津尾尋華のジャンプ打ち切り漫画紹介

週刊少年ジャンプの三巻完結以内の打ち切り漫画の紹介。時々他誌や奇漫画の紹介も。

番外編 ウルトラレッド

ウルトラレッド 全4巻 鈴木央 2002年

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 遅れてきた拳法漫画。修羅の門1987年を皮切りに、熱風キッズ1989年、秘拳伝キラ1995年、風の伝承者1998年など古流拳法を主役にした漫画が乱立したが、そのブームがひと頃落ち着いたあたりで掲載された拳法漫画。破傀拳を操る主人公皇閃の活躍を描く。

 

時期的にやり尽くされた感があったのが痛かったですが、天真爛漫主人公に打突での関節外しをメインにする拳法。100%の力を発揮すると体寿命を縮める魔性の拳。既存格闘技を組み合わせた新格闘技団体、血縁のライバル、拳の魔道に踏み入った父、とツボは抑えた作品になっています。

まあ、ちょっとテンプレ臭い設定ではありました。

拳法のオリジナリティはよかったです。

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まあ、なんか主人公よりはライバルの使いそうな拳法よね。

 

転校生が伝説の秘拳の伝承者で、どんどん周りの強い奴を倒していってある程度ライバルが出たところで体重無差別の異種格闘技Jr.大会という無茶な大会が開かれます。そして現れる謎の拳法を操るイトコ。修羅の門でも秘拳伝キラでも見た展開。

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肉親のライバル。同門対決。鉄板の展開。

 

 

ライバルグループの副将・相撲ベースの渡辺のおっちゃんがいいキャラで、格闘技を複合して使うドラゴンフレイム道場に置いて相撲単体で戦う愚直な男であり、大将・大我が唯一本気を出せたライバル。準決勝で同門対決をするんですが、お互いがいたからこそ高みに立てたことを互いにわかり合いながら決着をつけます。

もう一方の準決勝は肉親対決の閃対友。こちらは対称的に復讐の戦い。

 

自分の息子すら本気で攻撃しようとする閃の父・帝から閃を守るために姿を消したことがわかり、友と和解。決勝はお互い負傷した閃と大我の一撃にかけた勝負で引き分けに終わりますが、帝が姿を現し、戦いはここからだでエンド。

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全体的に頑張ってはいるんですが、先行作のにおいが消し切れてない&新規性に乏しいのが痛かったです。ともあれ、完成度自体は低くはないので好きな人は好きだったのに打ち切られた作品になっています。

 

 

番外編 蹴撃手マモル 

蹴撃手マモル 全4巻 ゆでたまご 1990年

 

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80年代、北斗の拳聖闘士星矢魁!男塾などのトンデモ格闘路線が一段落すると、87年から修羅の門、88年拳児、89年熱風キッズなどリアル系格闘技路線が流行になっていきます。

そんな中ゆで先生もリアル系格闘路線に移行。本格ムエタイ漫画でのブレイクを目指します。リア、リアル系?まあガンダムだってリアル系ですし…。

 

天才体操選手の中学生マモルは、ジュニアの日本代表としてタイの大会に出場中、生き別れの兄・イサオムエタイチャンプ・キング・パイソンの試合を観戦。必要以上に兄に攻撃を加えるバイソンに喧嘩を売り、3ヶ月の間にパイソンと4人の弟子に挑戦し、勝利しなければならなくなる。

 マモルは幻の達人ゼペット・チャンガーに弟子入りし、人並外れたジャンプ力を活かした奇想天外なキックボクサーになるべく特訓をかさねる。

 

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足の骨を折り、その骨が血管を上って心臓に辿り着くと死亡すると言う絶技。骨が上るまで90日かかり、移動と共に蛇の刺青が対象者の体を覆っていきます。うーん🧐

 

特訓も闘将!拉麺男くらいの謎科学レベルで作られた泥人形と戦ったり、蜂を打ち落としたり、膝で1トンのトロッコを動かすというレトロ風味。ぶっちゃけこの時代でもやや古めのテイストでした。

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ムエタイがマイナーな時代にチャランポ、テツ、ティーソークなどを子供達に伝えた功績はあるのですが、やはり現実路線とゆで先生は相性が悪かったのか次第に変態格闘路線に突入していきます。

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チャランポは結構流行りました

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言うてただの蹴りなのでハッタリに乏しい面はありました。そこで!

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ゲェーッ!キックボクシングに激突落下技だとーッ!?

 

敵の技もぎりぎりリアルくらいの路線から、ゴム人間とか無茶のある設定に変わっていきます。

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更にはどう見てもキン肉バスターな技なんかも出ますが、時すでに遅く打ち切り。その一年後にK1ブームが来て一年早かったと言われたそうですが、K1来ても波に乗れたかというと…。尚Wikiによると作中の特訓は現実のムエタイのものではなくゆで先生の創作との事。いや、言われなくても、ノンフィクションと思うやついないだろ!

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これは…。キン肉……バ

 

ニシキヘビ会の4人の弟子のうち2人を倒したところで打ち切り。残り2人の弟子を倒すために、満身創痍のマモルのもと2人の助っ人が現れて、「戦いはこれからだ!」で終わり。ゆうれい小僧もそうなんですけど、ゆで先生テンプレ的な打ち切りエンドを選択しがちです。

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番外編 ゾンビパウダー

ゾンビパウダー 全4巻 久保帯人 1999年

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みんな大好き師匠のデビュー連載。

巻頭のポエム。
芥火ガンマと火輪斬術のネーミングセンス。
巨乳。
マッドサイエンティスト

師匠の原点がここにあります。

 

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師匠といえば巨乳はこの頃から健在

 

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火輪斬術 走戦段 水底竜王炮とか

雷戦段 連環重雷爆鎖炮とか

空戦段    五梢空雷炮とか、

炸裂するネーミングセンスに

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殺気の黒い炎で攻撃を受け止めたり、眠ってる何かが目覚めたり、もう厨二病をくすぐるオサレ&オサレ。

 

設定からして、S0級犯罪者、右腕に黒い鎧を打ち込み、素手で銃弾を払い、銀色のコートをきた男。2000年の歴史で15人しか習得できたものがいない東国の伝説の殺人剣・火輪斬術を操る、通り名は「黒腕の死神」の9億6000万の賞金首・芥火ガンマが主人公です。あふれるぜぇ!

 

死者を蘇らせ、生者を不死にするゾンビパウダーと死者の指輪を探して芥火ガンマと相棒の銃の天才C.T.スミスが旅をするというシンプルなストーリーですが、ガンマの過去やスミスの正体など謎が多く、散りばめられた謎から垣間見えるなんかありそうな設定が絶妙に少年の興味を惹きます。

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何やらありそうなスミスの名前

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魔女?

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過去のガンマ?

匂わすだけ匂わすぜ!

 

スリの少年が幻の剣術を使う主人公に憧れてついていきながら強くなると書くとアウトラインはるろうに剣心なんですけど料理の仕方は全然違いました。

 

正直何で打ち切られたのかわからなかったんですけど、好きだったんで紅染百式が出てくるまで続いて欲しかったです。

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ラスト近くの、天才美少女サイキッカーエンジェル・クーニーとか、マッドサイエンティスト外科医ナズナジェミニは終わるんで好きにやった感はありました。

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わざわざ巻頭にポエム用のスペースを作って4巻全てポエムから始まるようにしてあるのもポイントが高いです。完成度は流石にBLEACHの方が高いですが、デビューからこれをやっていた師匠のブレなさとスタイリッシさはすごいと思います。

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おしむらくも打ち切られてしまいますが、久保帯人先生は打ち切りもおしゃれに締めくくります。

俺たちの旅は続く系エンドながらもラジオから曲が流れて終わる師匠のセンスが垣間見えるラスト。

 

なんだかよくわからんけどカッケェ!と感じた方は読んでみましょう。

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この辺りのセンスはご存じの通りBLEACHで開花していきます。師匠も一息ついたしビッグネームになったことだし続き描いてほしいと言うファンも多いいと思うんですけど、ここのところの師匠の活動見るとちょっと難しそうですねえ。

 

まあ、遠距離攻撃できる剣術や謎の魔術の存在する世界で、銃弾を払い除ける主人公がいて、威力と速度が武器に依存する銃使いが相棒は無理があるかなーとは思いました。

話が続けば殺意で威力が増大する銃とかでてきたんでしょうけど。

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番外編 アカテン教師梨本小鉄

アカテン教師梨本小鉄 全4巻 春日井 恵一 1986年 

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博打の天才破天荒教師梨本小鉄が、博打を通して生徒に人生を教えていく人情ドラマ。初期は博打で生徒を鍛えたり、トラブルに巻き込まれた生徒を助けたり、クラスの成績をカンニングであげたりと学園ものなんですが後半トーナメントが始まります。

 

まあ、初期も生理現象と時間の組み合わせで集団カンニングを行い、「この程度の不正行為が分からねえ教師に教壇に立つ資格はねえよ」とか無茶苦茶いってるんですが、経営難の生徒の喫茶店を助けたり、登校拒否児を生徒会選挙に勝たせるなど人情物の一面もあります。

 

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生理現象を使った「通し」で集団カンニング

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無茶苦茶言うなあ

 

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福本先生でもやらないような札束便器流し勝負で高利貸しをギャフンと言わせたり

 

後半貴王子が登場したあたりから雲行きが怪しくなります。最新の設備と最高の環境で行われるエリートによるエリート教育、人呼んで「教育界の貴公子」。小鉄の生徒を貴王子が教育する事で一悶着あり、解決した直後、「全日本有能教師トーナメント」が始まります。

 

教育漫画で!

トーナメント!!

GTOでもない展開!!!

 

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7人の超教師ってそんな7人の悪魔超人みたいに言われても…。異様にクセのある教師集団が集められ、コンピュータージローも加えトーナメントが開かれる事になります。暴力教師、警察教師、博打打ち×2、超能力教師、女性上位教師、エリート教師、コンピューター、ろくな奴がいねえ!

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しかもトーナメントとは名ばかりで、小鉄は各人の過去のトラウマをついてリタイヤさせていきます。いや、これ、指導力とか全然関係ないし、そもそもトーナメントしてないよね?


決勝はネパールの超能力教師。テレパシーで生徒に答えを教えるカンニングで勝利を目指します。結局カンニングかよ!

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しかしアビ先生は、小鉄の天に向かって唾を吐くと虹ができる技を見て戦意を喪失してリタイヤします。なんで?テレパシーカンニング続けてたら勝ってたよ?理屈はよくわからないですが雰囲気で小鉄が勝ち進み、コンピュータとの一騎打ちに。

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小鉄の選んだ勝負内容は「ジャンケン!」

いや、だから、教育とそこ関係あるぅー!?

 

なんだかんだでコンピューターを破る小鉄ですが、優勝した事で有名になった小鉄はマスコミに追われ素行が問題になり退職せざるを得ない事に。最後に生徒たちと酒を飲み、姿を消します。

少年たちと酒を酌み交わす相手が坂本龍馬のところに時代を感じますね。

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先生漫画は定番のジャンルであり、ジャンプでもミスターライオンやぬーべー、ルーキーズ、暗殺教室ぼくのわたしの勇者学保健室の死神などが連載されていました。

他誌ではGTOを筆頭に、ごくせん、ドラゴン桜、最近では、今からここは倫理ですや女の園の星などが挙げられます。今後もちょこちょこ取り上げられそうな題材ですね。

まあ、ここまで無茶苦茶なのはもう無理でしょうけど。割と打ち切り漫画の中でも記憶に残ってる人の多い漫画だと思います。

 

蛇足ですが、札束便器流しの回は、酒を医者に止められてる生徒の父(元小鉄の子供時代のヒーロー役を演じてた役者)が高利貸しに酒を強要されるのを助ける為に高利貸しと戦ってやり込めた上、経営難だったお店を助ける為に300万を得るんですが、小鉄に助けてもらったお父さんが止められた酒を飲もうと持ちかけるんですよね。

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「男には体の具合も省みず飲まなきゃならん夜もある!」じゃねえよ!

 

お前に酒を飲まさない為にギャンブル勝負やってたんだろうが!

 

この数日後にお父さん死んでしまうんで子供心にもあれ?この話おかしくない?と思ったものでした……。

 

 

番外編 サイバーブルー

CYBERブルー 全4巻 原作BOB  脚本 三井隆一 作画 原哲夫 1988年 

 

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生命維持装置がないと生きられない惑星ティノスで生まれたブルーは、罠に嵌められ死亡するところに居合わせた300年を生きるコンピューターファッツと合体。人の心と300年の叡智をもつ機械の融合した生命体サイバービーイングとなり、惑星の秘密を探ることなる。北斗の拳で一世を風靡した原哲夫によるサイバーパンクガンアクション(途中まで)

 

原先生も北斗の拳臭を消したかったんでしょう、拳法バトルからSFガンバトルに路線変更。過酷な環境で生き抜く人間達の生命讃歌とユーモア、スタイリッシュガンアクションを描くつもりだったんだと思います。当初は…。

 

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スタイリッシュガンアクション!

 

サイバービーイングって、サイボーグと何が違うのかとか、ガンアクションと言いつつ途中から肉弾戦じゃねーかとか、決め台詞の「300と17だ」の300歳部分全然生かされてなくない?とか色々思うところはあるんですが、この作品といえば「ファック」です。

 

キックボクサーまもるがチャランポを子供達に教えたとすれば、サイバーブルーは「ファック!」を教えてくれました。

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津尾さんの周りでは大流行して、なんとなく大人の香りのする言葉に憧れる小学生が意味もわからず「ファックファック」連呼していたものです。

ジャンプ史上最も口の悪い正直主人公という異名を得たこともあり、あんまりブームにならなくて良かったかもしれませんわね。

 

領有権を主張する為に過酷な環境の惑星で殺し合いをさせられたティノスへの移住者達は地球を恨み、地球征服のためテロを起こそうとする。地球との戦争を避けようとした最初の移住者は、その記憶と記録をファッツに託し、戦士としてブルーが選ばれた。というストーリー。

コンピューターでの分析、精緻な射撃、サイバーシティーのコンピューターをコントロール、脳内のハッキング、300歳の経験から紡がれるユーモアという、おそらく寺沢武一の「ゴクウ」をやりたかったと思うんですが、バトルがどんどん肉弾戦になって行き、それにつれて消しきれない北斗の拳臭が漂ってしまいました。だいたい無力な子供達や市民、理不尽な権力者と、ヒャッハー達という構図が北斗の拳なんだよ!

 

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筋肉質な男達が、男の誇りをかけて肉弾戦を行なって友になるのはもう北斗の拳なんよ。

 

地球征服作戦を止める為に4人の元老の腕輪を集めることになるのですが、地球に向かったあたりからその傾向が強くなります。生物の遺伝子を掛け合わせて作られたバイオビーイングが登場し、蜘蛛のバイオビーイングドーベルマンのバイオビーイング、獅子のバイオビーイングが敵として立ち塞がります。

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バイオビーイング虚数エネルギー・シャドウフォースを操る新人類!

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全然わからない説明なんですが、なんだかすごいエネルギー波をだしてくるので普通の手段では戦えません。ブルーも光子(フォトン)で対抗します。

遊戯王くらい前提条件のわからない戦いに後出しで能力が追加されて行きます。これもうわかんねえよ。

 

結局人の意志の力がサイバービーイングを進化させて戦いに勝利します。まあ、ちょっと打ち切りも仕方なかったわね……。

 

しかし、北斗の拳亜種に見えますが、ちょこちょこと「笑い」に挑戦していまして、原先生の笑いのツボが読者層とあっているかは置いておいて僕は結構好きでした。

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女を褒めるのにスキャンした内臓を褒めるブルー

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ラスボスが急激に老化してギャグジャンプ

 

でも北斗の拳でも、「あるのかないのかどっちなんだ?」とか「お前のようなババアがいるか」とかやってたから原先生の素かもしれませんね。

 

一応、原哲夫パワーで、ゼノンでリメイク作『サイバーブルー 失われた子供達』『クロスバトラーズ』が掲載されたので気になる方は御一読を。

 

 

番外編 瑪羅門の家族

瑪羅門の家族 全4巻 宮下あきら 1992年

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とある事情で知っている人も多い宮下先生の打ち切り漫画。

念を打ち込む事で人の行動を操る瑪羅門一族が、悪に仕置きする必殺仕事人物。後半はジャンプらしくバトル漫画に転向して世界を陰から操る魔修羅一族と瑪羅門7人の選ばれし戦士が戦います。

 

根本的には必殺仕事人なんですが、まずジャンプにはブラックエンジェルズという仕事人物の大先輩がおり、次に念で行動を操る能力なんですが、こちらもタイムラグのある死・行動の操作は北斗の拳という前例があります。つまり、なんとなく新鮮味が薄かったんですよね……。

 ブラックエンジェルズほど悪人がド外道ではなく、北斗の拳ほどの拳法のインパクトがない。更に念で操ることで自白などもさせられるので、物語が最も都合よくたたんでしまえるという予定調和感。 

 

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念を打ち込むことで相手の行動を操るんですが、

「護衛している大統領を盾にテロリストに命乞いをした上で大統領をテロリストに差し出し、死にたくないから逃げると言わした上でトラックの前に飛び出して轢かれる」ところまでコントロール可能です。ちょっと能力が行き届きすぎだったんだ……

 

 結局仕事人編は弾けずに、バトル編に突入します。悪を裁く瑪羅門に対して、歴史の裏から人々を操ってきた魔修羅一族。ヒトラーも信長も奴等の傀儡だったのだ。

 

 でたー!80年代によく見た歴史上の人物が巨大な組織の操り人形やったやつや!だいたいヒトラーが皆勤で次点でナポレオン、ジャンヌダルクアレキサンダー大王がその後に続くといった感じ。

 

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貴重な宮下あきら織田信長カット。

信長名鑑には登場したのだろうか…?

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これに合わせて、瑪羅門の念を打ち込む能力は、7つの能力の一つということに変更、7つの力をもつ7人の戦士を集めて魔修羅と戦う展開になります。

念能力以外は、力持ち、素早いやつ、身の軽いやつ、動物と喋れるやつ、炎を出すやつ、なんでも砕くやつ。

なんかこう、能力といい、設定といい当時でも"懐かしい"感じのテイストでした。

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当然ブレイクするはずもなく4巻で終わってしまうんですが、民明書房みたいな慣用句(?)からこじつけた能力の紹介は宮下先生らしかったのでもっと見たかったです。

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さて、 打ち切り漫画大好き津尾さんが、瑪羅門の家族を気に入っているのは懐かしいテイストの設定ということもありますが、真骨頂はその終わり方にあります。7人の戦士を揃えて、魔修羅最強の男と対決をするところで作品は終わりを迎えるのですが、

「ラスボスは先にある宮殿で主人公達を待ち構える」

「ラスボスと戦う資格を示すために3人の敵を倒す必要がある」

「最終回で怒りで新たな能力に目覚めて強敵を倒す」

「3人の敵の最後の1人は、仲間達ではなく謎の人物が倒してくれた」

「謎の人物の正体は『いずれわかる』でごまかす」

「最終ページは『行くぜ‼︎』で終わり」

という原色超人ペイントマン(https://utikirimanga.hatenadiary.com/entry/2021/04/02/121935)並みの打ち切り仕草が炸裂します。

 

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新たな能力が突然発動するけど特に説明はないぜ!

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最終回なのに「いずれわかる」というあからさまな説明放棄アンド闘う尺がない敵の処分

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打ち切り漫画の華、大コマで行くぜ!

 

サスケ忍伝、ペイントマン、ビルドキングに並ぶ打ち切りムーブだと思います。そういうの、好きだぜ。

 

 

 

 

番外編 ゆうれい小僧がやってきた

フォロワーさんから、Twitter版でやってた4巻以上の打ち切り漫画もブログに上げてくださいというリクエストがあったので、ちょっとだけ番外編として追加していきます。

 

ゆうれい小僧がやってきた 全5巻 ゆでたまご

1987年

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2身1体の妖怪百太郎、琴太郎は合体して亜鎖亜童子に変身し、火山の噴火により封印から逃げ出した108体の妖怪を退治するという妖怪退治物。前半はクラスメイトの関わる怪異を解決。後半はジャンプらしく西洋妖怪とのバトル物へ。

 

鬼太郎やどろろなどの名作妖怪退治物に憧れていたというゆでたまご先生による現代風妖怪退治物。妖怪退治物としては比較的ベーシックな作りで、正義の妖怪亜鎖亜童子がクラスメイトの周辺で起こる怪異や呪いと闘います。鬼太郎とかぬーべーとかに近いフォーマット。

 

人間の欲望が妖怪を引き寄せたり、過去の伝承を忘れた人間が安らかに眠る妖怪の目を覚ましたり、妖怪の生きにくい世界になったので妖怪が人間を利用したり、単に悪い妖怪が人間を苦しめたり、この辺りは妖怪物の定番と言ってもいいんですが、妖怪が流行りのパズルを使って2人の合体を阻止しようとするあたりがゆで先生です。

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迷宮を破るときに亜鎖亜童子に組み変わりますが敵にダメージもないしこれを使って戦うわけでもないし特に意味はありません。ゲエエーじゃないんだよ。

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特徴はニ身一体妖怪なんで、2人が離されたり、絆にヒビが入ると変身できなくなるという点。まあバロム1にウルトラエース、超機動員ヴァンダーなんかの形式で、主人公は強くしたいけど強いとあっという間に敵を倒してしまうので、合体前という段階を作り、同時に2人の関係性で物語を膨らませる手法です。

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ただ、この作りのせいで、日本屈指の正義妖怪亜鎖亜童子をなかなかだせないため、実質的に百太郎ベースで話が進みます。主人公があんまり出ないというデメリットとストレスはあったかもしれません。子供心に焦ったいと思っていました。

 

前半路線のクラスメイトと妖怪退治路線も悪くなかったと思うんですけど、爆発的に跳ねるというほどではなく、2巻からは西洋妖怪との対決というバトル路線に進んでいきます。まあ、妖怪物の定番の一つではあるんですが、そこはゆで先生、一味違います。

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ゲェーッ!妖怪物なのにリング⁉︎

 

妖怪がリングでプロレスというヤクをキメたかのような発想でバトル編に突入します。流石ゆで先生!こんなこと考えるの先生だけだぜ!そこに痺れる憧れるぅ!

 

と思ったら妖怪にプロレスをやらせる企画が現実にもありました。

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どいつもこいつも何考えてやがんだーッ!!

 

 

白眉は、悪の西洋妖怪が攻めてきて、日本妖怪のアジトを聞くシーン。基地の場所を聞いておいて即虐殺を行い「これで、奴らの味とがわからなくなってしまった…」シリアスな笑いか?超シュール。

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バトル編となればゆで先生の独壇場。もはや妖怪ってなんやろと考えさせられますが、超人オリンピックみたいな予選を経て7人の正義妖怪が選出されます。勿論このメンバーは妖怪募集で読者から募集した妖怪が何割かを占めています。

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この辺りで読者も、ちょっとこれキン肉マンに寄せすぎじゃないかしらという疑問が頭をよぎりますがゆで先生は止まりません。

ビリヤードリングや竜巻リング、スケボーリング、コールタールリングと妖怪?こまけえことはいいんだよと言わんばかりのリングで西洋妖怪とのプロレスが繰り広げられます。

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これが、妖怪の闘い?

 

流石に前作に寄せすぎたのか会えなく打ち切りを喰らうんですが、単行本版書き下ろしで一応ケリをつけるところまではやってくれています。

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本誌のラスト。この後書き下ろし12ページで決着がつきます。

 

四次元エレメント交差の原形もかいまみえますし、なんだかんだでゆで先生好きなんでオススメはしておきますが、サイレントナイト翔、サイバーブルーなどと同様前作の大ヒットを引きずり過ぎた失敗の一つというのは否定できないと思います。

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一応アニメ化のオファーが来てたらしいので、紙一重くらいだったのかもしれないですけど…。

前半路線で行って欲しかった作品です。

 

ところで、「妖怪物の漫画を描くと怪現象に出会う」という妖怪・怪奇物でよく言われる現象ですが、この妖怪プロレス漫画ですら作者は原因不明の体調不良に襲われたらしいので妖怪たちのカウントはだいぶシビアと思われます。オンドボハンランジキソワカ…。