津尾尋華のジャンプ打ち切り漫画紹介

週刊少年ジャンプの三巻完結以内の打ち切り漫画の紹介。時々他誌や奇漫画の紹介も。

アイテルシー 2021年

アイテルシー 全3巻 稲岡和佐 2021年

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犯罪者を愛してしまう相生りさは、犯人を特定するためなら様々な犯罪行為をも厭わないストーカー刑事。犯人に付き纏うことで結果的に自首させることから、警察内でも特別扱いされている。

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刑事物はあらゆる刑事がやり尽くされているというジャンルで、女子高生の刑事なら「スケバン刑事」が、相撲取りの刑事なら「大相撲刑事」、武士の刑事なら「サムライ刑事」、医者刑事なら「Mr.ホワイティ」、ストーカー刑事なら「ストーカー刑事アベル」という前例がいますが、毎回違う相手をストーカーする爽やかな女刑事という設定は新しかったと思います。

 

とっかかりのアイデアは魅力的なストーカー刑事ですが、設定をうまく転がせなかった印象です。さまざまなスキルを使う才能は設定されているので、ストーカーらしく奇矯な行動や、異常な発言で、りさを魅力的でエキセントリックなキャラに仕立て上げられたら良かったんですが、思ったよりもマイルドなキャラになってしまいました。みんながみたかったのはサイコヒロインの奇行だったと思うんですよね。終盤のマー編のような頭の切れる犯罪者の裏をかいて翻弄するようなポジションを序盤から見せられればまた違ったと思うんですけど…。

 

1話のストーカーぶりは期待を持てたのでこの方向でどんどん狂気を高めてほしかったです。

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実際は変態ストーカーレベルは1話が最高潮で、後はどんどんマイルドに。変態ストーカーというよりは不思議ちゃんよりになってしまいました。

連載開始時には期待値も高かったのですが、狂気が足りない以上に、路線として変態犯罪者と変態対決するのか、相生の狂人ムーブをクローズアップするのか、バディ物にして相生に振り回される常識人にするのかで、どれかと言うと3番目という一番無難な路線に落ち着いてしまいました。

 

りさの紹介の3話までが終わって、りさがおかしくなった元凶であるおそらくラスボスが登場するんですが、シ、シミュレーテッド・リアリティ!

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一部のジャンプ読者には安心院さんでお馴染みですが、これ、強大な能力とか天才性の為に物事がうまくいきすぎるとか見えすぎるとか、他人とあまりにちがうとか、感情がないから現実感を感じないとかその辺りの異常性の発露として語られる事が多いポジションなんですけど、ラスボスの異常性の根本が語られないので、うっすい厨二病みたいでボス感がないんですよね…。しかも、この男このエピソードで消息不明となりその後出てこないまま終わります。

なんだったんだよこの序章!?

 

事件自体も、警察三人で、武器を持った犯人を無力化してるのに捕縛しないで逃げるのを優先するわ、脈がないと判断した犯人が助けに来てくれるわで、ツッコミどころ満載。

 

武器をとばし、倒したのに刑事三人が逃亡優先。なぜ確保しないのか…。

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その後うたれて死亡確認も、直後に蘇ってりさたちを助けてくれる犯人。

ずさんすぎる刑事の生存確認。

ちょっと刑事物でこのガバガバ加減はどうかな…。

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この事件で、りさの相棒役の双子の刑事・左近右近のうち、頭脳派の右近が死亡し、物語としてもターニングポイントに入ります。警察官の死亡、過去の事件の犯人の殺害を許し、犯人の逃亡という特大不祥事。これを受けて、警察内に表向き存在しないi課設立がなされ、りさも犯人逮捕に協力することになります。

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数字を漢字に置き換えたサブタイトルだったのも序章が終わりという事で、次回からあいうえお50音に変わります。このサブタイ遊びもなんだったんでしょうね…。作者の自己満足だけで終わりました。

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更に新章からも、基本骨子であるストーカーで犯人逮捕は変わらず、りさが逮捕をするようになった以外、長い序章10話と左近の死を経て何が変わったかというと物語上の変化はほとんどありません。これ、最初からi課のメンバーで仕事する話で良かったんでは…。あえて、i課設立をエピソードにする必然性を感じません。

 

新たな章は、怪盗マー編。美しさにこだわる美術品怪盗マーを追う話です。やっと出てきたネームド犯罪者であり、読者の望んでいた変態犯罪者対ストーカー刑事の対決回。

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なんですが、りさのストーカームーブはさておきマーの変態ムーブが薄いです。構成上、常人には計り知れない動機、行動、犯罪をおかす犯罪者とさらにそれの上をいく、りさという形にしなければカタルシスが得られないんですが、逸脱の度合いが低い。これ、ラスボスと思われる鏡野日もそうだったので、作者の能力を上回る変態は創作できないという創作上の宿痾が出てしまったのかも知れません。多分目指したのはネウロだったと思うのですが、明らかに犯人のインパクトに劣ります。

 

りさのストーカームーブは、こういうの期待してたんだよ感なんですけど…。

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結局マー編の後は、当たり障りのない締めエピソード2話で終わり、鏡野日についてや、相生りさが犯罪者を愛するようになったエピソード、鏡野に操られ、りさの愛した誰かの話は語られないまま終わります。中途半端な設定開示は打ち切り漫画の華とはいえ、におわせた核心部分に一切触れないのはモヤモヤします。

 

作者自身が公言しているネウロファンなのですが、やりたい事に作風と適性があってなかったのかと思われます。りさ、犯罪者、左近の三者ともに逸脱の度合いが低く、どこか常識的で優しいキャラになってしまいました。特に左近がモブと変わらないので犯罪者を憎むとか、りさを操ろうとするとか、本気で愛してるとかなんらかのフックは必要だったかと。

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「キミを侵略せよ」から大幅に画力が上がり、導入で期待もされただけに残念な作品でした。

やりたい事がわかるだけに、ちょっと惜しかったと思う作品です。

 

ところでタイトルは、アイシテルのアナグラムでアイテルシーと、英語タイトルi tell cで、i課が犯罪者(criminal)に告げると、私が犯罪者に語るというトリプルミーニングかと思われます。連載が続けばCに意味が付与されていったのかも知れません。