチ」→「チェンソーマン」と同じルートであり、奇しくも次の週から連載された伊原大貴の「恋するワンピース」→「守れ!しゅごまる」も同様のルートで本誌掲載を決めていました。
「妖しき裏社会バトル」というキャッチコピーが用意されていましたが、ジャンプのキャッチコピーは「ロマンホラー真紅の秘伝説」とか「日本一慈(やさ)しい鬼退治」とか割と訳のわからないものが多いので、まあご愛嬌。
話としては、極道+妖怪+バトルという形態で、ジャンプヒーローに憧れて特訓をしたことによって訳がわからないほど強くなってしまった人間の少年マルオが、1990年代の新宿で、大親分が死んで覇権を争う妖怪極道の抗争に首を突っ込んでいくというお話。
キン肉マン、悟空、承太郎に憧れるバトル大好きな少年マルオ
90年代ジャンプヒーローをフックに、めちゃくちゃ強いがモブ顔で単純バカな主人公がバトルでスカッと悪役をぶちのめしていく話のつくり。なんですけど、アウトラインの時点で、「ワンパンマン」とか「マッシュル」の系統が頭に浮かぶので、特に連載中のマッシュルと競合しないように見せなければならないというハードルがありました。
マッシュルが、すごい魔法!それを上回る筋肉!という相対的に「凄さ」を見せるメソッドを確立していたので、すごい妖術!それを上回るパワー!というだけでは新規性がうすかったです。かと言ってこの設定では頭脳戦は厳しいというジレンマはありました。一応、姐さんという頭脳担当のバディがいるという強みと90年代ヒーローというとっかかりは作っていたんですけど、あんまり活かせませんでした。
マルオの親になるウララ姐さん
父の死の真相、復讐、歌舞伎町の天下取り、復讐のコマとして使うマルオとの関係と、精算する関係性の多いもう1人の主人公
連載は、マルオとバディとなるウララが出会い、ウララの父「鬼王」がつくった炎魔会の後継争いに名乗りを上げるべく歌舞伎町に向かうパートを描きつつ、アヤシモンやタイマンの儀、歌舞伎町の状況について説明していくんですが、特に敵がパワーアップしていくわけでもなく、ドラマ性があるわけでもなく、マルオが凄いパワーで敵を倒すだけの話が続いたのは序盤の挙動としては訴求力が弱かったと思います。マッシュルと比べても爽快感がうすい。一撃で決まる勝負なら対戦相手にフックが欲しいところで、折角相手が極道なので凄い嫌な奴とか悪い奴にすれば爽快感上がりましたのにね。
ドラマ性がウララ頼りで、橋姫の話なんかは良かったと思うんですけど、マルオ側は「戦いたい」しかないんでバトルにあんまりコクがない。
あとこの漫画、全体的に極道である必然性が薄いんですよね。人間界に潜む妖怪の勢力争いをあえて極道にした意味があまり感じられません。
金が依代になるから金を集めないといけないという設定はありますがこれもあまり話に絡んでこないですし、まともな職につけないから極道をやるしかないのか、非合法な手段でも金が必要なのか、妖怪が個人行動していたら狩られるので集団を作らないといけないのか、妖怪の性質的に極道が向いているのか、その辺りの描写がない上に、極道らしいシーンがないです。
シマ争いは流石にしてるんですけど、みかじめ料を取るわけでも、企業マフィアをやるわけでも、賭場を開くでも、シャブを売るわけでもなく、女を沈めるわけでもない。かと言って古のヤクザみたいな義兄弟になったり、仁義を重視したり、侠客として弱いものを守るわけでもない。悪役としての反吐が出るような弱者を骨までしゃぶるような描写や、オラつく描写もない。
極道らしいのは、マルオとウララが盃交わすところと、ウララの刺青要素くらいじゃないですかね……。
金が依代で単純に死にはしないアヤシモン
勝負の結果が確実に履行されるタイマンの儀
6話からは、当面のボスとなる二代目炎魔会会長「独歩」が登場。ボスの顔見せ、マルオの力不足、初代会長「鬼王」の死に何か事情があったことあたりを提示するんですが、この、序盤の敗北イベントってに6話かけたのは悪手でした。話数をかけた割にラスボスがあんまり魅力的じゃないということもそうですが、負けイベントなのに、さらに謎の提示ばかりなので読んでて全くスッキリしないです。何故、独歩はウララが鬼王の娘と気がついて泣いたのか、独歩は何の妖怪なのか、ウララを生かしておかない理由は何か、街のためとはどういう意味なのか、角彫の秘密とはなんなのか、鬼王の死の真相とは、怒涛の匂わせです。あと馬鹿だけど最強系の主人公かと思ったらあっさり敗北するのである強い主人公を見たかった人たちには期待外れな展開だったんじゃないでしょうか。
ビジュアル的にも雑魚っぽいんですよね。独歩。
そして、炎の妖怪だから攻撃が効かない。
ロギアかよ。
何やら因縁があることは匂わされるんですが、この因縁が解明されることはありませんでした……。
この後、敗北して、リベンジのために元炎魔会のグループ轟連合に接触して仲間を増やしていきます。ようやく本筋に戻ってマルオとネームド妖怪のバトル、ついでに仲間になったテンの見せ場、バトルはまあスッキリして良かったのですが、水に触れさせないと攻撃の当たらない敵ってまたワンピくさいわね。
元炎魔会四大勢力の暴走族、轟連合のトップ・コットン
なんかこうこういうカッコいい現代アレンジ妖怪とスタイリッシュバトルしていってた方が良かった気がします。
続いて仲間を増やすために、四大勢力の次なる組織に声をかけよう、というところで打ち切りが決まってしまったのでしょう。
四大勢力の一つを倒した新キャラは尻子玉を抜いた後登場しませんでした。
尻子玉を抜くためだけに登場したカッパ妖怪の女
お前なんだったんだよ……。
最後の方は怒涛の打ち切り展開で、概念を攻撃する力、まあ覇気なんですけど、を特訓で身につけたマルオが一度負けた独歩のコピーを倒し、仲間を増やして本当の独歩と戦うところで話は終わります。
俺たちの戦いはこれからだ!
結局、陰陽寮は顔を見せただけ、一匹狼のアヤシモン・志良もでず、鬼王の謎はわからずじまい、カッパは尻子玉抜いただけ、極道要素は殆ど消化できず、ジャンプヒーローはあまり絡んでこないという消化不良感。
これ、レッドフードなんかもそうですけど、事前に設定を練り込みすぎて、用語解説と謎の提示をやって話が進まないうちに人気が取れずに打ち切られてる感じなんですよね。多分本当のラスボスはラスボスで考えられていて、「事情があって悪人ヅラしている責任を負わされて背伸びしている小物」みたいなポジションに独歩がいる。
そうすると微妙なビジュアルとかにも納得がいくんですけど、話がそこまですすまないんで、「微妙なビジュアルのラスボスと戦うところまで行かない話」というメチャクチャ中途半端な話になってしまっています。
凄い強いマルオがバンバン悪い極道妖怪を倒していくお話の爽快感で序盤をひっぱるか、さまざまな妖術を使う妖怪に対してパワーのマルオと頭脳のウララで戦うバディ能力バトル形式でバトル自体の面白さを押し出すか、ほったらかしにされた隠し子ウララが跡目争いに参戦しつつ父の思いに気づいていくドラマメインにするか、どれかに絞っていたらもう少し纏まった話になったと思うんですけど……。ちょっと序盤に欲張りすぎたかな……。
キャラクターデザインや画面の見せ方は上手かったので、一部で評価は高いです。
まあ、少しもったいなかった作品でした。
番外編 神緒ゆいは髪を結い
神緒ゆいは髪を結い 全4巻 椎橋寛 2019年
「ぬらりひょんの孫」の椎橋寛先生によるスケバンバトル漫画。最近なんで覚えてる人も多いと思いますが割と経緯に謎の多い作品です。金・容姿・頭脳に恵まれたちょっと性格に難のある鍵斗が一目惚れしたスタイル抜群でお淑やかな美女・ゆい。しかし、清楚な白ゆいが鎖を解くと伝説のスケバンになるのだったというラブコメ。というより初期は割とエロコメよりだったのですが、15話より突然ご当地スケバン変態バトル物に路線変更します。
初期はTOLOVEるみたいな展開。
この手の漫画にしては、ハイスペックでいけすかないイケメンである鍵斗を主役にしたのはウケが悪かったと思います。まあ、後の布石だったのかもしれませんが…。
ラブコメが不評でバトルに移行したのかと思いきや、一巻の袖を見ると初期タイトルが「スケバン猛将伝」。アナクロすぎてダメ出しされたのでエロコメ路線をミックスしたのか、リボーンみたいな日常→バトルをやる予定だったのかこの辺りが不明ですが、読んでる側としては急激な路線変更に戸惑いました。
表紙の絵柄などかなり頑張って今までの作風と変えていたあたりは好感が持てますが、正直ラブコメ路線は新鮮さがなかったので、1周回って新しいご当地スケバンの方が好みではありました。実際SNSでも盛り上がっていたと思いますが、この路線が固まり切る前に連載終了が決まってしまったのが痛かったです。
表紙絵はかなり絵柄をかえてました。個人的にはかなり好み
見開きスケバン対決+描き文字が出たのが三巻の頭。この後、死のバイオリンスケバン、人造スケバン、日本最古のスケバン、怪光線お釈迦スケバンとどんどんと常軌を逸した能力バトルになるとともに盛り上がってきたのですが、時すでに遅し…。
蟲を利用して少女を戦士(スケバン)にする。この設定を早く出しておけば…
いや、それにしてもスケバン達が山風忍法帖並みの異能を使う理由としてはよくわからないんですけど、音を聴くと死に至るバイオリンやら、人形と同じ運命を辿る力やら、エネルギー波を出す能力ですよ?
フランス外人部隊より御庭番衆より強いスケバン
終盤登場したお釈迦スケバンに至っては、令和の時代に「シャカの目が開いたーっ!」を目にすることになるとは思いませんでした。まあ、ここは流石に連載終了が決まってはっちゃけていたのかもしれません。しかし、序盤から怪光線お釈迦スケバンくらいはっちゃけてくれていれば忍者と極道みたいになれたかも…。惜しかった。
まあただ、序盤の日常系エロコメ(ファンタジーの度合いがゆいの二重人格くらい)から突然のスケバンバトルという落差にやられた面もあると思いますので、1話から都道府県スケバンバトルを全面に押し出されていたらここまで心に残る作品にはなってなかったかもしれません。さじ加減の難しいところ。
コミックのスペースで披露されるご当地スケバンが哀愁をそそります。津尾さんは岐阜の木刀二刀流スケバンが好みでした。
登場しなかった巨大化スケバン、闇照大御女神スケバン、脳漿スケバンフリッカ、分裂スケバン、地獄基地スケバン、播州皿スケバン、装甲師団マッドスケバンあたりも見たかったですね。
というわけで番外編も今回で終了。
4、5巻完結の打ち切り漫画のとしては、比較的名作の声の上がる「タイムウォーカー零」、「マインドアサシン」、「みえるひと」や「ワークワーク」、伝説のプレリュード「タカヤ」、小畑先生の原点「サイボーグGちゃんG」、ジャンプでやるには地味すぎた「影武者徳川家康」、最近でもちょっとやりたいことがわかりにくかったけど人気はあった「ニライカナイ」、最後の超大物「サムライ8」なんかがあるのですが、まあその辺りは機会があれば……。
番外編 賢い犬リリエンタール
賢い犬リリエンタール 全4巻 葦原大介
ワールドトリガーの葦原大介先生のデビュー連載。ジャンプっぽくないハートフルコメディの為連載期間は短いけれど、葦原エッセンスは感じ取れます。理詰めの考察展開や、軽妙な掛け合い、ちょっと変わったキャラクターなど、「らしい」お話。
兄と2人で暮らすてつこは、ある日海外を飛び回る両親から不思議な力をもったしゃべる犬・リリエンタールを届けられる。リリエンタールは不思議な現象を起こし、2人はリリエンタールと謎の組織の起こす騒動に巻き込まれていく。
リリエンタールが光ると不思議なことが起こる
リリエンタールが凄くいい子な上、登場キャラクターが謎の組織のメンバーを含めてほとんど悪役がいない為、優しく、心地よい物語になっています。パンチは弱かったんでしょうが、もう少し続いてもよかったと思わせるできでした。
謎の組織の一員、紳士。
チェスで勝つために初心者を探してチェスの相手をさせる。リリエンタールと勝負するが、会話も勝負もゆるゆるである
でも結末はいい話
あと、ゆきちゃん可愛い。
終盤ややバトル展開に入りますが、バトルも悪くなく、ワートリにつながる片鱗が伺えます。
クールスーツ美女のバトルカコイイ
拳法使いのてつことメカの天才の兄、面白いもの好きのゆき、幽霊のマリー、組織の紳士、サングラス、スーパー宇宙猫、ライトニング光彦など、キャラが多いわりに立ち位置が纏っているのでスッキリ読めます。
とにかく健気なリリエンタールが可愛いく、周囲のキャラにも悪意がないので、ほのぼの路線が好きならオススメです。長く続けばルーミックワールドみたいになっていたかも…。
「おことわる」とか「ごぼうむき」とか緩い言語センスが好き
サムライうさぎとか、背筋をピンと!とかもそうだったんですが、恐竜大紀行や惑星を継ぐものとは別の意味でジャンプに求められるテンションではなかったですね。この終わりのない学園祭感で掲載時にはサンデー向きの作家さんかなと思ったんですが、次作で見事にジャンプ向けの漫画を送り出したのは称賛に値すると思います。
番外編 ウルトラレッド
ウルトラレッド 全4巻 鈴木央 2002年
遅れてきた拳法漫画。修羅の門1987年を皮切りに、熱風キッズ1989年、秘拳伝キラ1995年、風の伝承者1998年など古流拳法を主役にした漫画が乱立したが、そのブームがひと頃落ち着いたあたりで掲載された拳法漫画。破傀拳を操る主人公皇閃の活躍を描く。
時期的にやり尽くされた感があったのが痛かったですが、天真爛漫主人公に打突での関節外しをメインにする拳法。100%の力を発揮すると体寿命を縮める魔性の拳。既存格闘技を組み合わせた新格闘技団体、血縁のライバル、拳の魔道に踏み入った父、とツボは抑えた作品になっています。
まあ、ちょっとテンプレ臭い設定ではありました。
拳法のオリジナリティはよかったです。
、
まあ、なんか主人公よりはライバルの使いそうな拳法よね。
転校生が伝説の秘拳の伝承者で、どんどん周りの強い奴を倒していってある程度ライバルが出たところで体重無差別の異種格闘技Jr.大会という無茶な大会が開かれます。そして現れる謎の拳法を操るイトコ。修羅の門でも秘拳伝キラでも見た展開。
肉親のライバル。同門対決。鉄板の展開。
ライバルグループの副将・相撲ベースの渡辺のおっちゃんがいいキャラで、格闘技を複合して使うドラゴンフレイム道場に置いて相撲単体で戦う愚直な男であり、大将・大我が唯一本気を出せたライバル。準決勝で同門対決をするんですが、お互いがいたからこそ高みに立てたことを互いにわかり合いながら決着をつけます。
もう一方の準決勝は肉親対決の閃対友。こちらは対称的に復讐の戦い。
自分の息子すら本気で攻撃しようとする閃の父・帝から閃を守るために姿を消したことがわかり、友と和解。決勝はお互い負傷した閃と大我の一撃にかけた勝負で引き分けに終わりますが、帝が姿を現し、戦いはここからだでエンド。
全体的に頑張ってはいるんですが、先行作のにおいが消し切れてない&新規性に乏しいのが痛かったです。ともあれ、完成度自体は低くはないので好きな人は好きだったのに打ち切られた作品になっています。
番外編 蹴撃手マモル
80年代、北斗の拳や聖闘士星矢、魁!男塾などのトンデモ格闘路線が一段落すると、87年から修羅の門、88年拳児、89年熱風キッズなどリアル系格闘技路線が流行になっていきます。
そんな中ゆで先生もリアル系格闘路線に移行。本格ムエタイ漫画でのブレイクを目指します。リア、リアル系?まあガンダムだってリアル系ですし…。
天才体操選手の中学生マモルは、ジュニアの日本代表としてタイの大会に出場中、生き別れの兄・イサオとムエタイチャンプ・キング・パイソンの試合を観戦。必要以上に兄に攻撃を加えるバイソンに喧嘩を売り、3ヶ月の間にパイソンと4人の弟子に挑戦し、勝利しなければならなくなる。
マモルは幻の達人ゼペット・チャンガーに弟子入りし、人並外れたジャンプ力を活かした奇想天外なキックボクサーになるべく特訓をかさねる。
足の骨を折り、その骨が血管を上って心臓に辿り着くと死亡すると言う絶技。骨が上るまで90日かかり、移動と共に蛇の刺青が対象者の体を覆っていきます。うーん🧐
特訓も闘将!拉麺男くらいの謎科学レベルで作られた泥人形と戦ったり、蜂を打ち落としたり、膝で1トンのトロッコを動かすというレトロ風味。ぶっちゃけこの時代でもやや古めのテイストでした。
ムエタイがマイナーな時代にチャランポ、テツ、ティーソークなどを子供達に伝えた功績はあるのですが、やはり現実路線とゆで先生は相性が悪かったのか次第に変態格闘路線に突入していきます。
チャランポは結構流行りました
言うてただの蹴りなのでハッタリに乏しい面はありました。そこで!
ゲェーッ!キックボクシングに激突落下技だとーッ!?
敵の技もぎりぎりリアルくらいの路線から、ゴム人間とか無茶のある設定に変わっていきます。
更にはどう見てもキン肉バスターな技なんかも出ますが、時すでに遅く打ち切り。その一年後にK1ブームが来て一年早かったと言われたそうですが、K1来ても波に乗れたかというと…。尚Wikiによると作中の特訓は現実のムエタイのものではなくゆで先生の創作との事。いや、言われなくても、ノンフィクションと思うやついないだろ!
これは…。キン肉……バ
ニシキヘビ会の4人の弟子のうち2人を倒したところで打ち切り。残り2人の弟子を倒すために、満身創痍のマモルのもと2人の助っ人が現れて、「戦いはこれからだ!」で終わり。ゆうれい小僧もそうなんですけど、ゆで先生テンプレ的な打ち切りエンドを選択しがちです。