津尾尋華のジャンプ打ち切り漫画紹介

週刊少年ジャンプの三巻完結以内の打ち切り漫画の紹介。時々他誌や奇漫画の紹介も。

男坂 遂に完結! なんですけど……

 本編を読んだことはなくてもラストの未完のページを見たことはある。そんな伝説の打ち切り漫画•男坂が39年の時を経てついに完結しました。

したんだよ。しちゃったんだよ……。

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 まあ、だいぶモヤモヤした終わり方というか、強引なエンドマークの付け方をしたので言いたいことはいっぱいあるんですが、曲がりなりにも完結までこぎつけたことは、尻切れとんぼで続きが読めない作品の事をかんがえると、ファンにとっては幸福だったと思いたいです。バスタードとかガイバーとかガラスの仮面とかNANAとか皇国の守護者とかバチバチとか……ね。

 

 車田先生も69歳なので、40年前の宿題を片付けられてホッとしたんではないでしょうか。69ですものね、漫画描いてるだけで立派ですわよ。

 

 車田先生については今更知らない人も少ないと思いますが、歴代4人しかいないジャンプでの巻頭カラー最終回を成し遂げた天才作家であり。(車田正美リングにかけろ」、鳥山明ドラゴンボール」、井上雄彦スラムダンク」、秋本治こちら葛飾区亀有公園前派出所」)


 二作ヒットを出せれば天才という業界で、一世を風靡してパワーリスト、パワーアンクルに少年たちを夢中にさせた「リングにかけろ」、星座カーストという言葉を作り、瞬間最大風速では黄金期随一であり、今なおスピンオフが出版される「聖闘士星矢」を描き、ジャンプ卒業後もB't Xのアニメ化、リングにかけろ2のヒットなど多くのヒット漫画を排出した天才です。


 「車田飛び」「車田吹き出し」「英字効果」「手を掲げながら必殺技名を叫ぶと敵が吹っ飛んでいくフォーマット」など独自の手法を確立しており、津尾さんのフォロワーには車田正美が好きすぎて、車田跳びを実行した結果頭を割って死にかけたやつがいるほどです。

 一般化はしませんでしたが、テリオスのコピー表現なんか津尾さん結構好きですね。

 

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車田メソッドが詰まった一コマ

「車田飛び」「車田吹き出し」「車田必殺技」


 デビュー作「スケバンあらし」全2巻でこけた後、「リングにかけろ」でメガヒットを排出。続く「風魔の小次郎」は不完全燃焼ながらも少年漫画版山風忍術決戦を描き好評を得ます。そして実績を積んだ車田先生が、満を辞して世に送り出したのが本宮ひろ志先生「男一匹ガキ大将」の車田版リメイク「男坂」。

 

 作者自身がこれを書くために漫画屋になったと宣言する熱量で1984年に連載開始するもあえなく3巻で打ち切り、その未練から最終回に大きく「未完」の文字が打たれたことと、これぞ打ち切りというラストシーンで話題となった漫画です。

 

詳しくは下記リンクの男坂の項目で

https://utikirimanga.hatenadiary.com/entry/2021/03/12/012501

 

多分この漫画で一番有名なラストシーン

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 3巻で終わったため、男坂は多くの消化不良要素があり、29年ぶりとなる2014年の連載再開で全ての構想が明らかになることが期待されていました。

 

男坂の消化不良要素

 

①武島将との決着

②喧嘩鬼の正体

③天魁星とか地闘星とかの星読み設定

④ジュニアワールドコネクションの世界のボス達

フレイザーより恐ろしいシカゴのラトーヤ

⑥20世紀最後の天才アインとキボウの決着

⑦世界を掌握する力をもつジャーメィンの実力

⑧突然傘下に入りに来た赤城のウルフの背景

⑨北の神威とは

⑩武島軍団二番隊隊長水無月征、三番隊隊長神代直人の実力、他の軍団長の存在

 

 結局国内で話が終わってしまったので、⑤⑥⑦の海外勢の補完はされなかったのですが、ラトーヤは再登場しましたし、③は消化しなくてもいいと言えばいい設定なので、連載再開後の男坂はほぼ全ての未消化要素を回収してくれたと言ってもいいと思います。すげえぜ、車田御大。

 

 じゃあ、何がモヤモヤするのか説明しようとすると背景を語らないと伝わらないと思いますので、そこから。

 

以下メチャクチャネタバレがありますので気になる方は本編を読んでからお読みください。まあこんなブログ読んでる時点で本編読んでるとは思うんですけど。

 

 まず大前提として男坂本宮ひろ志先生の「男一匹ガキ大将」抜きには語れないくらい強い影響を受けています。

 

 「男一匹ガキ大将」のアウトラインを説明すると、男気のあるガキ大将・戸川万吉が各地の不良と戦いながら子分を増やしていき、富士の裾野で東と西の日本中の不良が大決戦をやった結果、全国の不良を束ねる総番に登り詰め、更には日本を救う為、子分を率いて外国勢力と戦うまでになるお話。この頃から80年代までは不良ものといえば全国制覇ということで、不良はやたら抗争したり、学校を支配したり、みかじめ料をとったり、全国制覇を目指したりします。ドッ硬連、letsダチ公など実際に全国制覇をしている漫画多数。
 普通に警察沙汰では? 偏差値40なさそうなのに誰がその会計管理を?

 細えことはいいんだよ。

 

 流石に、全国統一は現実的ではないということで、不良漫画もその後、徐々に県内での勢力争いや、出てきても隣県の組織と戦うくらいになっていきますが、それはまた別のお話。

 

 ジャンプでは原哲夫先生も「猛き流星」でリメイクにいどんでいますし、あの横山光輝先生ですらバビル二世後に「あばれ天童」で同ジャンルに挑んでいます。言ってみれば男の生き様、成長ものであり、最高にかっこいい男を描くわけなので、書き手にとっても魅力的な題材です。

 馬鹿だが腕っぷしは強くて一本芯が通った人間で、男気があり、不思議と慕われる人間的魅力のある人物に戦った相手が惚れ込んで一家を形成。やがて日本を代表する勢力となる。って刃牙で描かれる「地上最強の男」と双璧をなす男の子の夢なんですよね。個のトップに対する集団のトップへの憧れ。

 

男一匹ガキ大将」の上手いところは、喧嘩の強さは勿論描かれるんですが、要所要所は「男の器勝負」で相手をねじ伏せるところ。暴走列車を事故らせないように学生を纏めたり、ちっぽけな不良にできることを示した上で虐げられた学生を集めて数でも圧倒したり、なんだかこの男についていけばでけえことができる感をだすのが上手い。

この辺りは流石の本宮先生。

 

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事故を防ぐために学生をまとめる万吉


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俺たちにもできることがあるんや!

 

 最終的に日本の不良を統一した万吉は、話のスケールを上げる為に、エリートとの戦いや国家の浮沈をかけ外国船団と戦うなど、話が一介の不良の関与するレベルでない政治的な話まで発展していきます。
まあこの辺りは引き伸ばしで作者は嫌々描いてたということですが。

 

 男坂は、「男一匹ガキ大将」の様な硬派な男達を描きつつ、「ガキ大将」を超えるべく車田御大が設定を練りに練ったことが伺えます。


 まず、ガキ大将にはいない、「帝王教育を受けた天才にして最強のライバル」武島将の配置。リンかけの剣崎で手応えもあったでしょう、この手のキャラは読者ウケもいい。ガキ大将の敵ボス堀田がどうしてもキャラとして弱いところを大幅に改善しています。

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 次に話の展開を早くするための舞台装置としての「喧嘩鬼」。このキャラだけどこから生えてきたっていうくらい世界観が全然違うんですけど、1話で敗北、2話で特訓、3話以降敗北した時とは一味違う大人物の片鱗を窺わせる理由づけとなります。

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 謎が多すぎるんですけど、お陰で挫折、師匠探し、弟子入り、特訓、人間的成長なパートを一話で終わらせています。

 

 ライバルと謎の師匠を配置をした車田先生は、さらに、政治の部分まで踏み込むこと、外国勢力と戦うことまで想定してWJCを登場させます。

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将来的に闘うであろう世界のJr.代表達、更にそれを彩る天才軍師。

 ここまで描くことができれば、確かに結局国内の権力争いに終始したガキ大将をスケールで上回り、天才武島将と競う事で男の生き様をより鮮烈にカッコよく描くことができたはずです。更に車田先生はリンかけで培ったバトル描写と美形による女性人気獲得という手札もあります。

 そもそもこの辺りの男の生き様論はリンかけ時代に何度もやっている内容です。車田先生にとってもお家芸のはず。

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 でも、そうはならなかった、ならなかったんだよロック。

 

 

 多分、続編で一番割を食ったのが見せ場がほとんどなくなった13歳でケンブリッジを卒業したキボウとそのライバルアイン。

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 あとおそらく、ジャーメインの参謀となって真の恐ろしさを発揮するはずだったラトーヤです。

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 キボウとアインの軍師対決、みたかったですね…。

 

 本編の話に戻り、大人物な風格と格闘術を備えた仁義のもとに仲間が集結していくのが男坂のメインストーリー。

 仲間集めパートの初めは、右腕となる闘吉との出会い。「ガキ大将」を踏襲して、喧嘩の強さではなく度量の大きさで屈服させます。こういうのがやりたかったんだよな感ビシバシ。

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闘吉自身もガキ大将の1の子分銀次を想起させる単純熱血子分。

 

 この後本編では、シカゴ勢との戦いで外国勢力の脅威を感じさせた後全国の硬派集めを行い、なぜか突然傘下に入った赤城のウルフ、今は仁義より大きいが仁義の将来性を見込んで傘下となった梓鸞丸を仲間にして東北を制圧。北海道の王、北のカムイと出会うというところで打ち切りとなりました。

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 さて、再開された男坂がこの予定されていたと思われる展開を消化できたかというと……。

 

 再開版男坂、まあ前の連載から時間が経ちすぎたのはあるんですが、拭いきれない違和感があります。

 

 まず、キャラクター設定。主人公菊川仁義は前作から太陽のような男と称されているのですが、基本的には硬派で、漢気があり、外国の侵略から日本を守る為に仲間を集めています。ここ重要。

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 多少コメディっぽい描写はありますが、カッコいい「男」として描写されていたんですよね。

再開版では、何故かこれが「無垢」な男としてクローズアップされています。そしてコメディ描写が多くなります。再開直後の北の大地編で既に無垢で動物に好かれるキャラとなり、打ち切り版の風をきってつっぱるとか硬派というイメージが全然なくなってしまいました。

 最後の硬派だったはずなんですけど、なんかこう竜の紋章を持った勇者みたいというか、車田先生キャラ変えすぎじゃないですか? そして何故か付与された動物と心が通じるという能力。硬派関係ねえ!

 

一巻の太陽から出てきたような男描写

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再開版の太陽のような男描写

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これが、これ。

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多分車田先生の中でカッコいいの基準が変わっちゃったんでしょうね。飄々としてるけど襲いくるものには容赦しない打ち切り版から、無垢で生き物に好かれ人と融和する再開版へ。

中学校をしめにきた闘吉連合100人を壊滅させるとか、喧嘩する時は命を賭ける、少年漫画なんでむべなるかななんですけど戦闘的な描写が多かったのが、ひょうげても戦いを回避するような描写が増えます。大人になったというか、年長者視線だと後者の方がカッコいいという気持ちもわかるのですがそれは硬派なんでしょうか……。

 

 誰にも負けない強い男になりてえから始まり、襲いくる外国勢力から日本を守る為に硬派が必要だ、に進み。日本を統一して一致団結する為に硬派たちを纏める。これが男として生まれて、見つけ出した一生に一度のやるべきことだという方向だったはずなんですけど再開版は後半部分の要素が薄いです。

 

 4巻から始まる仲間集めも、5巻のトラウマを持った男の鬱憤を受け止めることで仲間となるジュリー、4、6巻の喧嘩することでわかりあう神威と狂介はともかく、7巻の命の大切さを説く竜子と8巻の本気を出せない男と相撲をとるだけの南郷になると話自体もテンプレ的ですし、テーマが、とんがった若者がやり合いながら仲間になっていく切磋琢磨と成長ではなく、融和になってきます。

 

 この辺りの仲間一人集めるのに各1巻かけたテンポの悪さも再開版の面白さを削いでいます。

 

 ライバル登場、敗北、特訓、仲間集め、外国勢力の侵攻、軍団結成を3巻でまとめてた旧作と余りにスピードが違いすぎました。いや、闘吉、ウルフを掘り下げて男の器勝負してたジュリー編と本陣編はまだいいよ。折角巨大な武島軍団、対抗する仁義軍団、武島軍ではあるが独立独歩の気風を持つ西の三傑という構図なんだから、小競り合いをしながら武島軍団を食い破ろうとする野望を持った三傑とか、武島軍に押される仁義軍を密かに助ける三傑とか、どこにも与しない三傑とかを横軸に、縦軸に武島軍団との戦いを置いて、知略に薄い仁義軍が鸞丸以外配色濃厚となり天才軍師キボウの参戦が待ち望まれる展開であればキボウも西の三傑も生きたと思うんですよ。

 

 西の三傑を1人づつ、武島軍団との戦いを一つづつ、東と西の戦いはその後、と1局面に話を縛り、話が広がらない展開になってしまったため単純な構成になり盛り上がりませんでした。

 

 そして完結。もうこの辺りで体力も限界だし、伏線は大体回収したから風呂敷を畳もうということになったのでしょうか。

 

「富士の裾野で東西の軍団の日本統一をかけた決戦」とか「外国勢1万対仁義1人」とか「外国船団との戦い」とか、これがやりたかった感じはするんですけど全てが尻すぼみになってしまいました。

 

 戦わない東西軍団。どうみても陰腹の前振りで仁義に別れの挨拶までしてるのにフェイクの鸞丸、ウォーゲームの前振りと天才設定が単なるハッカーに落ちぶれたりキボウ。雑魚の集団WJC。本編掲載時は、WJCの面々見ながら、「こいつは味方になる、こいつは敵だろうな」って考えながら読んでた僕のワクワク感を返してほしい

 

 でもまあWJCが大幅に弱体化した結果、素手でライオンの首を引きちぎるシカゴのフォアマンが、やつは「WJCにおいて最強の男」みたいな存在になったのは面白いです。それは恐れられていただろうよ。

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フォアマンとフレイザーでWJC壊滅できたやろ。

 

 最後だけは想定通りに武島将と仁義のタイマンでしめることになりますが、BGMに流れるのはImagine。

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 ええ……、そんな話でしたっけ……?

硬派どこに行ったんだよ。ジャーメィン見た目マイケルジャクソンなんだからHeal the Worldでも歌ってろ!

 

 ラスト二話は作者の思想が露骨に変わってしまったのが伝わってくるのでメチャクチャ辛いです。

 

 最終対決で問答しながら喧嘩してるんですけど、突然大人になったら漁師をやってみんなと平和に暮らすとか言い出す仁義。

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 そりゃ、武島将も「は?」ですよ。

 じゃあなんのために戦ってたんだよ!

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 物凄い真っ当な言い分の武島将と突然お花畑と化した仁義。

 だから平和な世界を守る為に外国勢力と闘うって話だったんだろ! 何のために仲間集めてたんだよ。39年間の連載全否定かよ!

 

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鸞丸の演説は何だったのか。

いやまあこれだってもう10年前なんですけど。

 

 最後のケリがついた仁義は武島将に後事を託し、太陽に帰っていくのでした。

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 これが許されるのは不治の病で闘いを続けられなくなるか、強敵(ジャーメィンあたり)と相打ちになるか、チンピラに刺されて死ぬ時くらいでしょ。なんでいい感じに使命を果たした後みたいになってるんだよ。お前、闘吉に申し訳ないと思わないのかよ!

 

 僕の中の炭治郎が「貴様アアア! 逃げるなアア‼︎ 責任から逃げるなアア」と叫んでるんですけど、まあこれで完結してしまいました。

 

 作者の思想が変化したので、それに沿う内容にしたら連載前の構想と180度変わってしまった。まあそういうことだろうとは思いますが、連載が40年にわたることも珍しいですし、普通は構想に合わせて軟着陸させていくと思うので、エピソード毎に間隔をあけ、尚且つ長期間で連載をしていた中で起こった悲しくも珍しい出来事なのでしょう。

 

 なんだかんだで車田先生が好きな僕はちょっとしょんぼりしてしまいました。

 

番外編 異世界行っても少年マンガの主人公は1mmもブレない‼︎

異世界行っても少年マンガの主人公は1mmもブレない‼︎ 梅澤春人 2021年 ヤングエース掲載 全3巻

 

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久しぶりの更新はジャンプ打ち切り漫画ではないのですが、事情により「BØY」「ソードブレイカー」「カウンタック」の梅澤春人先生のコレです。

 

 連載開始時より、「梅澤春人先生が異世界転生もの?」「ハレルヤ + ソードブレイカーじゃん」「だいたいいつもの梅澤先生」「梅澤春人異世界、盾、うっ、頭が」などと言われていましたが、だいたいこの感想でお察しの通り、いつもの梅澤ヤンキーが異世界に転生します。

 

 主人公は、見た目は怖くてエロには弱いけど、弱者を見捨てず助けてくれる「最強の不良(キングオブヤンキー)」を目指す酒谷鉄丸、武器は白いギター。 

 相棒は絵が得意ないじめられっ子の気弱な少年天野恵。2人は事故で死亡し、異世界で目を覚ます。

 

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だいたいいつもの梅澤主人公

 

 2人は、勇者の剣とされる鉄丸のギターを抜いた事から、1000年の間恐怖で世界を支配する名前を言ってはいけない死獄王(じごくおう)グレン・アモンと、死獄王に魔剣を与えられた悪狂魔騎士(あくまきし)達と戦うことになる。

という、清々しいまでの異世界テンプレなんですけど、そこらなろう系コミカライズと違い、拭いきれない梅澤テイストが不思議な読み口を読者に与えます。うん、デジャブ。

 

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悪が狂う魔の騎士と書いて あくまきし!

死を極める王と書いて じごくおう!

俺たちの梅澤が帰ってきた!

魔城はゴスラルドかー、これはソドブレの勝ち。

 

 3人目の仲間として、ユニコーン族の女騎士レイヤが加わるあたりは、やはりソードブレイカーを意識してたんでしょうか、近接戦闘タイプの女戦士レイヤが仲間に。

 

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 異世界転生もので現地で最初に仲間になった女戦士がバックドロップで敵を倒す。これが! これが! 梅澤ファンタジーだ!

 

 この後も王道の、自分との戦いとか、回復役のちびキャラが4人目の仲間になったり、使い魔をゲットしたり、悪狂魔騎士の裏切り者が五人目の仲間になったり、勇者の剣に宿る古の力で魔法が使えるようになったりと、お約束に近いイベントをこなすのですがその全てに梅澤バイアスがかかっています。

 

使い魔 →  ヤンキー仕様バイク型モンスター

裏切り者 →  風に乗るチャラ系サーファー

古の力 →   ギターのコード

 

やりたい放題

 

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なんだ、この 面白い絵面は…

ファンタジーの姿か? これが…

 

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とにかく好きなことを詰め込んだぜ!

 

 残念ながら5人目の仲間ができたところで、打ち切りとなってしまい死獄王との決着は着かずに終わるのですが、おそらく打ち切りが決まったであろう頃に重大なエピソードが明かされます。

 

鉄丸の父親は現場仕事をしている酒谷虎一

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ソードブレイカーの虎一、名字は作品中では明かされず

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額のアザ

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ソードブレイカー最終回、虎一の子供。

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我々は、この男を知っている!

いや、この眼差しと額のアザを知っている!

 

あ、ああ〜。

マジの続編だった〜‼︎

 

 確かにモンスター造形は全く同じ系統だったわ。いやだって、ミコトが生まれ変わってそんな性格になる? とか多少の疑問はあるんですが、ウィッチウォッチにスケット団がでてくるサービスなんかとは違い、続編として描きたかったんだろうなというのは、あえてこのタイミングで本筋と関わりのないこのエピソードを挿入することで伝わってきます。コレ、続けば仲間にズールの転生者とか出たんじゃないかなあ。

 

 打ち切りだったソードブレイカーが、ヤングエースに転生して一ミリもブレない姿を見せた結果、前世と同じく打ち切りをくらうという皮肉な結果になってしまいました。

 

ガッデム‼︎

地球の子 2022年

地球の子 神海英雄 全3巻 2022年

 

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ライトウイング(https://utikirimanga.hatenadiary.com/entry/2021/07/07/130650)で爪痕を残し、ソウルキャッチャーズでファンを確保した神海先生の新連載。

 

 第一話のクオリティはメチャクチャ高く、世界の危機を救う強力な超能力者・星降かれりと、普通の高校生・佐和田令助の出会い。惹かれていく2人、通常の幸せが手に入らないというジレンマ、恋愛の成就、結婚、出産、幸せの絶頂からの地球を救うためにかれりさんが犠牲になるしかないという展開をうまくまとめていました。津尾さんも、こいつは来たぜ!と思いました。

 

恋愛パートをじっくり描き

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地球よりも夫と子供とために死地に向かう妻。

どうすることもできない現実。

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令助の悲しみを丁寧に描きました。

 

ソウルキャッチャーズの名場面より「全然、良くなかった。 最高(ファンタスティック)だった」と言うフレーズがTwitterを飛び交い。「俺たちの神海っちゃんが帰ってきた!」とお祭りだったのですが、一話で物語を支えたヒロインが退場してしまったため、この後どうするの?という不安を持つものも散見されました。

 

 津尾さんてっきり二話から、子供が成長して主人公交代するかと思ってました。まあ考えられるパターンとしては、

 

①子供が成長して、次の地球の子として地球の危機と戦う

②主人公はそのままで、かれりさんもしくは新たなキャラとの関係を軸に話作る

③父親主人公の育児もの

 

あたりなんですけど、まさかジャンプで③を選択するとは……。

 

 リアル路線の恋愛物でもなく、エスパーが出てきて何者かと戦う話で主人公が無能力者なのは結構な賭けだったと思います。尚且つ、メインターゲットの読者層が共感できなさそうな育児話。この時点でかなり危険な香りがしていました。

 

 強大な力を持った無垢なる赤子、地球の運命を左右する子をどう育てるか?が、主題であるため、2話から5話まで4話かけて、強大な超能力を持つ赤子・衛をそだてる覚悟と苦難、絆を描くんですけど、令助の情熱が先走りすぎて既婚者子持ちの津尾さんでもちょっと感情移入しずらいです。

 

 子育て物って、どんなに全力をつくしても何度同じことを注意しようと、子供の動きは予測できないし、子供の意思を都合よく変える事はできないし、繰り返す無力と徒労とやるせなさと、絶え間ない努力と押し寄せてくる日常と理不尽の中で、それでも報われる時があるよ。報われた次の瞬間にはまた怒涛の日々が始まるけれど。という子育ての難しさと、それでも存在する日常の中の輝きというのが話のキモだと思うんですけど、この話4話かけて、大きな山を一つ変えたら子育てパートが解決してしまうんで、子育て物としては話が薄く、ジャンプ漫画としてはヤマが少ないというどっちつかずな内容になってしまいました。

 

ちょっと抽象的というか…

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6話からは先代地球の子・アルベールが登場して本格的にかれり救出作戦が始まります。

神海っちゃんぽいキャラもでてきたし、本領発揮かぁ〜?と期待する声もあったのですが、ドラマはイマイチ盛り上がりません。具体的な敵とかじゃなくて困難な状況と戦う話で、読者が解決法を模索できるタイプの話でもないため、とにかく受け身になってしまうんですよね。

 

先代地球の子・アルベール

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ISSに向かい、デブリとなったかれりを衛の念動力で静止する計画を立てるのですが、衛とアルベールと訓練を行い、ISSに到着。かれりさんのデブリを止める為には、赤ちゃんの衛にデブリをかれりさんと認識してもらわなければならない。さあ、どうする?って、ISSについてからその話するの? 事前に準備しろぉ! 案の定、このままじゃ無理だから一回地球に戻ってかれりさんの実家に行くことになります。あのー、ISSに行くパート必要でした? 気軽に地球と宇宙を行ったり来たりするんじゃないよ。宇宙兄弟に謝れ。

 

作中で言えば無計画な上に、構成上だと一旦宇宙にいく必要性がわからない

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 実家に帰って衛はデブリを彼らさんと認識して救出作戦が始まるのですが、一連の、「超能力を無差別に使わない分別をつける」、「令助との絆を確認する」、「かれり救出のために空を飛ぶ」、「宇宙空間でデブリを弾く」などおそらく年齢十ヶ月程度の衛ができるようになるまでのハードルな恐ろしく高いはずなのに、あっさりと乗りこえてしまいます。この辺りの聞き分けが良すぎるため、育児物というよりは舞台装置のようになってしまったのもマイナスでした。反面恋愛パートは丁寧に描かれているので、テーマが家族と育児なのに、焦点は夫婦・恋愛になってしまって、ますます衛の存在が空気に。

 

恋愛パートは丁寧で見せ方もうまい

コマの使い方も贅沢

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 結局、愛の力でカレリさんを救うことに成功するのですが。その最中全ての黒幕、「地球の子」を作り能力をあたえ、地球を守る為の仕組みを作った存在が現れます。その正体はメスガキ「地球ちゃん」。地球を平和に保つことだけが目的のため、「地球の子」に異常を起こす令助を取り除こうとする存在。

 いつか来る地球との戦いを予感させつつ、カレリ救出劇は幕を閉じます。そして六年後。

 

メスガキ地球ちゃん

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 ショタ衛、カレリ、令助の3人で地球の子としての任務をこなす日々の中、再び地球が現れます。

 

 この辺りの、ラスボスは地球、力を与えた親たる存在にして神に近しい物。地球を感情に保つことだけが目的で人間を歯牙にもかけない存在。という壮大さにその神たる存在がメスガキ女子高生というギャップはいい見せ方だとは思うんですけど、神と戦うには積み重ねたエピソードが弱かったかしら。ちょっと作者の情念が先走りすぎた感がありました。まあ、ここでまとめるのには仕方ないのかしらね。

 

人をなんとも思っていない地球ちゃん

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 結局地球と和解し、三人は地球を守る為に働く。地球はそれを監視して、力が及ばないならば排除するということで、三人の日常は守られます。

 

 衛の成長と、変わらぬ夫婦の愛を描いてエンド。具体的な敵がいるなら早く出したかったし、連載が長く続いてエピソードの積み重ねがあれば地球ちゃんとの戦いが締まったかなという感じ。綺麗にまとまってはいるんですけどね……。

 

 結局1話のインパクトが超えられない事が痛かったです。三人家族で過ごさせてあげたいし、カレリさんをほっとくのも構成上やりにくかったんでしょうが、2話で七年後→アルベール登場→カレリ救出作戦開始→地球ちゃん登場あたりを一巻で一気にやるくらいのヤマを作らないとジャンプでは厳しいんでしょうね。

 

 

 ところで、1980年から42年の3巻完結以内の打ち切り漫画について、315件の記事を書いてきましたが、津尾さん体調を悪くしてしまったので、ここで一旦このブログの更新は停止致します。地球の子だけは2巻まで書いていたので更新しましたが、エリエリ、すごいスマホあたりは来年に回復したら……に、なります。

 目を通してくれていた方ありがとうございました。

 

 

 

守れ!しゅごまる 2021年

守れ!しゅごまる 全3巻 伊原大貴 2021年

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 ジャンププラスで話題となった「恋するワンピースを休載して本誌に殴り込んだ伊原大輝先生のボディガードギャグ漫画。

 

 王城財閥の一人娘、王城さなぎは暗殺者「スカル」に命を狙われたことから、ボディーガードの10歳の少年しゅごまると行動することになる。守るためには周りが見えなくなるしゅごまると普通の彼氏を作りたいさなぎの高校生活が始まった!

という学園コメディ。

 

ポンコツボディガードしゅごまる

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 ロボコ、ウィッチウォッチ、高校生家族、マグちゃんの4本連載中に5本目のギャグ漫画となったのはタイミングが悪かったですが、内容的にも、HIKAKIN、マグちゃん、遊戯王などの飛び道具が多かったのが評価を下げてしまいました。ウケてる人にはウケてるんですけど反感もかったというか。

 なんでしょう、M1でドラえもんネタをやるみたいな、自力で勝負してない感が……。後半の遊戯王カード推しもそういうわけで賛否両論。

 

HIKAKIN(実写)の登場

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マグちゃんの終わった次の週にマグちゃん

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怒涛のデュエル

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 オリジナルゲーム回とか、バーバパパ回なんか普通に面白かったので、もう少し他に足をつけてやってもよかった気がするんですけど、飛び道具が続いたのはちょっと残念でした。

 この手のギャグ漫画としては、ギャグをやりながらメインキャラを増やしていき物語の幅を広げることをきっちりやっており、レギュラーとして蛇原、小福ちゃん、藤井、葵、セミレギュラーとしてスラッシュ滝沢、愛照が配置され、更にちびっこボディーガード投入でキャラクターは揃っていました。

 増えたキャラをバトルや長めのエピソードで有効活用しきれなかったのが少し痛かったです。ちびっこボディーガードの対決回とかはちょっと弱いんですよね。ただ、蛇原の葵ちゃんを落とす回の様なキャラを活かした回もありました。

 

オリジナルゲーム回

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 オチンチン回とかHIKAKIN回とか小学生男子の心をがっちりつかむような要素はありましたし、ジャンプに少ない低年齢向け作品としては悪くなかったと思うんですけど、ちょっと飛び道具多めなのと、低年齢なのか大人向けなのかターゲットが絞りきれてない部分はありました。

 

オチンチン回

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 単行本書き下ろしではスラッシュ滝沢の切ない思いが描写されるのですが、葵ちゃん回とかしゅごまる成長回とか意外と恋愛方向のエモさの描写が上手いので、エロなしの年齢差ラブコメ方面に注力してもよかったかもしれません。

 

しゅごまる成長回

この裏でスラッシュ滝沢は切ない事に

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 終盤は振り切れたのか一話丸々遊戯王デュエルをしていたりするのですが、現在本誌に掲載されてない遊戯王のデュエルがわかる人はどれくらいいたんでしょうか。ここなんかはっきり大人向けになってしまっているミスマッチがありました。まあ、打ち切り決まってからなので、やってみたかったことをやっただけかもしれませんが。

 

 最終的には、しゅごまるが無差別に世界を破壊していく殺戮兵器であることが判明して、兄弟から殺されそうになるところを仲間たちとさなぎで救出して、めでたしめでたし。最後のしゅごまるからさなぎにあてた手紙「おかあさんみたいだった」が泣かせます。津尾さん母のような姉のような恋人のようなお姉さんキャラ大好きだからよ……。

 

 単行本には書き下ろしエピソードとして5年後のエピローグが掲載。ちなみに2巻にも一話分の暗殺者とのバトルが書き下ろされています。割と綺麗に纏まっているので読後感はいいですし、エピローグも満足のお話。ターゲットが分散してしまったとか、色々やったけど突き抜けきらなかった面はありますが、好きな人は好きだったろうなという作品でした。

 

 ただ、削除されてしまいましたが、作者が出した謝辞は余計でした。

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 連載終了後にTwitterで、「自分が信じきれないものを世間に出した」とか「自分、もっと面白い物かけます」とか書いちゃうのははカッコ悪かったと思います。

アヤシモン 2021年

アヤシモン 全3巻 賀来ゆうじ  2021年

 

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 ジャンプ+で連載の「地獄楽」でスマッシュヒットを飛ばし、アニメ化も決定した賀来ゆうじが本誌に凱旋した期待の作品。師匠の藤本タツキの「ファイアパンチ」→「チェンソーマン」と同じルートであり、奇しくも次の週から連載された伊原大貴の「恋するワンピース」→「守れ!しゅごまる」も同様のルートで本誌掲載を決めていました。

 

 「妖しき裏社会バトル」というキャッチコピーが用意されていましたが、ジャンプのキャッチコピーは「ロマンホラー真紅の秘伝説」とか「日本一慈(やさ)しい鬼退治」とか割と訳のわからないものが多いので、まあご愛嬌。

 

 話としては、極道+妖怪+バトルという形態で、ジャンプヒーローに憧れて特訓をしたことによって訳がわからないほど強くなってしまった人間の少年マルオが、1990年代の新宿で、大親分が死んで覇権を争う妖怪極道の抗争に首を突っ込んでいくというお話。

 

 キン肉マン、悟空、承太郎に憧れるバトル大好きな少年マルオ

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 90年代ジャンプヒーローをフックに、めちゃくちゃ強いがモブ顔で単純バカな主人公がバトルでスカッと悪役をぶちのめしていく話のつくり。なんですけど、アウトラインの時点で、「ワンパンマン」とか「マッシュル」の系統が頭に浮かぶので、特に連載中のマッシュルと競合しないように見せなければならないというハードルがありました。

 

 マッシュルが、すごい魔法!それを上回る筋肉!という相対的に「凄さ」を見せるメソッドを確立していたので、すごい妖術!それを上回るパワー!というだけでは新規性がうすかったです。かと言ってこの設定では頭脳戦は厳しいというジレンマはありました。一応、姐さんという頭脳担当のバディがいるという強みと90年代ヒーローというとっかかりは作っていたんですけど、あんまり活かせませんでした。

 

マルオの親になるウララ姐さん

父の死の真相、復讐、歌舞伎町の天下取り、復讐のコマとして使うマルオとの関係と、精算する関係性の多いもう1人の主人公

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 連載は、マルオとバディとなるウララが出会い、ウララの父「鬼王」がつくった炎魔会の後継争いに名乗りを上げるべく歌舞伎町に向かうパートを描きつつ、アヤシモンやタイマンの儀、歌舞伎町の状況について説明していくんですが、特に敵がパワーアップしていくわけでもなく、ドラマ性があるわけでもなく、マルオが凄いパワーで敵を倒すだけの話が続いたのは序盤の挙動としては訴求力が弱かったと思います。マッシュルと比べても爽快感がうすい。一撃で決まる勝負なら対戦相手にフックが欲しいところで、折角相手が極道なので凄い嫌な奴とか悪い奴にすれば爽快感上がりましたのにね。

 

 ドラマ性がウララ頼りで、橋姫の話なんかは良かったと思うんですけど、マルオ側は「戦いたい」しかないんでバトルにあんまりコクがない。

 

 あとこの漫画、全体的に極道である必然性が薄いんですよね。人間界に潜む妖怪の勢力争いをあえて極道にした意味があまり感じられません。

金が依代になるから金を集めないといけないという設定はありますがこれもあまり話に絡んでこないですし、まともな職につけないから極道をやるしかないのか、非合法な手段でも金が必要なのか、妖怪が個人行動していたら狩られるので集団を作らないといけないのか、妖怪の性質的に極道が向いているのか、その辺りの描写がない上に、極道らしいシーンがないです。

 シマ争いは流石にしてるんですけど、みかじめ料を取るわけでも、企業マフィアをやるわけでも、賭場を開くでも、シャブを売るわけでもなく、女を沈めるわけでもない。かと言って古のヤクザみたいな義兄弟になったり、仁義を重視したり、侠客として弱いものを守るわけでもない。悪役としての反吐が出るような弱者を骨までしゃぶるような描写や、オラつく描写もない。

 極道らしいのは、マルオとウララが盃交わすところと、ウララの刺青要素くらいじゃないですかね……。

 

金が依代で単純に死にはしないアヤシモン

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勝負の結果が確実に履行されるタイマンの儀

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6話からは、当面のボスとなる二代目炎魔会会長「独歩」が登場。ボスの顔見せ、マルオの力不足、初代会長「鬼王」の死に何か事情があったことあたりを提示するんですが、この、序盤の敗北イベントってに6話かけたのは悪手でした。話数をかけた割にラスボスがあんまり魅力的じゃないということもそうですが、負けイベントなのに、さらに謎の提示ばかりなので読んでて全くスッキリしないです。何故、独歩はウララが鬼王の娘と気がついて泣いたのか、独歩は何の妖怪なのか、ウララを生かしておかない理由は何か、街のためとはどういう意味なのか、角彫の秘密とはなんなのか、鬼王の死の真相とは、怒涛の匂わせです。あと馬鹿だけど最強系の主人公かと思ったらあっさり敗北するのである強い主人公を見たかった人たちには期待外れな展開だったんじゃないでしょうか。

 

ビジュアル的にも雑魚っぽいんですよね。独歩。

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そして、炎の妖怪だから攻撃が効かない。

ロギアかよ。

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何やら因縁があることは匂わされるんですが、この因縁が解明されることはありませんでした……。

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この後、敗北して、リベンジのために元炎魔会のグループ轟連合に接触して仲間を増やしていきます。ようやく本筋に戻ってマルオとネームド妖怪のバトル、ついでに仲間になったテンの見せ場、バトルはまあスッキリして良かったのですが、水に触れさせないと攻撃の当たらない敵ってまたワンピくさいわね。

 

元炎魔会四大勢力の暴走族、轟連合のトップ・コットン

なんかこうこういうカッコいい現代アレンジ妖怪とスタイリッシュバトルしていってた方が良かった気がします。

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続いて仲間を増やすために、四大勢力の次なる組織に声をかけよう、というところで打ち切りが決まってしまったのでしょう。 

四大勢力の一つを倒した新キャラは尻子玉を抜いた後登場しませんでした。

 

尻子玉を抜くためだけに登場したカッパ妖怪の女

お前なんだったんだよ……。

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最後の方は怒涛の打ち切り展開で、概念を攻撃する力、まあ覇気なんですけど、を特訓で身につけたマルオが一度負けた独歩のコピーを倒し、仲間を増やして本当の独歩と戦うところで話は終わります。

 

俺たちの戦いはこれからだ!

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結局、陰陽寮は顔を見せただけ、一匹狼のアヤシモン・志良もでず、鬼王の謎はわからずじまい、カッパは尻子玉抜いただけ、極道要素は殆ど消化できず、ジャンプヒーローはあまり絡んでこないという消化不良感。

 

これ、レッドフードなんかもそうですけど、事前に設定を練り込みすぎて、用語解説と謎の提示をやって話が進まないうちに人気が取れずに打ち切られてる感じなんですよね。多分本当のラスボスはラスボスで考えられていて、「事情があって悪人ヅラしている責任を負わされて背伸びしている小物」みたいなポジションに独歩がいる。

 そうすると微妙なビジュアルとかにも納得がいくんですけど、話がそこまですすまないんで、「微妙なビジュアルのラスボスと戦うところまで行かない話」というメチャクチャ中途半端な話になってしまっています。

 

 凄い強いマルオがバンバン悪い極道妖怪を倒していくお話の爽快感で序盤をひっぱるか、さまざまな妖術を使う妖怪に対してパワーのマルオと頭脳のウララで戦うバディ能力バトル形式でバトル自体の面白さを押し出すか、ほったらかしにされた隠し子ウララが跡目争いに参戦しつつ父の思いに気づいていくドラマメインにするか、どれかに絞っていたらもう少し纏まった話になったと思うんですけど……。ちょっと序盤に欲張りすぎたかな……。

 

 キャラクターデザインや画面の見せ方は上手かったので、一部で評価は高いです。

まあ、少しもったいなかった作品でした。

 

番外編 神緒ゆいは髪を結い

神緒ゆいは髪を結い 全4巻 椎橋寛 2019年

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 「ぬらりひょんの孫」の椎橋寛先生によるスケバンバトル漫画。最近なんで覚えてる人も多いと思いますが割と経緯に謎の多い作品です。金・容姿・頭脳に恵まれたちょっと性格に難のある鍵斗が一目惚れしたスタイル抜群でお淑やかな美女・ゆい。しかし、清楚な白ゆいが鎖を解くと伝説のスケバンになるのだったというラブコメ。というより初期は割とエロコメよりだったのですが、15話より突然ご当地スケバン変態バトル物に路線変更します。

 

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初期はTOLOVEるみたいな展開。

この手の漫画にしては、ハイスペックでいけすかないイケメンである鍵斗を主役にしたのはウケが悪かったと思います。まあ、後の布石だったのかもしれませんが…。

 

ブコメが不評でバトルに移行したのかと思いきや、一巻の袖を見ると初期タイトルが「スケバン猛将伝」。アナクロすぎてダメ出しされたのでエロコメ路線をミックスしたのか、リボーンみたいな日常→バトルをやる予定だったのかこの辺りが不明ですが、読んでる側としては急激な路線変更に戸惑いました。

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表紙の絵柄などかなり頑張って今までの作風と変えていたあたりは好感が持てますが、正直ラブコメ路線は新鮮さがなかったので、1周回って新しいご当地スケバンの方が好みではありました。実際SNSでも盛り上がっていたと思いますが、この路線が固まり切る前に連載終了が決まってしまったのが痛かったです。

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表紙絵はかなり絵柄をかえてました。個人的にはかなり好み

 

見開きスケバン対決+描き文字が出たのが三巻の頭。この後、死のバイオリンスケバン、人造スケバン、日本最古のスケバン、怪光線お釈迦スケバンとどんどんと常軌を逸した能力バトルになるとともに盛り上がってきたのですが、時すでに遅し…。

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蟲を利用して少女を戦士(スケバン)にする。この設定を早く出しておけば…

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いや、それにしてもスケバン達が山風忍法帖並みの異能を使う理由としてはよくわからないんですけど、音を聴くと死に至るバイオリンやら、人形と同じ運命を辿る力やら、エネルギー波を出す能力ですよ?

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フランス外人部隊より御庭番衆より強いスケバン

 

 

終盤登場したお釈迦スケバンに至っては、令和の時代に「シャカの目が開いたーっ!」を目にすることになるとは思いませんでした。まあ、ここは流石に連載終了が決まってはっちゃけていたのかもしれません。しかし、序盤から怪光線お釈迦スケバンくらいはっちゃけてくれていれば忍者と極道みたいになれたかも…。惜しかった。

 まあただ、序盤の日常系エロコメ(ファンタジーの度合いがゆいの二重人格くらい)から突然のスケバンバトルという落差にやられた面もあると思いますので、1話から都道府県スケバンバトルを全面に押し出されていたらここまで心に残る作品にはなってなかったかもしれません。さじ加減の難しいところ。

 

コミックのスペースで披露されるご当地スケバンが哀愁をそそります。津尾さんは岐阜の木刀二刀流スケバンが好みでした。

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登場しなかった巨大化スケバン、闇照大御女神スケバン、脳漿スケバンフリッカ、分裂スケバン、地獄基地スケバン、播州皿スケバン、装甲師団マッドスケバンあたりも見たかったですね。

 

 

 

 

というわけで番外編も今回で終了。

4、5巻完結の打ち切り漫画のとしては、比較的名作の声の上がる「タイムウォーカー零」、「マインドアサシン」、「みえるひと」や「ワークワーク」、伝説のプレリュード「タカヤ」、小畑先生の原点「サイボーグGちゃんG」、ジャンプでやるには地味すぎた「影武者徳川家康」、最近でもちょっとやりたいことがわかりにくかったけど人気はあった「ニライカナイ」、最後の超大物「サムライ8」なんかがあるのですが、まあその辺りは機会があれば……。

 

番外編 賢い犬リリエンタール 

賢い犬リリエンタール 全4巻 葦原大介 

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ワールドトリガー葦原大介先生のデビュー連載。ジャンプっぽくないハートフルコメディの為連載期間は短いけれど、葦原エッセンスは感じ取れます。理詰めの考察展開や、軽妙な掛け合い、ちょっと変わったキャラクターなど、「らしい」お話。

 

兄と2人で暮らすてつこは、ある日海外を飛び回る両親から不思議な力をもったしゃべる犬・リリエンタールを届けられる。リリエンタールは不思議な現象を起こし、2人はリリエンタールと謎の組織の起こす騒動に巻き込まれていく。

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リリエンタールが光ると不思議なことが起こる

 

リリエンタールが凄くいい子な上、登場キャラクターが謎の組織のメンバーを含めてほとんど悪役がいない為、優しく、心地よい物語になっています。パンチは弱かったんでしょうが、もう少し続いてもよかったと思わせるできでした。

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謎の組織の一員、紳士。

チェスで勝つために初心者を探してチェスの相手をさせる。リリエンタールと勝負するが、会話も勝負もゆるゆるである

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でも結末はいい話

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あと、ゆきちゃん可愛い。

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終盤ややバトル展開に入りますが、バトルも悪くなく、ワートリにつながる片鱗が伺えます。

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クールスーツ美女のバトルカコイイ

 

拳法使いのてつことメカの天才の兄、面白いもの好きのゆき、幽霊のマリー、組織の紳士、サングラス、スーパー宇宙猫、ライトニング光彦など、キャラが多いわりに立ち位置が纏っているのでスッキリ読めます。

 

とにかく健気なリリエンタールが可愛いく、周囲のキャラにも悪意がないので、ほのぼの路線が好きならオススメです。長く続けばルーミックワールドみたいになっていたかも…。

 

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「おことわる」とか「ごぼうむき」とか緩い言語センスが好き

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サムライうさぎとか、背筋をピンと!とかもそうだったんですが、恐竜大紀行や惑星を継ぐものとは別の意味でジャンプに求められるテンションではなかったですね。この終わりのない学園祭感で掲載時にはサンデー向きの作家さんかなと思ったんですが、次作で見事にジャンプ向けの漫画を送り出したのは称賛に値すると思います。