津尾尋華のジャンプ打ち切り漫画紹介

週刊少年ジャンプの三巻完結以内の打ち切り漫画の紹介。時々他誌や奇漫画の紹介も。

ZIPMAN!! 2020年

ZIPMAN!!    全2巻  芝田優作  2020年

f:id:jiholeopardon:20210905213600j:image

 

天才の弟・鋼志郎と凡人の兄・鉄芽、双子の兄弟は、子供の頃正義のヒーローに憧れていた。

同じようにヒーローが好きな女の子・千奈に出会ったことをきっかけに、兄は体を鍛えてヒーローを目指し、弟は頭脳でヒーローになろうとした。

 

双子の兄弟がヒーローを目指す。

f:id:jiholeopardon:20210905213953j:image

f:id:jiholeopardon:20210905213959j:image

 

しかし、ある日鋼志郎は事故に巻き込まれて死亡してしまう。悲しみに沈む千奈と鉄芽のところに、巨大ロボットが襲いかかる。

f:id:jiholeopardon:20210905214704j:image

その時、死んだはずの鋼志郎から鉄芽に連絡が入り、千奈を助けるために着ぐるみに乗れと告げられる。

乗り込んだ、鉄芽はロボットを撃退してヒーローになる。

これが、鋼志郎と鉄芽のヒーロー活動の始まりだった。

 

「ヨアケモノ」の芝田優作先生による変身ヒーローテイストのロボもの。巻頭カラーがメチャクチャ力が入っており、一部で評判となりました。

巻頭カラー。塗りは外注だったらしいです。

f:id:jiholeopardon:20210905230253p:image

 

「ヨアケモノ」でもそうでしたが、短いページで思い入れを語らせるのは上手く、無力な状態で好きな女の子を守る為に死ぬ覚悟をするシーンなんかは流石の筆力です。

f:id:jiholeopardon:20210905215340j:image

ただ、ドラマ重視で縦軸が定まらないのもヨアケモノの時に近く、兄弟と千奈の三角関係は丁寧に、バトルは敵のいやらしさを出しつつスッキリ決着をつけてくれるのですが、敵が何が目的で何のためにこんなことをやっているのか、資金は、規模は、組織の全体図は、辺りが語られないため、何で戦っているのかよくわかりませんでした。

 

「会長」からスーツをあたえられた「会員」が己の欲望を解放する。

「東京を破壊したい」

「勇者ごっこをしたい」

など要望は様々。目的は不明。

f:id:jiholeopardon:20210905221714j:image

 

あと、ロボというか、このジップスーツの見た目はかなり好みが分かれたんではないかと思います。キャッチーではなかったよね…。

 

敵スーツ

f:id:jiholeopardon:20210905221655j:image

f:id:jiholeopardon:20210905231536j:image

主人公最強フォーム

f:id:jiholeopardon:20210905223235j:image

 

おそらくこの辺りが軌道に乗り切らなかった原因だと思いますが、高校の生徒を人質に攻撃させないで一方的に殴りに来る敵や、同じく勝手にRPG的配役を押し付けて勇者役をやる敵など、「今日から俺は」悪役並みに嫌なやつを殴り飛ばす爽快感はありました。

 

攻撃すれば爆発する人質入りメカで攻撃を仕掛けてくる敵

f:id:jiholeopardon:20210905223708j:image

勇者ロールプレイのために、勝手に配役を行い逆らうことは許さない敵

f:id:jiholeopardon:20210905223712j:image

 

また、凡人の兄と自嘲する鉄芽ですが、ヒーローを目指して鍛えたことでおそるべき身体能力と、ぶっ壊れたメンタルをもっており、それが発揮される所が見所となっていました。

 

素の身体能力の状態で屋上からダイブしてスーツと合体

f:id:jiholeopardon:20210905224028j:image

ドラマ見て練習したことあったからという理由で真剣白刃取りをきめる鉄芽

f:id:jiholeopardon:20210905224034j:image

正義の味方の壊れたメンタル

大好物よ。

f:id:jiholeopardon:20210905225615j:image

 

展開も王道展開で、最終決戦前に囚われる鋼志郎。動き出した会長の前で待つ洗脳された弟。

兄弟対決。洗脳の解除。兄弟が2人揃えば無敵だ!と、ストレスなく進みます。

f:id:jiholeopardon:20210905225647j:image

 

長所は強かったんですけど、短所もそれなりという感じで2巻で終わってしまいました。

この後言及されず、出す必要があったか分からない変身願望のある2、3話の敵、聞き込みだけで終わった5話辺りが厳しかった印象です。一年かけて見る特撮物ならそのペースでも良かったんですが…。

 

とりあえず、チャンピオン連載の「悪徒」がスカジャンを装着して戦う変身ヒーローだったのですが、影響を受けてたのか知りたかったですね。

 

悪徒の変身シーン

f:id:jiholeopardon:20210905230921j:image

ジップマンの変身シーン

f:id:jiholeopardon:20210905230925j:image

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トーキョー忍スクワッド 2019年

トーキョー忍スクワッド 全3巻 漫画 松浦健人 原作 田中勇輝 2019年 

f:id:jiholeopardon:20210904184750j:image

 

近未来、犯罪都市になった東京では、裏の仕事を請け負う忍たちが活躍していた。鳴海仁は少数精鋭のスクワッド(部隊)を率いる天才忍者。仁が襲われていた子供・エンを拾った事から物語は動き出す。

 

無法地帯になった日本

f:id:jiholeopardon:20210904184811j:image

忍の台頭
f:id:jiholeopardon:20210904184806j:image
f:id:jiholeopardon:20210904184815j:image

 

大人の主人公(と言っても青年だけど)と、それに憧れる少年の物語。形態としてはジャンプなら剣心、より近いのはフルアヘッドココ。

 

鳴海は追いかけられる少年を拾う

報酬も見返りも求めず、少年は仲間として受け入れられた

f:id:jiholeopardon:20210904185121j:image

 

一、二話で世界一の犯罪国家日本の現状、そこで活躍する忍びたちの紹介。少年と主人公の関係性を描き、三話から組織の仲間紹介をしながら能力を見せていき、ライバル登場という教科書通りの進行なんですが、定石どおりすぎてパンチが弱いというか、この世界だからこそのキャラや話の展開がなく記憶に残りにくい作品になっています。

 

正直、近未来犯罪国家日本、マフィアたちが凌ぎを削り忍者が争う魔都トーキョーシティーというイメージがいい意味で強く、サイバーパンク忍術クーロン城とか、魔界都市「新宿」忍者バトル風味を期待してしまったので、想像に比して話がマイルドすぎた印象でした。

 

舞台設定は勝利してると思うの

f:id:jiholeopardon:20210904192554j:image

変態忍術はもっと弾けてくれてよかったです。

どうせユニーク忍術なんだから和風から、sf忍術までばっちこいでしたよ。

f:id:jiholeopardon:20210904185436j:image

f:id:jiholeopardon:20210904185454j:image

f:id:jiholeopardon:20210904185459j:image

 

異能でなくて忍「術」なので、覚える事も同スキル対決やマルチスキルがいてもいいのに出てこない事や、犯罪都市の割にそこまで殺伐としていないことあたりが設定を生かしきれなかった感。

 

人肉かき氷や人間爆弾はえぐいんですけど、やってる事の割に描写がエグくないんですよね。具に髪や爪や内臓もないし、人間爆弾にされているのがモブで爆発2ページ前に出てくるのでインパクトが少ない。設定的にこの辺りをやりたかったんじゃないかと思うんですけど、描写は控えめです。まあ、流石にジャンプだときつかったか。

 

人肉かき氷

f:id:jiholeopardon:20210904185310j:image

人間爆弾

f:id:jiholeopardon:20210904185314j:image

 

連載が続けば宿敵となったと思われる敵キャラもお互い認め合う系ではなく、サイコ系なのはいいんですけど殴り倒したくなるほどの悪役というわけでもなく、この辺りのキャラの掘り下げの中途半端さが、通して読むと大きなマイナスもないけど心に残るプラスもないという読後感を残します。

 

f:id:jiholeopardon:20210904185731j:image
f:id:jiholeopardon:20210904185724j:image

 

順調に仲間を紹介して、本部の講習でスクワッドのランクを上げる試験展開。他のスクワッドのライバルをだしつつ試験をクリア。更に試験の一環で闘技場でのバトル。展開がテンプレオブテンプレでした。なんというか、少年の目標となる青年の生き様か、近未来sf忍術バトルか、犯罪国家でのし上がるスクワッドのどれか搾りきれずに散漫な話になってしまった印象です。スクワッド講習とか闘技場とか必要だったかなと。

f:id:jiholeopardon:20210904185846j:image

 

 

最後は第一話とシンクロ、仁に拾われたエンが成長した5年後、チンピラに絡まれている少年を助けます。次世代がまた次世代を育てる描写でエンド。
いいねえ!こういうの大好き!
「俺の船に乗らねえか?」
ですよ。

 

 

f:id:jiholeopardon:20210904185955j:image

 

戦う大人のお姉さんお色気ありという貴重なキャラだったので、パピヨンは惜しかったと思います。
個人的には犯罪都市とスラム、忍者の設定を活かしてゴリゴリの変態忍術バトルに振り切ったのが見たかったです。進行といい行儀が良すぎた感がありました。

f:id:jiholeopardon:20210904190108j:image


 

 

 

 

ビーストチルドレン  2019年

ビーストチルドレン 全3巻 寺坂研人 2019年 

f:id:jiholeopardon:20210904094058j:image

 

子供の頃心に焼きついたラグビーの試合。獅子ヶ谷桜はMr.ビーストと呼ばれた名選手一樹雄虎に憧れてラグビーを志す。彼の教え子のいる高校に入学し、獣の子供達に指導をうけ、桜の才能が花開いていく。青春ラグビー漫画。

 

子供の頃の出会いがラグビーを胸に焼きつけた

f:id:jiholeopardon:20210904094117j:image

憧れの人の教え子たちのいる高校へ行きラグビーを始める。

 

主人公桜はチビながらも日本代表の基礎練を毎日こなしてたという、競技知識はないが基礎は十分できている幕の内一歩タイプ。5m走がプロでもエースクラスというスピードを武器に高校ラグビー界の雄、龍操学園のライバルにして憧れの雄虎の息子ユキトに挑む。

 

中学にラグビー部がないから、ラグビー日本代表の合宿の記事の基礎練ばかりやっていた結果エースクラスのスピードを身につけていた桜。

f:id:jiholeopardon:20210904094427j:image

このたった一つの武器を手に戦う。

 

先輩と桜、マネジと桜の友人を解して丁寧にえ説明がなされるのですが、じっくり描くのに尺を食うので展開がどうしても遅くなります。序盤から競技愛とモチベーションを重ねて描写し、ライバルも出してから対決、進学、入部。初試合が6話は辛かったです。

 

ラグビーの特徴、格闘技と見紛うかの肉体的な接触についても、興味と憧れ、他者からの視点、実際のテクニックという流れで丁寧に説明します。

f:id:jiholeopardon:20210904094816j:image

f:id:jiholeopardon:20210904094820j:image

 

象徴的なのは終わり方で、2年後地区予選決勝でライバルと試合開始や、日本代表で世界と試合といった。本来ストーリーが進めば描くはずだった情景ではなく、ラグビーを描く上で外せないポイントであるスクラムを丁寧に描いて終わります。ぱっと見、え、これが最終回?となる終わり方。

 

ラスト3話を使ってスクラムの組み方の話をやります。単行本おまけページもそうなんですけど、作者のラグビー愛がすごい!

f:id:jiholeopardon:20210904095110j:image

 

ラグビーについて伝えたいこと。選手達の思い、努力、プレイの爽快感、辛いけど楽しい事、チームメイトとの連携、一体感を描くことを優先したばかりに、描き方がドキュメンタリーに近く、漫画らしい派手なハッタリや、戯画化された試合の面白さがセーブされエンタメに消化しきれなかった感がありました。

 

競技を覚えていく楽しさ、熱さ、悔しさを丁寧に描きました

f:id:jiholeopardon:20210904095538j:image

f:id:jiholeopardon:20210904095548j:image

 

描きたい内容をじっくり描いたら、進行が遅くなってしまったという新連載あるあるではありますが、最近のジャンプで進行が遅いのは致命的だだったのと、現実路線だったため、ライバルが同世代トップクラスの割に飛び抜けた感がなく、素人主人公と地味に競り合ってしまってます。

外連味が薄く地に足がつきすぎていたか‥‥

 

同じリアルスポーツ路線のハイキューでさえ、変人速攻やキャラをたてた研磨、及川、牛若などのライバルと部内ライバルとも言える影山など外連味は出していましたので、あまりにも素朴すぎた感がありました。プレイボールとかに近い味付け。近い系統のスポーツであるアイシールド21と同じく、「短距離のスピードが最速クラス」という売りを持つ桜なのですが、これが大幅にピックアップされず、あくまでも素人の桜の中で使える武器という枠内の描写。人間の限界とか神速のインパルスみたいな分かりやすい飛び抜けた武器としての描写をしない。

とにかく作者のラグビー愛は凄いんですけど、それが、非現実的な描写を避けること、リアルなラグビーを伝えたい・好きになって欲しいという現実路線、言い方は悪いですが地味な描写になってしまったのかなと。

 

人数の多いラグビーのチームキャラを立てるために、最初はキャプテンによる個別指導、7人制ラグビーのメンバー集めでプロップやスクラムハーフの顔見せ、スタンドオフを怪我で温存してキッカーのピックアップをするなど、考えて進行をしてるのは伝わるんですよね。スポーツ好きな人には良作。残念だけど、スポーツ好きでない人を取り込むまでのパワーはなかったかな。

 

この辺の進行を考えるとアイシールドは化け物だった事がよくわかります。キャラの出し方、立て方が異様にうまい。鼻につくくらいの個性でわかりやすさを優先してます。

 

作者ラグビー愛がすごい

売れた売れない、続いた続かない、打ち切り悔しいももちろんあるんでしょうが、ラグビーをかけたこと、ルール説明を出来たことを喜んでいます。ラグビー協会は、ラグビー推進協力賞とかあげてもいいと思う。

f:id:jiholeopardon:20210904112555j:image
f:id:jiholeopardon:20210904112552j:image
f:id:jiholeopardon:20210904112550j:image
f:id:jiholeopardon:20210904112546j:image

 

競技の特性上低学年で参加できるコミュニティがない→基礎練だけで競技に飢えているので練習が楽しい、苦しいトレーニングを前向きにこなす好感度高い主人公という設定は良かったと思うんですけど、少年漫画らしいフックが欲しかった作品です。惜しいなあ。

 

f:id:jiholeopardon:20210904113031j:imagef:id:jiholeopardon:20210904113051j:image

 

 

 

ふたりの太星  2019年

ふたりの太星 全3巻 福田健太郎 2019年 

f:id:jiholeopardon:20210904012023j:image

 

昼と夜で人格が変わる二重人格の太と星。将棋が好きな2人は棋士をめざし、昼の人格太は棋士になるが、夜の人格星は時間の都合上棋士を諦めるしかなかった。しかし、太が事故に遭ったことから2人の昼夜が逆転する。

 

二重人格の太と星

f:id:jiholeopardon:20210904012039j:image

将棋以外にのめり込むものが見つからない星は色々な物に手を出すが、見つからない。そんな時太が事故にあい代わりに将棋を打つことになる星。

 

昼夜逆転した事でプロをかけた奨励会3段リーグを太の代わりに戦うことになる星。はじめは太の為に打つ星だが、次第に将棋が好きだった事を思い出す。

f:id:jiholeopardon:20210904012644j:image


この将棋に向き合うまでの展開が長かったのが痛かったですが、この後は天童世代と呼ばれるライバル達が登場して、対戦も盛り上がっていきます。

f:id:jiholeopardon:20210904012748j:image

 

将棋内容は一切わかりませんが、各人の個性を出しながら対戦をうまく描いてました。結局盤上遊戯漫画はイメージをどう上手く投射するかと、キャラの内面をどれくらい反映させるかで勝負が決まりますので、この辺りをうまく処理できたのは評価に値すると思います。

 

演算

f:id:jiholeopardon:20210904012800j:image

タイマン
f:id:jiholeopardon:20210904012803j:image

運命

f:id:jiholeopardon:20210904012806j:image

 

キャラの濃さに助けられた面はありますし、ハガデスあたりはかなりぶっ飛んだ設定にしてありますが、この辺はっちゃけた2巻中盤からの方が面白くなっていると思います。まあ、バイトリーダー和泉といいこのあたりのコミカル要素が人を選んだかもしれません。

 

作中最もインパクトがあり、最も物議を醸したキャラ・ハガ

f:id:jiholeopardon:20210904013021j:image

共感覚を武器にしてデートの邪魔者を排除するバイトリーダー和泉
f:id:jiholeopardon:20210904013026j:image

 

ハガに関しては、己への戒めとして自分の体の拘束。己のないコピー戦法。追い続けた天才に名前すら覚えられていない悲劇。着ぐるみ。最終的に名前をよばれるカタルシス。コピーを極めるという決意。看守。と、もう1人の主人公と呼んでもいい描き方をされています。インパクト凄い。

 

西の天才と呼ばれていたが太に惨敗。

さらに名前さえ知られていなかった悲劇。

f:id:jiholeopardon:20210904013421j:image

天才を追いかける凡人 こういうの大好物

f:id:jiholeopardon:20210904013521j:image

 

逆にこのリアルとファンタジーの境界キャラが面白さの源でありながら、読み手の新規参入へのハードルになってしまったかもしれません。最後の対戦の中継とかメタってて面白いんですけどね。

 

ニコ動らしき中継画面
f:id:jiholeopardon:20210904093756j:image


デビリーマンから大幅にあがった画力といい、2作続けての話の畳み方のうまさといい、今後も期待したい作家です。

 

正直後半、天童世代が出てからはかなり安定して面白かったので、序盤が上手く纏まっていればと思わずにはいられません。打ち切り漫画の中には好きだけど、まあ仕方ないという作品も多いですが、ふたりの太星に関しては続いていればそこそこ面白くできたんではないかと思っています。

 

コミカルな描写も面白い

f:id:jiholeopardon:20210904014132j:image
f:id:jiholeopardon:20210904014130j:image

 

単行本では、4話で謎のヒキを見せたキャラの補足がつきます。

f:id:jiholeopardon:20210904093845j:image

太の師匠で名人の予定だったらしいですが、名人がジジイに変更され、そのまま行き場を失ったようです。

 

 

 

ちなみに続いていれば良作だったと思っている打ち切り漫画は
ダブルアーツ
②ゾンビパウダー
③神緒ゆいは髪を結い
④ふたりの太星
⑤P2
⑥メタルK
⑦フルドライブ
⑧アリスと太陽
アイアンナイト
⑩歪のアマルガム
です

 

最後の西遊記  2019年

最後の西遊記 全3巻 野々上大二郎 2019年

f:id:jiholeopardon:20210902225102j:image

 

 ある日突然父親が連れてきた手足がなく目が見えない少女・コハルは人間の恐怖を実体化する力を持つ、世界すら滅ぼせる能力を持っていた。龍之介はコハルを守る為、混世の従者と呼ばれる妖怪を生み出す物と戦うことを決める。

 

冒頭

一風変わった導入

f:id:jiholeopardon:20210903013833j:image

 

おどろおどろしい導入から、他人の恐怖を実体化する能力、恐ろしい能力を持ちながら心優しい少女コハルと真っ直ぐな少年龍之介の交流、不気味な妖怪との戦いと、一部の人に絶賛されたジャンプらしからぬ捻ったスタートの1話。

f:id:jiholeopardon:20210903013950j:image

 

主人公、ヒロイン、設定に惹かれた読者には好評でした。

しかし、小3男子に四肢欠損の女子の面倒を押し付け、学校も辞めさせ、自分は家にいもしないくせにトラブルがあれば息子のせいで蔵に閉じ込める親父が理不尽を超えて虐待だろうという不快さを感じている意見も多く、開始早々反感を買ってしまいました。正直、僕も当時この親父002みたいな顔の割にひでぇなと思いながら読んでましたし。

 

一応、他に目的があったというフォローは後出しで語られるのですが、それにしたって子供2人放置はないだろ!とか最初から事情を話せ!とか思われても仕方ない展開だったかと思います。

 

理不尽というか虐待親父

f:id:jiholeopardon:20210903014620j:image

 

ここだけでなく、初期と後半で設定が変わっている。もしくは、語られた根幹の設定がフェイクで真相が別にあるため、非常にわかりにくい作品になっています。妖怪退治をやりながらこの辺の設定を少しづつ開示していけば良かったと思うのですが、打ち切り事情も相まって、どんどん設定を打ち込んでくるため、説明回が非常に多くなってしまい、テンポが悪くなってしまいました。

 

恐怖を妖怪として実体化する能力、即ち己の恐怖との戦い。真人に近づく事で強くなる代わりに人間らしさを失う設定。地球を滅ぼす災害の妖怪化。あたりがうまく回れば面白かったと思いますし、この辺りの設定とストレートなキャラクターの描き方で好きな人が多いのもわかります。

 

妖怪を倒す組織「討怪衆」の元で保護され、妖怪を倒さなければコハルと引き離される龍之介は一緒にいる為に妖怪退治を行かことになります。討怪衆の仲間エステル、その先生フルカと病気の妖怪虎狼狸を倒していく4人。ここまでで人気が取れなかったんでしょうか、結末に向けて物語は加速していきます。

 

エステルちゃんとチューとかは良かったんですよ。少年漫画らしくって。

f:id:jiholeopardon:20210903201310j:image

 

バトルも構図も見栄も少年漫画らしくて、スッキリ。能力も初期から使いこなせるので、その点でももたつきはなかったです。

攻防一体の如意棒、自在に変形するため、使い方のアイデアは豊富でした。

f:id:jiholeopardon:20210903184749j:image

少年漫画らしい見栄

f:id:jiholeopardon:20210903184807j:image

 

 

今まで敵として語られてきた混世の従者が同じ組織の仲間であり、味方を強化するための装置だった事が判明。術師による憑物落としで、妖怪の原因となった事象の改変を行うことができる。しいては、地球の滅亡も回避ができるという壮大な話になりますが、まだ、ろくに混世の従者と戦ってもいないのにそんなこと言われても困るよ。こういうのは10巻くらいかけて戦ったり、時に味方になったりを匂わせてからやってくれえ。

 

妖怪退治による、現実の改変

f:id:jiholeopardon:20210903181713j:image

 

 

憑き物を落とす為に蒙を開くことで真人に近づくがそれはイコール人間性の喪失というところは面白かったと思うんですが、ちょっと説明が多すぎました。

f:id:jiholeopardon:20210903191313j:image

 

多分先生自身練りに練って、話を始めたんだと思うんですけど軌道に乗る前に説明が多くなり、更に打ち切りで設定を打ち込んだせいでこんなふうになってしまったのかと…。

 

西遊記にちなんで、西遊記好きの芥川龍之介から主人公の名前を取り、

f:id:jiholeopardon:20210903142535j:image

その芥川が西遊記と同じ舞台の、唐の小説杜子春をリライトしたものを下敷きにコハルの名前と真人を生み出す行として設定。

f:id:jiholeopardon:20210903191626j:image

f:id:jiholeopardon:20210903191738j:image

f:id:jiholeopardon:20210903191741j:image

真人を生み出す行は杜子春になぞらえて、幻想の世界であらゆる苦痛を味わい一言も喋らないでいる時間が長いほど能力の高い真人がうまれてくるというもの。

 

思い入れは凄く感じます。

 

 

問題点の方はこちら、

わかりにくい点1  秘匿された設定が多い

開始時点での設定・目標 

・他人の恐怖を実体化させてしまうコハルが人間に悪意を持たないよう。世界を守る為に龍之介を好きになってもらう。

f:id:jiholeopardon:20210903132155j:image

・世界を妖怪で満たしてほろぼそうとするもの混世魔王「系」の従者からコハルを守る

f:id:jiholeopardon:20210903132242j:image

・世界を滅ぼそうとする百番目(最後の)妖怪を真人となって倒す

(ただし、真人になると人を超越して、腕の再生などの能力を得る代わりに人間らしさを喪失する。)

f:id:jiholeopardon:20210903132310j:image

 

実際、混世の従者の副リーダー「サイ」登場時は、人類の敵として小学生を殺しており、龍之介の友達しげちゃんも死にそうになっています。

f:id:jiholeopardon:20210903015919j:image

 

あかされた目的

・世界を滅ぼそうとする百番目の妖怪を倒す

 (これは同じ)

・世界を滅ぼす天変地異を妖怪化したものが百番目の妖怪。つまり現象が先で、それを回避する手段が妖怪化。物語形式にした99の妖怪を倒す事で、天変地異を妖怪化する儀式を行う

 

妖怪を倒すことで原因となったものを祓うことができる。

天変地異の妖怪化により世界を滅亡より救うことが真の目的

f:id:jiholeopardon:20210903140837j:image

・その為に真人に近いものを増やす(ここも同じ)

・真人を作るために、人類の敵として苦難をあたえる「修行」が混世の従者の目的

・その修行の為に、妖怪を出現させ、多くの人間を殺した

 

まあ、そういう組織だし世界の危機に甘いこと言ってられないってのはあるでしょうけど、少年漫画としてこれが味方の組織っていうのは受け入れにくかったです。

 

わかりにくい点2

そもそもなぜ西遊記なのか?

最初は、唐の時代に如意棒を使い妖怪を倒す旅をした三蔵法師がいたことがかたられ、その如意棒を受け継ぐ龍之介たちが、三蔵一行の現代の姿であり、混世魔王(混世魔王自体が西遊記の敵キャラクターです)をたおす「最後の西遊記」ということなのかと思ったのですが、混世の従者のサイが孫悟空のかたわれであり、系と2人で孫悟空のモデルであることがあかされます。そうすると、サイとケイ2人の孫悟空の物語だから西遊記ってことになるのですが、これだと「最後の」部分が弱い。

更に、物語にそって天変地異を倒す儀式をする一つ目が「ラーマヤーナ」、二つ目が「西遊記」、三つ目が今回なので、厳密には西遊記でもないんですよね。強いていうと二回目であり最後となる西遊記って解釈なのかな…。

ここ、作者も有耶無耶にしちゃってると思うの。あと多分天変地異というか「破壊の概念」を倒してます?

 

如意棒は西遊記要素なんですが、

この流れで現代の孫悟空なのかと思いきや

f:id:jiholeopardon:20210903132413j:image

妖怪を産むものと倒すものがまとめて孫悟空と呼ばれたことが語られます。

 

二回目の天変地異が西遊記、今回はもも物語。え、じゃあ、西遊記じゃなくない?

f:id:jiholeopardon:20210903140837j:image

ちょこちょこ妖怪や真人を西遊記で例えて説明するのでなおさらどこが西遊記なのかわかりにくかったです。

 

ラストは全員集合で、100体目の妖怪と戦うところでエンド。終わり方も、多分初めから考えてたんであろう終わり方で綺麗です。

 

f:id:jiholeopardon:20210903191832j:image

 

全体的に構想は面白かったんで、少し腰を据えて描かせてくれるところで連載するか、ジャンプでやるなら、コハルを守ると決めた4話以降は混世の従者とのバトルをカッコ良く見せることに力を注いだほうが良かったのかなと。

1、2、3話かけて世界とキャラクターの説明したあと9、10話が説明回、20、21話が説明回なのはバランスが悪すぎました。

 

でも、無刀ブラックの時もそうなんですけど、野々上先生単純なバトルより人を描きたい作家なんですよねえ。

 

 

 

 

 

 

 

獄丁ヒグマ  2019年

獄丁ヒグマ 全3巻 帆上夏希 2019年 

f:id:jiholeopardon:20210829153301j:image

 

地獄から逃げ出した亡者は、人間の体を乗っ取り悪行を行っていた。亡者を捕まえて地獄に送り返す家系の篝手ヒグマは、生者でありながら、ザイジュと呼ばれる亡者の手を使い、脱走者を狩る獄卒人だった。

 

f:id:jiholeopardon:20210829153332j:image

 

11対のザイジュは、それぞれの亡者の異能を受け継いでおり、解放により捕縛の縄や大鉈に変化する。ヒグマは閻魔大王の部下として、サポート役の分霊者と協力して亡者を倒していく。しかし、ヒグマはこの仕事が好きでなかった。正確には悪を断罪する資格が自分にあると思えなかった。f:id:jiholeopardon:20210829153506j:image

 

戦い慣れた主人公にある程度育成された異能、亡者による陰謀と話は作りやすかった様に思うのですが、生来子供を愛せない母の亡者や、罪を犯した亡者とはいえ断罪することを躊躇するヒグマ、先祖の罪を贖わねば地獄行きのため戦わざるを得ない篝手一族など重いテーマが多く、主人公が向いていない役どころを務めているのも合わせて人気は取りにくかったと思います。

 

子供を愛せない亡者

f:id:jiholeopardon:20210829153604j:image
f:id:jiholeopardon:20210829153601j:image

獄丁をやらなければならない家系

好きでやっているわけではない
f:id:jiholeopardon:20210829153611j:image

 

陰謀をめぐらす在獄時間の長い大物亡者達が出始め、篝手一族と因縁のある赤銅も登場してかつて叔母が閻魔を裏切り、父とともに赤銅に殺されたという過去も明かされます。重い。
敵はともかく味方側の戦力が増えず、白い獄卒が登場したところで終わってしまいました。

 

悪を許さない熱い男キャラで通した方がウケは良かった気もしますが、こういう主人公を描きたかったのでしょう。この辺は描きたいものと雑誌が噛み合わなかった向きがあります。どうしても、派手なバトルではなく、心の葛藤を描きたいという作品なので、バトル向きな設定の割に展開が心情重視になった感は否めませんでした。ボーズビーツといい、ノアズノーツといい、作者はドラマが描きたいのにジャンプだから無理にバトルしてる感じなんですよね。

f:id:jiholeopardon:20210829154302j:image

 

通常適性のない仕事をしてる主人公は、コンバートされる事で芽を出すか、自分が見失ってた仕事の意義を再発見する事でやりがいを取り戻すので、適性がなく、止めることもできず、仕事の意義は分かっているけどそれが重く、やり続けなければならないというのは青年漫画の文法で、少年漫画としては難しかったと思います。

 


打ち切り漫画は1割情熱が先走りすぎて構成・描写が追いついていない、2割設定が少年誌向けじゃない、3割話の展開が遅すぎる(主人公の活躍や、仲間の登場よりも、世界の説明や設定のための進行を行ってスタートで掴むべき読者を取り逃がす)、のこり4割は可もなく不可もなく消去法で打ち切りというイメージなのですが、アウトラインはともかく主人公の境遇は少年誌向けでなかったとおもいます。

 

近い存在が、悟飯、HACHI、ペイントマンあたりかしら。やりたくない事をやらされてるって時点で珍しい主人公になりますからね…。

 

 

 

 

ne0;lation 2019年

ne0;lation 全3巻 作画 依田瑞稀 原作 平尾友秀 2019年 

f:id:jiholeopardon:20210829142728j:image

 

ヤクザに借金がある不良の薬袋大悟は、IQ191の天才転校生尾根新太と出会った事から、町の悪党を退治する「趣味」に付き合うことになる。尾根は、魔法使いとも称される天才ハッカー「ネオ」だった。

 

天才サッカーと不良のコンビ
f:id:jiholeopardon:20210829142746j:image

騙された姉を守る為に手を組むことに
f:id:jiholeopardon:20210829142749j:image

 

導入1.2回で、スマホのハックから電話番号の割り出し、発火現象まで操りヤクザを翻弄するネオ。3話目からは自殺を促すアプリをつくるハッカーとの対決、そして謎の組織が登場して犯罪コンサルタントという「敵」ジェボーダンの獣の存在が明らかに。

獣を倒しジェボーダンに迫るネオ。

 

ここまで全編薄々、

そうはならんやろ!

なっとるやろがい!

という展開のため、好みは分かれると思います。ハッカーの能力の厳密さや自殺アプリの作成の可能性にこだわる人には向かない作品。中途半端にリアルなのも逆に信憑性を疑わせます。ネウロの電人HALと電子ドラッグくらいのリアリティと思って読もう。

 

遠隔過重作業で負荷をかけ機械を発火させる「メラ」

f:id:jiholeopardon:20210829143254j:image

ハッキング
f:id:jiholeopardon:20210829143249j:image

この辺りを楽しめるかどうかでだいぶ評価が分かれる作品だと思います。

 

そこから回想に入り、ネオの原点が示されます。恋心を抱いた幼なじみを喜ばす為にパソコンを覚えた事、病気の幼なじみを助ける為にハッキングを行った事、更にその幼なじみが事件に巻き込まれた時にスマホ発火を使い助けたこと、これから会う人な為に魔法を使うよう頼まれて死別した事…。

 

いい話なんですけどやってることのスケールの割に、原体験は普通なんですよね。この辺りのギャップが、厳しかった原因かと。

 

いっそ、才能ある孤児を集めて電脳犯罪者を育てる組織で育成され、成績下位者は殺される試験を乗り越え育成組no.1になるも、その過程で幼馴染を失い組織を抜けた天才ハッカーくらいの方が、やってることのリアリティには見合っていたかとおもいます。

f:id:jiholeopardon:20210829143640j:image

 

本格的にジェボーダンと対決することになり、仲間に別れを告げるネオ。薬袋とユッコはこれからも一緒に戦うことを宣言してネオは帳以来の友達ができたことを知る。3人で事件を解決して、俺たちの戦いはこれからだエンド。

f:id:jiholeopardon:20210829150120j:image

 

 

肝心のジェボーダンとの戦いがないまま終わってしまいましたが、そもそもハッカーは仲間の1人としては便利なのですが、主役とすると、ハッキング対決をしても伝わりにくく、結局他の要素で戦わなければならないというジレンマがあります。作中でもレース対決や、誘拐のメイン解決は他者に委ねられていました。

 

サポート役になりがちなのでメインに据え難い役どころ

f:id:jiholeopardon:20210829150258j:image
f:id:jiholeopardon:20210829150304j:image

 

バディ物にして薬袋が行動、ネオが情報収集とフォロワーとした方がスッキリした気はします。同じく性格の悪い天才ハッカーというフックが主役にするには感情移入しにくかったかなと。おそらくネウロの様な性格の悪い強者にしたかったんでしょうが弱点が示されないと単に嫌な奴なんですよね。

f:id:jiholeopardon:20210829152227j:image

f:id:jiholeopardon:20210829152230j:image

 

バディ物で薬袋には弱いとか、難病ながら帳が生きていて、帳のために悪をもって悪で倒すことを心がけているとかならヘイトも低かったんでしょうけど。実際ラストはそれに近く、仲間を友達と認めて人間として成長したエンディングになっています。もう少しここの面を掘り下げたかったですね…。

f:id:jiholeopardon:20210829152316j:image