アイアンナイト 全3巻 屋宜知宏 2014年
人間がゴブリンと呼ばれる怪物となり世界を破壊する中、ゴブリンになりながらも人々を守るために戦う小学生鉄兵を描いたダークヒーロー物。打ち切り漫画の中でも導入の完成度は1.2を争う程高く、人気も高い良作です。僕これ大好き。
構成がしっかりしており何を描きたいのかが明確なのが好感。
1話だと、尊敬する警察官の父との人を守るという約束、居候先の幼馴染みヒロインから2人の関係を象徴する励ましのキス、一転する世界の崩壊、異形のものへの変異、記憶と人間性の喪失の危機、人々の想いによる自我の回復、ゴブリンと戦うという決意表明。スムーズな展開。何度でも立ち上がってみんなの世界を守る為に戦うという咆哮でおわります。タイトルはRISE(立ち上がる)
初めてのキス、2人の仲が淡いけど確かな両思いである事が端的に伝わってきます。
世界の崩壊
自我の喪失の危機
街の人々の想いが、意識をとりもどさせてくれる
街のみんなを守るために立ちあがる
2話では能力の使い方の上達、過度の使用による死のリスクの判明、それによって能力を出し惜しんだことから出てしまうゴブリンの被害者、暴走、2番目のヒロインの登場、心をもったゴブリン仲間がいることへの希望。
能力の使い方は上達するが、使いすぎると自分の熱で溶けてしまうことが判明
能力を出し惜しむことで新たな死者を出してしまう。小学生主人公にはちょっと重すぎるよ。
冷却の力を持つ第二ヒロインの登場
3話でゴブリンに支配された集団との出会い。その中での知り合いと再開。前回の反省から後先考えないで支配者とのバトル。
4話でダークヒーローだからこそ受ける父をゴブリンに殺された友達からの罵声。それでも折れない心。
ダークヒーローのど定番。友達からの罵声。
この辺りが重すぎましたかねえ。
それでも折れない心。この辺りも悲劇を挽回するくらいに熱い展開なんですけど
5話で戦略を立てた上でのバトル、友達との和解。
バトルもやれることの幅を増やしながら戦略をなって戦う丁寧な描写
と超スピーディかつ、抑えるところは抑えた無駄のない展開が続きます。6ー12話で安全地帯への移動を目的に軍人のゴブリンとの対決、新たな技の習得、ヒロインとの再会と進みますが、このパートがやや長かったかなという程度。
心を失ったヒロインと再会し、安全地帯の守護神としてヒーローになる鉄兵だが、街を崩壊させた因縁のゴブリン集団が来襲。不死身のゴブリン天地は、ヒーローアイアンナイトを作ることで、人が集まり逃げない場所を作り、人間の殲滅を容易にすることが目的だったという、束の間の幸福からの再転落。
街の守護神としてヒーローになる。やっと訪れた幸福な展開。ヒロインの回復のきざし。束の間の幸せな日々。
これすらも悪役のシナリオだった。
重い。
政府から化け物扱いされつつも、救援が来て街は守られて、心を失いながらも自我のかけらを覗かせるヒロインと過ごす日々というようやくの陽展開から即効での鬱展開。守りたい人々を逃がそうとするも、一緒に戦う、応援すると立ち去らない街の人たち。勝てないことを悟った鉄兵は、暴走したフリをする事で街の人間を逃す。
街の守護神と呼ばれても政府の役人からは化け物扱い
勝てないのに天地の思惑通り逃げ出さない街の人々
人々を逃すために、今まで築いた信頼を捨てることとなっても暴走したフリをする鉄兵
最終話は第一話と対になるタイトルRISES。
街から人々が逃げ出す中、一緒に戦った仲間や友達が戦うことを誓い、1話で1人立ち上がった鉄兵だけでなく、俺たち一人一人が立ち上がるという咆哮で終わります。
1話と対となる最終話。こういうの好きよね。
単行本版はさらにおまけがあり、第二ヒロインが、政府から送られた暗殺者だったというさらなる鬱展開が明かされます。
B.B.並に不幸な主人公。もう人間に戻ることはできず、守ってきた人間から排除され、ずっと肩をならべて戦ってきた相棒は政府の仕込んだ暗殺者。これでメインヒロインが人間に殺されたら口から炎吐いてゴブリン軍団を結成しそうな勢いです。
単行本収録の特別編は本来雑誌でやりたかったであろう。1話から繋がる苦難に折れない少年と、少年と関わった人々の絆の物語に着地します。
おまけ分も含めて熱い展開目白押しなのになぜ終わってしまったのか…。主人公の変身後がもう少しカッコよければという気はちょっとしますけど、カッコいい異形は難しいですよね…。
環境も展開も暗めで主人公も真面目に考えるタイプだからこそ悲劇が際立っているんですけど、少年漫画だとこの悲劇を蹴っ飛ばして笑いながら前に進む明るさと強さが欲しかったかもしれません。メインヒロインが意識を取り戻すのが番外編なので、再会を素直にやればよかったかなあ…。
ダークヒーローは、暗い話になりがちなので人気が出にくいのか、ジガ、歪のアマルガムと失敗が続きます。僕どれも好きなんで、ダークヒーローが好きなだけかもしれませんが、アイアンナイトと歪のアマルガムは惜しかったと今でも思ってます。ジガはちょっと重すぎたかな…。
突然世界が崩壊して異形の化け物に成り果て、尊敬する父と顔を合わせないままおそらく生涯の別れとなり、想いをよせる幼馴染とお世話になったその家族とも離れ離れになり、小学生の自分1人で化け物が蠢く世界を生き抜かないといけなくなり、少しづつ能力を確認していたら使いすぎると死ぬことに気がつき、気をつけて能力をセーブしたらそのせいで死んだ人々を目の当たりにして、ようやく生きた知り合いと出会えたら家族を殺した化け物と罵倒され、頼りになる戦える大人とであったとおもったら人当たりのいい軍人は頭のいかれた快楽殺人者で殺し合うことになり、ようやく生き残りの集落に辿り着いたものの街を護っているにもかかわらずお偉いさんからは化け物と呼ばれ、心を失くした幼馴染も回復の兆しを見せたと思ったら全てがゴブリンの罠で人間を集める餌として使われていたことを知り、今までの信頼を投げ捨てて暴走したことにして街の人をにがし、それでも戦って敵を倒したらもう人間には戻れない体になっており、護った人々からは化け物の仲間みなされ、たった1人残った一緒戦ってくれていた知性を持つゴブリンは自分用の暗殺者だった。
まあ、十分重いです…。だからこその少年の孤独な戦いが際立つんですけど、大人はともかく小中学生にはスカッとしない話だったかなあ。