アヤシモン 2021年
アヤシモン 全3巻 賀来ゆうじ 2021年
ジャンプ+で連載の「地獄楽」でスマッシュヒットを飛ばし、アニメ化も決定した賀来ゆうじが本誌に凱旋した期待の作品。師匠の藤本タツキの「ファイアパンチ」→「チェンソーマン」と同じルートであり、奇しくも次の週から連載された伊原大貴の「恋するワンピース」→「守れ!しゅごまる」も同様のルートで本誌掲載を決めていました。
「妖しき裏社会バトル」というキャッチコピーが用意されていましたが、ジャンプのキャッチコピーは「ロマンホラー真紅の秘伝説」とか「日本一慈(やさ)しい鬼退治」とか割と訳のわからないものが多いので、まあご愛嬌。
話としては、極道+妖怪+バトルという形態で、ジャンプヒーローに憧れて特訓をしたことによって訳がわからないほど強くなってしまった人間の少年マルオが、1990年代の新宿で、大親分が死んで覇権を争う妖怪極道の抗争に首を突っ込んでいくというお話。
キン肉マン、悟空、承太郎に憧れるバトル大好きな少年マルオ
90年代ジャンプヒーローをフックに、めちゃくちゃ強いがモブ顔で単純バカな主人公がバトルでスカッと悪役をぶちのめしていく話のつくり。なんですけど、アウトラインの時点で、「ワンパンマン」とか「マッシュル」の系統が頭に浮かぶので、特に連載中のマッシュルと競合しないように見せなければならないというハードルがありました。
マッシュルが、すごい魔法!それを上回る筋肉!という相対的に「凄さ」を見せるメソッドを確立していたので、すごい妖術!それを上回るパワー!というだけでは新規性がうすかったです。かと言ってこの設定では頭脳戦は厳しいというジレンマはありました。一応、姐さんという頭脳担当のバディがいるという強みと90年代ヒーローというとっかかりは作っていたんですけど、あんまり活かせませんでした。
マルオの親になるウララ姐さん
父の死の真相、復讐、歌舞伎町の天下取り、復讐のコマとして使うマルオとの関係と、精算する関係性の多いもう1人の主人公
連載は、マルオとバディとなるウララが出会い、ウララの父「鬼王」がつくった炎魔会の後継争いに名乗りを上げるべく歌舞伎町に向かうパートを描きつつ、アヤシモンやタイマンの儀、歌舞伎町の状況について説明していくんですが、特に敵がパワーアップしていくわけでもなく、ドラマ性があるわけでもなく、マルオが凄いパワーで敵を倒すだけの話が続いたのは序盤の挙動としては訴求力が弱かったと思います。マッシュルと比べても爽快感がうすい。一撃で決まる勝負なら対戦相手にフックが欲しいところで、折角相手が極道なので凄い嫌な奴とか悪い奴にすれば爽快感上がりましたのにね。
ドラマ性がウララ頼りで、橋姫の話なんかは良かったと思うんですけど、マルオ側は「戦いたい」しかないんでバトルにあんまりコクがない。
あとこの漫画、全体的に極道である必然性が薄いんですよね。人間界に潜む妖怪の勢力争いをあえて極道にした意味があまり感じられません。
金が依代になるから金を集めないといけないという設定はありますがこれもあまり話に絡んでこないですし、まともな職につけないから極道をやるしかないのか、非合法な手段でも金が必要なのか、妖怪が個人行動していたら狩られるので集団を作らないといけないのか、妖怪の性質的に極道が向いているのか、その辺りの描写がない上に、極道らしいシーンがないです。
シマ争いは流石にしてるんですけど、みかじめ料を取るわけでも、企業マフィアをやるわけでも、賭場を開くでも、シャブを売るわけでもなく、女を沈めるわけでもない。かと言って古のヤクザみたいな義兄弟になったり、仁義を重視したり、侠客として弱いものを守るわけでもない。悪役としての反吐が出るような弱者を骨までしゃぶるような描写や、オラつく描写もない。
極道らしいのは、マルオとウララが盃交わすところと、ウララの刺青要素くらいじゃないですかね……。
金が依代で単純に死にはしないアヤシモン
勝負の結果が確実に履行されるタイマンの儀
6話からは、当面のボスとなる二代目炎魔会会長「独歩」が登場。ボスの顔見せ、マルオの力不足、初代会長「鬼王」の死に何か事情があったことあたりを提示するんですが、この、序盤の敗北イベントってに6話かけたのは悪手でした。話数をかけた割にラスボスがあんまり魅力的じゃないということもそうですが、負けイベントなのに、さらに謎の提示ばかりなので読んでて全くスッキリしないです。何故、独歩はウララが鬼王の娘と気がついて泣いたのか、独歩は何の妖怪なのか、ウララを生かしておかない理由は何か、街のためとはどういう意味なのか、角彫の秘密とはなんなのか、鬼王の死の真相とは、怒涛の匂わせです。あと馬鹿だけど最強系の主人公かと思ったらあっさり敗北するのである強い主人公を見たかった人たちには期待外れな展開だったんじゃないでしょうか。
ビジュアル的にも雑魚っぽいんですよね。独歩。
そして、炎の妖怪だから攻撃が効かない。
ロギアかよ。
何やら因縁があることは匂わされるんですが、この因縁が解明されることはありませんでした……。
この後、敗北して、リベンジのために元炎魔会のグループ轟連合に接触して仲間を増やしていきます。ようやく本筋に戻ってマルオとネームド妖怪のバトル、ついでに仲間になったテンの見せ場、バトルはまあスッキリして良かったのですが、水に触れさせないと攻撃の当たらない敵ってまたワンピくさいわね。
元炎魔会四大勢力の暴走族、轟連合のトップ・コットン
なんかこうこういうカッコいい現代アレンジ妖怪とスタイリッシュバトルしていってた方が良かった気がします。
続いて仲間を増やすために、四大勢力の次なる組織に声をかけよう、というところで打ち切りが決まってしまったのでしょう。
四大勢力の一つを倒した新キャラは尻子玉を抜いた後登場しませんでした。
尻子玉を抜くためだけに登場したカッパ妖怪の女
お前なんだったんだよ……。
最後の方は怒涛の打ち切り展開で、概念を攻撃する力、まあ覇気なんですけど、を特訓で身につけたマルオが一度負けた独歩のコピーを倒し、仲間を増やして本当の独歩と戦うところで話は終わります。
俺たちの戦いはこれからだ!
結局、陰陽寮は顔を見せただけ、一匹狼のアヤシモン・志良もでず、鬼王の謎はわからずじまい、カッパは尻子玉抜いただけ、極道要素は殆ど消化できず、ジャンプヒーローはあまり絡んでこないという消化不良感。
これ、レッドフードなんかもそうですけど、事前に設定を練り込みすぎて、用語解説と謎の提示をやって話が進まないうちに人気が取れずに打ち切られてる感じなんですよね。多分本当のラスボスはラスボスで考えられていて、「事情があって悪人ヅラしている責任を負わされて背伸びしている小物」みたいなポジションに独歩がいる。
そうすると微妙なビジュアルとかにも納得がいくんですけど、話がそこまですすまないんで、「微妙なビジュアルのラスボスと戦うところまで行かない話」というメチャクチャ中途半端な話になってしまっています。
凄い強いマルオがバンバン悪い極道妖怪を倒していくお話の爽快感で序盤をひっぱるか、さまざまな妖術を使う妖怪に対してパワーのマルオと頭脳のウララで戦うバディ能力バトル形式でバトル自体の面白さを押し出すか、ほったらかしにされた隠し子ウララが跡目争いに参戦しつつ父の思いに気づいていくドラマメインにするか、どれかに絞っていたらもう少し纏まった話になったと思うんですけど……。ちょっと序盤に欲張りすぎたかな……。
キャラクターデザインや画面の見せ方は上手かったので、一部で評価は高いです。
まあ、少しもったいなかった作品でした。