津尾尋華のジャンプ打ち切り漫画紹介

週刊少年ジャンプの三巻完結以内の打ち切り漫画の紹介。時々他誌や奇漫画の紹介も。

番外編 ACE-001 1984年

ACE-001 全1巻 大西志信 1984

f:id:jiholeopardon:20210926225619j:image

 

今回は番外編。何件か問い合わせいただいたので、ミスターライオンの大西志信先生がフレッシュジャンプに掲載したSFアクション漫画について。

 

軍事企業で生物兵器開発に携わっていた世界的生物学者の母親が作った、人間に変わって最前線で戦う強靭な力と再生能力、変態能力、闘争心と破壊欲をもつ人造生物ACE001。母は完成したACE001を連れて企業を脱走し、娘に託して姿を消した。

f:id:jiholeopardon:20210926231142j:image

託された佐久間ヒフミは、ACE001を弟として育てる。姉を思い優しく育った英一=ACE001だが、軍事企業の追手が迫り、姉と自分を守る為、戦いに身を投じることになる。

 

親族に生物兵器を預けるなよとか、後ろ盾もない24歳の中学校の教師の娘に預けても軍事企業が速攻で奪い返しにくるだろとか細かい点は気になりますが、根本的には破壊と殺戮の本能を持つ生物兵器ACE001が優しい人間に育てられることで本能をおさえられるのか、殺戮兵器に成長してしまうのかという部分が話のキモ。

f:id:jiholeopardon:20210926234945j:image

普段は優しい英一だが、戦うことが引き金で、凶暴性や破壊本能が目覚めてしまうという永井豪先生が描きそうな設定。永井作品だと確実に殺戮兵器に目覚める展開ですが、こちらは愛と優しさで抑え込みます。

 

1話で闘争本能に目覚めた姿をさらし人間の姿に戻るも今後の不安を漂わせ、

f:id:jiholeopardon:20210926235035j:image

2話では英一にできたガールフレンドがサラ金のヤクザにレイプされ、復讐のために生物兵器に体を渡し化け物になるという重い展開。体を得た寄生生物ガルダをたおすため、自分ごと殺すよう英一に願うガールフレンド。

割と衝撃的な展開なんですけど、レイプされたヒロインが結構理性的かつ、主人公はヒロインがレイプされたことを知らないまま話が進むので衝撃度が薄いです。

f:id:jiholeopardon:20210927003123j:image

ガールフレンドごとガルダを殺す部分も、ガールフレンドの願いにまったく逡巡せずに一コマで殺します。そりゃないよ。ためらいなさすぎでしょ。

f:id:jiholeopardon:20210927003327j:image

 

題材は良かったんですが、作者の適性が衝撃的な作風にあってなかったかな…。あまり陰惨な話にしたくなかったんでしょうが、設定の割にほのぼの展開がはいり話が甘く、殺人に対する忌避や、兵器であって人間でない自分に対する掘り下げがほとんど描かれないです。

3話では軍事企業の社長の息子にして母の助手であった男が現れ、ヒフミに突然キスをして、求婚します。それをみて、対抗心を燃やす英一、ボディガードに立候補するヒフミを好きな学生たち。このあたり、学園ラブコメの展開なんですよね…。どうにもシリアスに振り切れない。

f:id:jiholeopardon:20210927005522j:image

f:id:jiholeopardon:20210927005524j:image

 

続く話でも、天才犬を助けるために軍事企業の工場に乗り込み、生物兵器を10体殺戮して工場をつぶしますが、企業に忠誠心を誓い敵に回ったとはいえお仲間を殺すのに葛藤とかないんか…。

 

最終的には、捕まった軍事企業の社長の息子の解放と引き換えにACE001のデータを消してもらえることとなり中米の独裁国家にのりこみ兵士たちと戦い、戦いの悲哀を感じて戦争に加味しないことを誓い、日常に戻って終わります。

 

同時期に連載していた、同じ生物兵器物であるバオー来訪者と比べても、初期の設定の割に日常色が強くなり、「自制できない破壊薬、殺戮本能」という部分がクローズアップされずに流されてしまったのが残念でした。