津尾尋華のジャンプ打ち切り漫画紹介

週刊少年ジャンプの三巻完結以内の打ち切り漫画の紹介。時々他誌や奇漫画の紹介も。

元気やでっ  1995年

元気出してやでっ 全1巻 原案 土屋守 脚本 次原隆二 作画 山本純二 1995年 

f:id:jiholeopardon:20210408150127j:image

 

厳密には打ち切り漫画ではない。学校におけるいじめが社会問題になったのを受け問題提起を行うべく連載された企画漫画。クラス替えを契機にいじめられはじめた幸子の戦いを描いた漫画。

 

実話を元にしたフィクションであり、問題提起の作品のため、次々と連鎖するいじめを描いており、班→クラス→担任教師→校長までつづく対応のいやらしさと、最後まですっきり解決をしないのがリアルではあるが、後味は悪いです。

 

はじめはクラスの班から。リーダー格の女子以外はやや及び腰です。

f:id:jiholeopardon:20210408220742j:image

班からクラス全体にいじめていいという雰囲気が広がる。班員たちはすでに全く罪悪感がない。
f:id:jiholeopardon:20210408220802j:image

荷物持ちから、より直接的に生徒手帳や机に死ねという落書きがかかれ始める。

担任教師は見て見ぬふり。
f:id:jiholeopardon:20210408220747j:image

無視から暴力へと発展。

この辺りは匙加減を徐々にエスカレートする様に調整しているようです。
f:id:jiholeopardon:20210408220806j:image
f:id:jiholeopardon:20210408220753j:image

周囲生徒の参加はしないが、止めないし助けもしないという心理。教育実習生から言われてものらりくらりと動かない校長など、学校環境での原因、いじめが止まらない仕組みはよく描写されていると思います。
f:id:jiholeopardon:20210408220810j:image
f:id:jiholeopardon:20210408220750j:image

飛び降り自殺を考える幸子
f:id:jiholeopardon:20210408220739j:image

机に花瓶
f:id:jiholeopardon:20210408220759j:image

 

最終的にはメディアに訴えることでようやく周囲に応援してくれる人も出て、教育委員会も動き、校長が対策をすることを約束しますが、幸子の要望は完全には通らず、いじめの証拠を握りつぶした担任教師には何の罰もなく、いじめていた班員は罰の悪いおもいをした程度で謝罪も反省もしません。

 

美味しんぼなどに代表される、そんなことでいじめがなくなったら苦労するか!というお約束によるいじめ問題の解決という結末よりはきちんとリアルなんですが、あまりにも座りが悪いおわりかただったため、カタルシスのなさが辛かったです。

 

一応いじめ自体は消退し、前向きになれたというエンディング
f:id:jiholeopardon:20210408220756j:image

 

エンタメを書いているわけではないという理屈はわかるんですけど、個人的にはフィクションくらいはすっきりしたい。ハッピーエンドが見たいという主義のため、主犯か、担任教師か、校長から何がしかの区切りとなる謝罪またはざまあとなる窮地を見せてほしかったです。


今読んでも辛い作品です。
テンションがさがる…。

RASH!! 1994年

RASH!! 全2巻 北条司 1994年 

f:id:jiholeopardon:20210408134309j:image 

事あるごとに問題をおおきくするトラブルメーカーの勇希は、拳法の達人にして腕のいい医者。面倒に巻き込まれながらも患者の治療を優先して行う。地元に帰って刑務医として役立とうとする勇希だったが、師である想い人でもある新田はヤクの売人を殺すなど、治療のためなら殺人も行う男だった。囚人となりながらも外界の事件を把握し、新たな「処置」を行おうとする新田を止めるため、勇希は自分なりの答えを示そうとする。

 

相変わらず美麗なキャラ絵は流石

f:id:jiholeopardon:20210408134942j:image

破天荒女医という設定も悪くなかったと思います。本格医療物の方に進めばシティーハンター、キャッツアイとも違うジャンルで花開いた可能性はあったのですが…。

f:id:jiholeopardon:20210408134947j:image

 

ハンニバルもどきのボス、師である新田をとめるサスペンスに発展して行きます。

f:id:jiholeopardon:20210408205036j:image

f:id:jiholeopardon:20210408205040j:image

 

社会の悪にどう対処するかに話は変わって行きます。一介の医者の仕事ではない。話が壮大すぎる、医療物で無くなったなど、話のブレと感情移入のしにくさが敗因だったと思います。

f:id:jiholeopardon:20210408205132j:image

 

今でこそ医療漫画は隆盛を迎え、医療漫画50選なんてものがあるくらいですが、この頃はスーパードクターKくらい。ブラックジャックという金字塔があるにしろ、掘り起こされてない医療漫画分野という着眼点は良く、地味になりがちな医療ドラマを美人刑務医、トラブルメーカーの要素で少年誌向けに仕立てる努力は見て取れます。しかし、途中からハンニバルがモデルであろう、囚人であり師であり、恋慕の情を抱く殺人鬼を止めるサスペンスに路線変更してしまったのは失敗だったと言っていいでしょう。

前作で、自分のイメージが固定されることを嫌った北条先生は「美女とアクション」を封印して「こもれ陽の下で…」に挑み、今作で「美女と医療」に進むはずが、結局「美女とアクション」に戻ってしまいました。純粋に医療漫画に専念したところも見たいところでした。

 

作者自身が前作で好きにやらしてもらったので編集の意向に沿うようにしたのがブレた原因だったとコメントしていますが、医療ドラマと言いにくい作品になってしまいました。この後2000年に入ると、ゴッドハンド輝ブラックジャックによろしく医龍、Dr. 汞など医療漫画が大量に出現し、一ジャンルを形成していきます。

 

なんだか惜しかった感はありますが、打ち切り漫画らしい迷走とも言える作品です。

BAKUDAN 1994年

BAKUDAN 全2巻 宮下あきら 1994年 

f:id:jiholeopardon:20210408003446j:image

 

男塾の宮下先生によるボクシング漫画。極道ドラフト1位(忍者と極道とかででそうなワード!)瀑がプロボクシングヘビー級チャンプを目指す。

 

元ヘビー級ランカーのボクサーケン玉城に漢を見せられてボクシングの道へ入り、トレーニングは密室で蜂を相手にフットワークを学ぶ。男塾のような特殊環境ならともかく現代スポーツものでこのノリはキツかったように思います。体格もヘビー級ボクサーというよりはJですし、ボクシングの基礎、パンチの打ち方など何も学ばないで、トレーニングは蜂の相手のみという…。

 

極道ドラフト

f:id:jiholeopardon:20210408011153j:image
f:id:jiholeopardon:20210408011157j:image

元ヘビー級世界ランカーケン玉城に導かれボクシングへの道を歩み出す

f:id:jiholeopardon:20210408095426j:image

蜂によるボクシング特訓

f:id:jiholeopardon:20210408095642j:image

息をする様に民明書房

f:id:jiholeopardon:20210408095635j:image

 

ボクシングに打ち込むようになってから、プロ試験でライバルと戦うところではもう打ち切りがきまっていたのでしょう。

ダイジェストで日本ランキングを駆け上がり、ケン玉城を倒した因縁のエリートボクサーとの対決も一コマで終わります。

 

スポーツ漫画でリアルなテクニックが描写されるようになった時代にはちょっと合わなかったかと思います。

 

 

東京犯罪物語 1994年

東京犯罪物語 全1巻 次原隆二 1994年 

f:id:jiholeopardon:20210408002027j:image

 

人を信じる新人刑事伊達聖人と人を疑うベテラン刑事平井賢三のコンビが事件を解決していくバディ物の警察。捻りのない人情物で流石にこの時代でも古いタイプの話なので企画物ではないかと思うんですが…。ただ、企画ものにしては、いじめ問題からきた元気やでっ、ジャンプのF1スポンサー参入記念のGPBOY、Fの閃光、エディタウンゼント死去を受けて作られたセコンドなどと違い、特に連載されるきっかけが思い当たりません。かと言って編集会議でこれをいけると判断するかなという疑問も浮かびます。メカドックの功績があるとはいえ、その後4連続打ち切りを喰らい5作目ということからも単なる新連載ではなさそうなんですよね。

 

犯罪者を信じて仮病なのに病院に連れて行きまんまと逃げられる聖人

f:id:jiholeopardon:20210408002150j:image

初日から辞職を訴える主人公

感情移入しづらい…

f:id:jiholeopardon:20210408002736j:image

基本的に犯人を信じて情に訴えます

f:id:jiholeopardon:20210408002821j:image

f:id:jiholeopardon:20210408003122j:image

 

前年のこもれ陽の下で、この前の連載の不可思議堂奇譚辺りから編集に人情物が好きだった人がいる可能性はありますが…。

 

 

奴の名はMaria 1994年

 奴の名はMaria 全1巻 道元むねのり 1994年 

f:id:jiholeopardon:20210407015132j:image  

 

コンピューターのミスでスーパー教師と間違えて選ばれた暴力女麻里亜が学校の問題を解決していく、勘違い系ギャグ漫画。ジャンプ版GTO

 

無茶苦茶理論というか、力押し正論でヤクザを改心させる

f:id:jiholeopardon:20210407195538j:image

 

同じく、ヤンキー理論でいじめられっ子に、勇気を与える。いや、これで立ち上がるなら苦労はしないだろうと…。

f:id:jiholeopardon:20210407195644j:image

f:id:jiholeopardon:20210407195713j:image

 

説得をしてるフリでヤンキーをボコる

周囲の株は上がる

f:id:jiholeopardon:20210407195906j:image

自殺する少女が、ぶつかり小銭を落としたことから死ぬ前に金を返せと言いに行くのが、説得になる

f:id:jiholeopardon:20210407200018j:image

 

勘違い系の肝である、本人の知らない間に株が上がっていく展開を、すぐ本心をバラしてギャグにしてしまうので、ロングスパンでは盛り上がりに欠けたかなという印象。カメレオン矢沢の事をみんなが弱いと知ってしまっている展開というか、もう一捻りできた感がありました。

 

 GTOもそうですが、そんなことで改心したら苦労しねえ!&そんな勘違いする?を連打してくるのをきれいにまとめるほどの勢いや説得力には欠けました。コンピュータミスで選ばれたむちゃくちゃ教師の人間味や無茶苦茶ならでは魅力を活かしたいなら、生徒を問題児にして教師の欠点を抑えるべきだったと思います。GTOや梨本小鉄がこの手法ですが、なまじ破天荒なだけに生徒がいい子だと、教師サイドの悪い面が目についてしまいます。生徒を悪役にして教師のあらくれぶりに目を瞑らせるか、生徒の抱える問題を常識はずれにして、教師の長所をクローズアップするべきだったか。

 

デビュー連載なので構成の甘さは仕方ないところもあります。次作の大好王ではかなり考えて話を作ってきた感がありました。

 

うるとら⭐︎イレブン 1994年

うるとら⭐︎イレブン 全1巻 藪野てんや 1994年 

f:id:jiholeopardon:20210407093924j:image

 

低い頭身のキャラでコロコロ?とおもったらその後本当にコロコロでイナズマイレブンを描くことになるやぶのてんや先生でした。
36連敗中の城東FCが戦術を覚えて変わっていくというサッカー漫画。

Jリーグ開幕に合わせた短期集中連載だった模様で、サッカー解説の側面が強いです。各話、各ポジションや戦術についての解説を交えながら、強豪チームとの試合をえがいていきます。

 

1話1ポジションまたは戦術についての解説

あとは、オフサイドとかリベロとかPKとか

 

オフェンシブハーフ

f:id:jiholeopardon:20210407094024j:image

ターゲットマン

f:id:jiholeopardon:20210407094131j:image

ディフェンシブハーフ

f:id:jiholeopardon:20210407094018j:image

ゾーンプレス

f:id:jiholeopardon:20210407094119j:image

 

出てくるキャラは93年のオフトジャパンのメンバー。まあ大体見ればわかりますね。

 

オフト監督は布藤監督

f:id:jiholeopardon:20210407094303j:image

主人公は情熱的な司令塔・羅本

f:id:jiholeopardon:20210407094350j:image

天性の嗅覚を持つ火浦

f:id:jiholeopardon:20210407094435j:image

守りの切り札盛安
f:id:jiholeopardon:20210407094018j:image

バックの司令塔桂谷
f:id:jiholeopardon:20210407094419j:image

中盤のダイモナ北川
f:id:jiholeopardon:20210407094429j:image

リベロ飯原
f:id:jiholeopardon:20210407094440j:image

スーパーサブ中山田
f:id:jiholeopardon:20210407094446j:image

 

敵チームにはブラジルからの留学生

アルサンダー
f:id:jiholeopardon:20210407094424j:image

 

企画ものの中で、色々とルール説明などの縛りもある中ではかなりエンタメしている作品だと思います。

 

不可思議堂奇譚 1994年

不可思議堂奇譚 全1巻 えんどコイチ 1994年 

f:id:jiholeopardon:20210406140626j:image

 

夢や希望を失った人だけが来店できる不可思議堂では不思議な商品を売っている。その商品を買った結末は…という人情系アウターゾーン。この手の話にはバッドエンドも含まれる事が多いが、作者らしくバッドエンドがない。

 

夢や希望を失った人だけが来店できる

f:id:jiholeopardon:20210406142522j:image

 

毎度不思議な商品で救われる人々の姿を描く

f:id:jiholeopardon:20210406142604j:image

 

不思議アイテム

f:id:jiholeopardon:20210406142740j:image
f:id:jiholeopardon:20210406142729j:image


 

死神くんの様な1話完結のオムニバス形式で人情味は強いですが、前述のバッドエンドがないことなどパンチが弱かった感はあります。この手の話が、エンディングの多彩さがあってこそと言うことがよくわかる内容。アウターゾーンが毎週毎週、ハッピーエンド、バッドエンド、ビターエンド、問題提起など取り混ぜて連載していたのは凄いですね。

 

そのアウターゾーンもヒットはしましたが、当初はさほど人気が出ないことを想定して10週限定での連載だったので同様の形態だったのかもしれません。言い換えるとアンケは取れなかったんじゃないかなと…。