津尾尋華のジャンプ打ち切り漫画紹介

週刊少年ジャンプの三巻完結以内の打ち切り漫画の紹介。時々他誌や奇漫画の紹介も。

タイムパラドクスゴーストライター  2020年

タイムパラドクスゴーストライター 全2巻 原作 市間ケンジ 作画 伊達恒大 2020年

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遂に来た、2020年最大の問題作。

 

ジャンプ連載を目指すが芽が出ない漫画家佐々木哲平は、全ボツの繰り返しで夢を諦めかける。その時自宅への落雷のショックで電子レンジがタイムマシンとなり、10年後のジャンプが転送されてきた。

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未来のジャンプを夢だと思った佐々木は、「無意識に夢の中で思いついたアイデア」として、未来のジャンプで連載開始していた「ホワイトナイト」を自作として執筆し、編集から連載の打診をされる。自分が盗作をしていたことに気づいた佐々木だが、本来のホワイトナイトがこのままでは世の中に出ないこと、ホワイトナイトが皆に読まれるべき作品であること、続きを期待している読者からのファンレターをみて連載を続けることを決める。

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 盗作した責任をとるため、ホワイトナイトの本来のクオリティを出そうと四苦八苦する佐々木哲平。

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 本当の原作者・アイノイツキは別の作品でデビューする。未来のジャンプが送られて来なくなった時、その理由が判明する。未来人の目的は、アイノイツキの死亡を防ぐことだった。

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ネオレイションの項でも書きましたが、ヘイトを溜める主人公は感情移入しづらく、それだけで人気が出ないんですが、「盗作」というある意味殺人や強盗をこえる(殺人や強盗はそれなりのシチュエーションが用意される為、ヘイトをかいにくい)超弩級のヘイトを開幕からかましてきたので批判が殺到しました。

 

 これ、別に「未来から送られてきたジャンプ」をどう役立てるか、という思考実験なら叩かれなかったと思うんですよ。デスノート夜神月が叩かれないのと同じで、主人公が意図して盗作という選択をとり、それによって金銭、名誉を得る成り上がり物ならそれはそれで良かったと思うんですね。問題は、主人公が創作に純粋で、盗作を明確に悪と思っていながらふわふわした理由で盗作を肯定してしまい、あらゆるタイミングで中止できた盗作を続けていくことです。これがヘイトをかいました。

 

盗作をした罪悪感より、ホワイトナイトが自分の作品でなかったことにより受ける衝撃の方が大きいようにみえる

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ふわふわした理由。死ぬよりいいんじゃない?

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「盗作」や「贖罪」自体はメインテーマではなく、むしろ作品のノイズになってしまったので、これならむしろ自覚的な悪人として盗作を行い、アイノイツキに出会い、罪悪感が芽生えた、あるいは死亡を防ぐという理由で競わざるを得なくなったという展開の方がまだ感情移入できたような気がします。

 

本来の「ホワイトナイト」の作者、ヒロイン・アイノイツキに関しては、未来で受け取るはずだった莫大な金銭、名誉を全て佐々木に奪われた上、学校を辞めてアシスタントまでさせられることになり、「処女と命以外全て奪われた中卒」とまで呼ばれてしまいました。ちなみに後半の展開で命すら佐々木の手にゆだねられるため、処女以外を全て佐々木に握られるているのにそのことに全く気付けず、すごい漫画を描く人として佐々木を慕うポジションを務めさせられるという悲運のキャラになります。その余りの尊厳陵辱っぷりは同時期のワンピースの光月おでんの裸踊り並みに衝撃をあたえ、連載数話にも関わらず、アイノイツキちゃん尊厳陵辱2次創作が複数作られるほどでした。

 

元いじめられっ子現引きこもり高校中退漫画志望のヒロイン・アイノイツキ

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スタートで明確に失敗したタイパラですが、未来のジャンプが送られてきて歴史的名作が載っている。偶然なのか、意図したものなのか、意図したものならば誰が、なんの目的でやっているのか?未来のジャンプを読んだ芽のでない漫画家佐々木哲平の運命はどう変わるのか?という謎を開幕で突きつけられたのは大きく、読者の興味を惹きつけることに成功します。

 こうして主人公は不快だけど冒頭の謎は魅力。続きが気になるが、読むにつれ佐々木がきつい。いや、でもこんな壮大なsf展開なら佐々木描写も意図があるのではない?後々、秘匿された事実が明かされた時不快だと思っていた佐々木の行動はそうではなかったことが明かされるのでは?もしくは覚醒して不快が魅力に転換されるのでは?はたまた不快な佐々木の断罪パートがカタルシスになるのでは?など憶測が飛び交い、謎の解明を見届けたい、作者の真意を見極めたい人々によるタイパラ語りが各所で見られるようになりました。

 SNSでは盛り上がってるけど、人気はないという稀有な作品の出来上がりです。

 

ちなみになぜ佐々木が選ばれたか、アイノイツキを殺さない方法は漫画で勝つ以外になかったか、あたりはきちんと説明されます。

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連載漫画家となった佐々木は、ホワイトナイトの描き方に葛藤しながらも、連載を続けますが、ある日未来のジャンプが届かなくなります。

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「絵だけじゃなく、物語の続きも俺が描くしかないのか…!?」じゃねーよ!

お前、こういう自体想定してなかったのか!

というか、オリジナルを越えようとしてなかったのかよ!という驚きが先に経ちますが、未来のアイノイツキ訃報を読み、さらに、現在のアイノイツキを死亡から救うために、アイノイツキの新連載に勝つことを求められます。未来人がジャンプを送りつけていた原因は、アイノイツキを死亡から救うためだった。

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混乱し、葛藤しつつ、イツキを救うために全力を振り絞る佐々木。

凡人の死ぬほどの努力とタイムマシンというズルは天才に通用するのか?ついに佐々木覚醒パートが訪れるのか!!

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その結果はー、アイノイツキ圧勝。

30連敗の佐々木。

先週の引きなんだったんだよ!

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物語は、冒頭の謎の解明を目的として進みつつ、「最高の漫画」とはどういうものかというこの作品のテーマとなる問いを突きつけてきます。この部分もかなりの物議を醸したのですが、作中で最高作に近い扱いのアイノイツキ「ANIMA」が、万人に受け入れられるために限りなく作者の個性やこだわりを排除した「透明な傑作」という物で、これを描く事で本人の自我さえ排除されたアイノイツキは衰弱死してしまいます。これに対してカウンターとなったのが、無限の時間をつかい、たった1人に対して想いを込めた佐々木作品になるんですが…。

 

面白い漫画のイデア、「透明な傑作」

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まず、己を排除した創作物とかあり得るの?

という問題で、一見作者のとんがった部分や不必要なこだわりをなくしていけば万人に受ける作品になるという理屈は通るように見えなくもないですが、例えば「世界を支配する魔王を倒す物語」に味付けするのが作者の個性であって、こだわりや偏りがありすぎては対象となる層が少なくなるのは確かだとしても、個性を徹底的に廃してかつ面白いというのは矛盾していると思います。

面白い漫画のイデアを受信する装置として人間がいて、発信時に個性を付け足しているので、その個性を廃すれば本質がつたえられるというような話になってくると思うのですが、概念論の範囲を出る話とは思えません。実現すれば神の領域に触れられるような話で、宗教的というか、一日30時間の鍛錬とか、アヤエイジアの歌とか、妖神グルメの料理(ジャンプ的にはトリコのフルコースか?)とかそういう域の話になってしまうと思います。

 

しかし、これに関しては未成年で人生経験の少ない歪な天才・アイノイツキの主観に過ぎないので、豊富なアイデアが浮かんでくるアイノイツキが自分用に考えた創作方法論に過ぎないと考えることもできます。作中でも、面白さの説明は初めの佐々木による解説以外はほぼないので、どういう方向の「面白い作品」なのかは読者の想像に委ねられます。ただし、透明な傑作を作るために自我を殺すことが、アイノイツキの死に到達するということは間違いないです。

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 カウンターとなる佐々木の作品は、時間の止まった空間で無限のインプットと無限のアウトプットを行い、誰か一人に向けて作られた作品なのですが、こちらも誰かの意見やフィードバックのない「無限のインプットと無限のアウトプット」により神がかり的な領域の作品と渡り合えるまでに成長するのかという疑問がついてきます。とくに、佐々木が、アイノイツキには及ばないものの光る物をもつダイヤの原石というような描かれ方をしておらず、延々とボツを喰らい続けた挙句盗作で連載を勝ち取り、連載中オリジナルに迫るという結果もえがかれなかったキャラなので、そこから天才を超えるという説得力を出すのはちょっと厳しかったと思います。でも、物語の主題のひとつが、「空っぽな凡人でも面白い漫画を作れる」なので、これは意識してやってるんでしょうね。

この辺りは打ち切りで尺が足りなくなり、未来のジャンプが届かなくなってからの葛藤と努力を描く枠が取れなかったのもしれないです。

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空っぽでも、凡人でも、努力次第でー

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冒頭で語られる佐々木の理想、万人向けの名作を実現したアイノイツキを、個人向けの作品という究極のターゲッティング漫画で落とすという構図

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結局、精神と時の部屋で描いた佐々木の作品はアイノイツキの心に響き、死の結末を回避することができます。そして訪れるエピローグ。

 

単行本では書き下ろしエピソードが追加されますが、これはアイノイツキのその後、佐々木哲平のその後が、気持ち良く補足されているので、本編が気になった人には読むことをお勧めします。

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ちなみに、海外ではこの盗作に対する心理はそれほど問題視されなかったのか、人気だったらしく、連載終了に阿鼻叫喚だったという話も。

単行本は修正が入っているのもありますが、話の展開上盗作になってしまっているが、そこまで気にならないようには話を運んでいます。

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まあ、日本にも1巻を100冊買うという業の深いファンが出現しましたし、SNSでの作品語りも盛り上がりましたので、欠陥はありつつも、魅力のある作品だったのでしょう。

 万人向けをもとめる佐々木哲平と、全ての人に受け入れられる「透明な傑作」を描いたアイノイツキの物語が、一部の人には刺さる、マイナー向け作品となったのは皮肉な話でした。

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魔女の守人  2020年

魔女の守人 全3巻 坂野旭 2020年

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人間を襲う魔物・魔(イビル)が蔓延る世界。人類は、イビルに対抗する唯一の手段、魔女の魔術により拠点の防衛を行なっていた。

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魔女・マナスファのお付きとなった騎士・ファフナは、家族をイビルに喰われた過去を持ち、魔女の力抜きで人類が平和なら暮らせる世界を作ろうとしていた。

 

主人公・ファフナ

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そんなファフナに、ある日、マナスファ殺害指令が下される。

魔女とは、イビルの因子を注入され適合したものが生き残り魔術を使える様になる代わりに、いずれイビルに変貌する造られた生き物だった。

普通に生きたいというマナスファの真意を知ったファフナは、国を脱出し、マナスファを人間に戻す旅に出る。

 

物議を醸したダークファンタジー。設定の練り込み不足というか、好きな物を集めて咀嚼し切る前に出してしまったというか、作者が読んだ作品の影響がダイレクトに反映しているため、どこかで見た描写が多く、その分話にまとまりがなくなってしまっています。

 

ダークファンタジーを描きたいのであれば、国家の闇に焦点を当てて描くべきだったと思います。集められる女の子、魔素の注入。ほとんどが死亡。生き残りのうち極少数が魔術を使える魔女となる。魔女は時間経過とともにイビルになってしまうため、魔女のリミットが来る前に殺す守護がつく。魔の力を利用した人間拠点防衛用の生きた使い捨て武器、それが魔女という設定はエグめながらもなかなか面白いので、約ネバや7seeds夏のAチーム過去編の様な信じた綺麗な世界は幻だったという路線であれば、主人公もファフナも現状を理想として真実を知らず、衝撃の事実を知る展開にしたいところです。読切版はこの路線だったんですが…、約ネバと被りすぎるからやめたんでしょうか?

 

読切版

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連載版ではファフナ自身が魔女のいらない世界を作ろうとしていることや、魔女頼りで弛緩した他の騎士の描写のため、現状が理想ではないことが示唆されてしまっているので、魔女殺害指令の突然世界の裏側を教えられた時の、理想郷からの転落感が薄いです。マナスファも真実を知って受け入れている状態なので全体的に絶望感が薄まってしまいました。

 

一応知ってる状態だからこその諦念は描かれているんですけど、悲劇としては読切版の方がいい出来だったと思います。

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連載版は、どちらかと言うと広い世界を旅する王道ファンタジーを描きたかった印象にかわってるのですが、それであれば外に憧れる描写や、魔女の不自由さの描写をもう少しいれるべきだったかなと思います。読切版は塔に閉じ込められて自由がなく、16歳になったら逃してくれると言う言葉を信じて魔女の責務を果たしているので、この方向でも読切版の方が説得力がありました。なんで連載版で劣化したんだろう…。なんというか、描きたい事はわかるんですが、それを上手く見せる為の下準備がたりないので、説得力にかけるんですよね…。

 

 

例えば、魔女の造り方ですが、国中から12歳の女の子を集めて9割以上が死亡。こんなことやってたら女の子のいない世界の出来上がりですよ!無理があるだろ!

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将来のことを考えないにしても、集められた女の子たちが帰ってこないならば、国家主導の人攫いな訳で、男として育てられる女の子とか、女の子集めに逆らって隠す家が続出するはずですし、なんだったら反乱が起こる案件。この辺どうなってるんでしょう?

 

仮に他の国に修行とか、労働に行っていると言う嘘をついて国民を騙しているとすれば、そのこと自体がディストピア作品としてのフックになったはずです。人攫いを行う独裁国家にしろ騙して集めた少女たちのほとんどを戦力を作る為の生贄にしているディストピアにしろ、主人公たちの行動に説得力を出す為に使えたと思うのですがこの辺り特に言及なし。

掘り下げようよ。

 

咀嚼しきれてない要素はいくつかありますが、

まず、鬼刃とよばれるファフナの剣術。

一の技「双式ノ構エ」

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鬼滅ー!!

いや、別に技と構えはいいんですけど明らかに戦いにくそうな上に、登場回以外出てこないという…。ニノ技はありませんでした。なんだったんだよ案件。出すならきちんとバリエーション考えて毎回の戦闘で使え!

 

次に同じく登場回以外出てこないルーティン。

ルーティンじゃないのかよ、毎回やれ!

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進撃の巨人の変身シーン

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魔物に襲われるので高い壁に守られた都市国家で暮らし、外から襲いくる敵と戦うあたりが進撃の巨人くさいと言われた次の回でこれが出たので誰も何も言えなくなってしまいました。

壁で守られた人類の国

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ついでに1話の脱出時の跳躍

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文化レベルのよくわからない魔道具

ヴィデオがあったり、ヘリコプターがあったりする。これが、魔法…?

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あと、ヲにたいする謎のこだわりとか

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こんな感じで、味付けが薄いのと、勢いで入れた要素が活かされないまま話が進んでしまった印象です。

 

国を脱出したファフナ一行は、引退した魔女=イビル化しない魔女の文献から、マナスファを助ける方法を探して旅をしつつ、追手と戦うことになります。

 

こちらも、追手と戦うのか、ロードムービー的に色々な魔女と国との関係を旅をしながら見ていくのかはっきりしません。一度追手と戦い、力の無さを痛感したファフナは偶然出会った元騎士の発明家ドレイクに戦いを教わるのですが、ちょっとドレイクさん都合良すぎませんかね?この話に3話から10話という長い尺をさいた割に、ドレイクに特に組織的なバックボーンがなく、たまたま居合わせて、たまたま元騎士で、たまたま愛した魔女を手にかけたことを後悔していて、対魔女・騎士戦闘を教えてくれる…。もうここまでするなら娘を殺された有力者や支配体制に疑問を持つ知的階級が形成したレジスタンスが各国を見張っていて、脱走したファフナとマナスファに目をつけて接触したとかの方が説得力がありますし、そうなれば組織対組織という形にできるので、組織側の味方キャラを仲間にすることや、複数戦闘を描くことができました。

 

7話かけた追手、特訓、成長が、バックボーンがないキャラによってなされたことで、キャラは増えず、話は広がらず、ジャンプでいうところの「展開が遅い」ルートに入ってしまいました。特訓後、ワンエピソード描いて打ち切りとなってしまいます。

 

逃亡劇のため、主要キャラが脱走した3人で魅力的な仲間が出せない。それならそれで旅することで、世界の広さと魔女の境遇を、訪れた街や国での異常な習慣や制度と出会う事で描くという展開も作れたと思うのですが、少年漫画らしく追手と成長、「対魔女・騎士戦闘」という要素を入れたばかりに仲間は増やせないし、ロードムービーは捨てるというどっちつかずの展開になってしまいました。実際、追手と戦ったのも結局一回だけ。ダークファンタジーか王道ファンタジーか、逃亡劇かロードムービーか、どっちかに決めて片方を掘り下げれば、基本の設定は悪くないし、キャラは可愛かったと思うんですよ。

 

包帯少女スピカちゃんとか良かったと思うんですよね

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魔素侵食状態

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旅の途中で話は5年後に飛び、魔素を抑える指輪ができた事で魔女は引き継ぎ制になり殺されることは無くなった。国民もそれを大歓迎というハッピーエンド風なんですが、そもそもの問題、魔女を作るために12歳の少女が大量に殺害される部分が全く改善されていません。魔女の暗殺はもともと秘匿事項だったはずなので、国民が喜んでる理由がわからないよ。これ喜ぶの苦悩してた魔女と騎士だけだろ?国民は女の子が殺されなくなって初めて喜ぶんじゃないですかね。

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という事で煮詰め方がたりなかったのが、厳しかった作品でした。25歳のデビュー作でこれだけまとまってかけてるのは凄いので、今後に期待です。

 

 

 

 

 

ZIPMAN!! 2020年

ZIPMAN!!    全2巻  芝田優作  2020年

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天才の弟・鋼志郎と凡人の兄・鉄芽、双子の兄弟は、子供の頃正義のヒーローに憧れていた。

同じようにヒーローが好きな女の子・千奈に出会ったことをきっかけに、兄は体を鍛えてヒーローを目指し、弟は頭脳でヒーローになろうとした。

 

双子の兄弟がヒーローを目指す。

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しかし、ある日鋼志郎は事故に巻き込まれて死亡してしまう。悲しみに沈む千奈と鉄芽のところに、巨大ロボットが襲いかかる。

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その時、死んだはずの鋼志郎から鉄芽に連絡が入り、千奈を助けるために着ぐるみに乗れと告げられる。

乗り込んだ、鉄芽はロボットを撃退してヒーローになる。

これが、鋼志郎と鉄芽のヒーロー活動の始まりだった。

 

「ヨアケモノ」の芝田優作先生による変身ヒーローテイストのロボもの。巻頭カラーがメチャクチャ力が入っており、一部で評判となりました。

巻頭カラー。塗りは外注だったらしいです。

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「ヨアケモノ」でもそうでしたが、短いページで思い入れを語らせるのは上手く、無力な状態で好きな女の子を守る為に死ぬ覚悟をするシーンなんかは流石の筆力です。

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ただ、ドラマ重視で縦軸が定まらないのもヨアケモノの時に近く、兄弟と千奈の三角関係は丁寧に、バトルは敵のいやらしさを出しつつスッキリ決着をつけてくれるのですが、敵が何が目的で何のためにこんなことをやっているのか、資金は、規模は、組織の全体図は、辺りが語られないため、何で戦っているのかよくわかりませんでした。

 

「会長」からスーツをあたえられた「会員」が己の欲望を解放する。

「東京を破壊したい」

「勇者ごっこをしたい」

など要望は様々。目的は不明。

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あと、ロボというか、このジップスーツの見た目はかなり好みが分かれたんではないかと思います。キャッチーではなかったよね…。

 

敵スーツ

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主人公最強フォーム

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おそらくこの辺りが軌道に乗り切らなかった原因だと思いますが、高校の生徒を人質に攻撃させないで一方的に殴りに来る敵や、同じく勝手にRPG的配役を押し付けて勇者役をやる敵など、「今日から俺は」悪役並みに嫌なやつを殴り飛ばす爽快感はありました。

 

攻撃すれば爆発する人質入りメカで攻撃を仕掛けてくる敵

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勇者ロールプレイのために、勝手に配役を行い逆らうことは許さない敵

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また、凡人の兄と自嘲する鉄芽ですが、ヒーローを目指して鍛えたことでおそるべき身体能力と、ぶっ壊れたメンタルをもっており、それが発揮される所が見所となっていました。

 

素の身体能力の状態で屋上からダイブしてスーツと合体

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ドラマ見て練習したことあったからという理由で真剣白刃取りをきめる鉄芽

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正義の味方の壊れたメンタル

大好物よ。

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展開も王道展開で、最終決戦前に囚われる鋼志郎。動き出した会長の前で待つ洗脳された弟。

兄弟対決。洗脳の解除。兄弟が2人揃えば無敵だ!と、ストレスなく進みます。

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長所は強かったんですけど、短所もそれなりという感じで2巻で終わってしまいました。

この後言及されず、出す必要があったか分からない変身願望のある2、3話の敵、聞き込みだけで終わった5話辺りが厳しかった印象です。一年かけて見る特撮物ならそのペースでも良かったんですが…。

 

とりあえず、チャンピオン連載の「悪徒」がスカジャンを装着して戦う変身ヒーローだったのですが、影響を受けてたのか知りたかったですね。

 

悪徒の変身シーン

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ジップマンの変身シーン

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トーキョー忍スクワッド 2019年

トーキョー忍スクワッド 全3巻 漫画 松浦健人 原作 田中勇輝 2019年 

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近未来、犯罪都市になった東京では、裏の仕事を請け負う忍たちが活躍していた。鳴海仁は少数精鋭のスクワッド(部隊)を率いる天才忍者。仁が襲われていた子供・エンを拾った事から物語は動き出す。

 

無法地帯になった日本

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忍の台頭
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大人の主人公(と言っても青年だけど)と、それに憧れる少年の物語。形態としてはジャンプなら剣心、より近いのはフルアヘッドココ。

 

鳴海は追いかけられる少年を拾う

報酬も見返りも求めず、少年は仲間として受け入れられた

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一、二話で世界一の犯罪国家日本の現状、そこで活躍する忍びたちの紹介。少年と主人公の関係性を描き、三話から組織の仲間紹介をしながら能力を見せていき、ライバル登場という教科書通りの進行なんですが、定石どおりすぎてパンチが弱いというか、この世界だからこそのキャラや話の展開がなく記憶に残りにくい作品になっています。

 

正直、近未来犯罪国家日本、マフィアたちが凌ぎを削り忍者が争う魔都トーキョーシティーというイメージがいい意味で強く、サイバーパンク忍術クーロン城とか、魔界都市「新宿」忍者バトル風味を期待してしまったので、想像に比して話がマイルドすぎた印象でした。

 

舞台設定は勝利してると思うの

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変態忍術はもっと弾けてくれてよかったです。

どうせユニーク忍術なんだから和風から、sf忍術までばっちこいでしたよ。

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異能でなくて忍「術」なので、覚える事も同スキル対決やマルチスキルがいてもいいのに出てこない事や、犯罪都市の割にそこまで殺伐としていないことあたりが設定を生かしきれなかった感。

 

人肉かき氷や人間爆弾はえぐいんですけど、やってる事の割に描写がエグくないんですよね。具に髪や爪や内臓もないし、人間爆弾にされているのがモブで爆発2ページ前に出てくるのでインパクトが少ない。設定的にこの辺りをやりたかったんじゃないかと思うんですけど、描写は控えめです。まあ、流石にジャンプだときつかったか。

 

人肉かき氷

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人間爆弾

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連載が続けば宿敵となったと思われる敵キャラもお互い認め合う系ではなく、サイコ系なのはいいんですけど殴り倒したくなるほどの悪役というわけでもなく、この辺りのキャラの掘り下げの中途半端さが、通して読むと大きなマイナスもないけど心に残るプラスもないという読後感を残します。

 

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順調に仲間を紹介して、本部の講習でスクワッドのランクを上げる試験展開。他のスクワッドのライバルをだしつつ試験をクリア。更に試験の一環で闘技場でのバトル。展開がテンプレオブテンプレでした。なんというか、少年の目標となる青年の生き様か、近未来sf忍術バトルか、犯罪国家でのし上がるスクワッドのどれか搾りきれずに散漫な話になってしまった印象です。スクワッド講習とか闘技場とか必要だったかなと。

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最後は第一話とシンクロ、仁に拾われたエンが成長した5年後、チンピラに絡まれている少年を助けます。次世代がまた次世代を育てる描写でエンド。
いいねえ!こういうの大好き!
「俺の船に乗らねえか?」
ですよ。

 

 

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戦う大人のお姉さんお色気ありという貴重なキャラだったので、パピヨンは惜しかったと思います。
個人的には犯罪都市とスラム、忍者の設定を活かしてゴリゴリの変態忍術バトルに振り切ったのが見たかったです。進行といい行儀が良すぎた感がありました。

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ビーストチルドレン  2019年

ビーストチルドレン 全3巻 寺坂研人 2019年 

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子供の頃心に焼きついたラグビーの試合。獅子ヶ谷桜はMr.ビーストと呼ばれた名選手一樹雄虎に憧れてラグビーを志す。彼の教え子のいる高校に入学し、獣の子供達に指導をうけ、桜の才能が花開いていく。青春ラグビー漫画。

 

子供の頃の出会いがラグビーを胸に焼きつけた

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憧れの人の教え子たちのいる高校へ行きラグビーを始める。

 

主人公桜はチビながらも日本代表の基礎練を毎日こなしてたという、競技知識はないが基礎は十分できている幕の内一歩タイプ。5m走がプロでもエースクラスというスピードを武器に高校ラグビー界の雄、龍操学園のライバルにして憧れの雄虎の息子ユキトに挑む。

 

中学にラグビー部がないから、ラグビー日本代表の合宿の記事の基礎練ばかりやっていた結果エースクラスのスピードを身につけていた桜。

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このたった一つの武器を手に戦う。

 

先輩と桜、マネジと桜の友人を解して丁寧にえ説明がなされるのですが、じっくり描くのに尺を食うので展開がどうしても遅くなります。序盤から競技愛とモチベーションを重ねて描写し、ライバルも出してから対決、進学、入部。初試合が6話は辛かったです。

 

ラグビーの特徴、格闘技と見紛うかの肉体的な接触についても、興味と憧れ、他者からの視点、実際のテクニックという流れで丁寧に説明します。

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象徴的なのは終わり方で、2年後地区予選決勝でライバルと試合開始や、日本代表で世界と試合といった。本来ストーリーが進めば描くはずだった情景ではなく、ラグビーを描く上で外せないポイントであるスクラムを丁寧に描いて終わります。ぱっと見、え、これが最終回?となる終わり方。

 

ラスト3話を使ってスクラムの組み方の話をやります。単行本おまけページもそうなんですけど、作者のラグビー愛がすごい!

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ラグビーについて伝えたいこと。選手達の思い、努力、プレイの爽快感、辛いけど楽しい事、チームメイトとの連携、一体感を描くことを優先したばかりに、描き方がドキュメンタリーに近く、漫画らしい派手なハッタリや、戯画化された試合の面白さがセーブされエンタメに消化しきれなかった感がありました。

 

競技を覚えていく楽しさ、熱さ、悔しさを丁寧に描きました

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描きたい内容をじっくり描いたら、進行が遅くなってしまったという新連載あるあるではありますが、最近のジャンプで進行が遅いのは致命的だだったのと、現実路線だったため、ライバルが同世代トップクラスの割に飛び抜けた感がなく、素人主人公と地味に競り合ってしまってます。

外連味が薄く地に足がつきすぎていたか‥‥

 

同じリアルスポーツ路線のハイキューでさえ、変人速攻やキャラをたてた研磨、及川、牛若などのライバルと部内ライバルとも言える影山など外連味は出していましたので、あまりにも素朴すぎた感がありました。プレイボールとかに近い味付け。近い系統のスポーツであるアイシールド21と同じく、「短距離のスピードが最速クラス」という売りを持つ桜なのですが、これが大幅にピックアップされず、あくまでも素人の桜の中で使える武器という枠内の描写。人間の限界とか神速のインパルスみたいな分かりやすい飛び抜けた武器としての描写をしない。

とにかく作者のラグビー愛は凄いんですけど、それが、非現実的な描写を避けること、リアルなラグビーを伝えたい・好きになって欲しいという現実路線、言い方は悪いですが地味な描写になってしまったのかなと。

 

人数の多いラグビーのチームキャラを立てるために、最初はキャプテンによる個別指導、7人制ラグビーのメンバー集めでプロップやスクラムハーフの顔見せ、スタンドオフを怪我で温存してキッカーのピックアップをするなど、考えて進行をしてるのは伝わるんですよね。スポーツ好きな人には良作。残念だけど、スポーツ好きでない人を取り込むまでのパワーはなかったかな。

 

この辺の進行を考えるとアイシールドは化け物だった事がよくわかります。キャラの出し方、立て方が異様にうまい。鼻につくくらいの個性でわかりやすさを優先してます。

 

作者ラグビー愛がすごい

売れた売れない、続いた続かない、打ち切り悔しいももちろんあるんでしょうが、ラグビーをかけたこと、ルール説明を出来たことを喜んでいます。ラグビー協会は、ラグビー推進協力賞とかあげてもいいと思う。

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競技の特性上低学年で参加できるコミュニティがない→基礎練だけで競技に飢えているので練習が楽しい、苦しいトレーニングを前向きにこなす好感度高い主人公という設定は良かったと思うんですけど、少年漫画らしいフックが欲しかった作品です。惜しいなあ。

 

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ふたりの太星  2019年

ふたりの太星 全3巻 福田健太郎 2019年 

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昼と夜で人格が変わる二重人格の太と星。将棋が好きな2人は棋士をめざし、昼の人格太は棋士になるが、夜の人格星は時間の都合上棋士を諦めるしかなかった。しかし、太が事故に遭ったことから2人の昼夜が逆転する。

 

二重人格の太と星

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将棋以外にのめり込むものが見つからない星は色々な物に手を出すが、見つからない。そんな時太が事故にあい代わりに将棋を打つことになる星。

 

昼夜逆転した事でプロをかけた奨励会3段リーグを太の代わりに戦うことになる星。はじめは太の為に打つ星だが、次第に将棋が好きだった事を思い出す。

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この将棋に向き合うまでの展開が長かったのが痛かったですが、この後は天童世代と呼ばれるライバル達が登場して、対戦も盛り上がっていきます。

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将棋内容は一切わかりませんが、各人の個性を出しながら対戦をうまく描いてました。結局盤上遊戯漫画はイメージをどう上手く投射するかと、キャラの内面をどれくらい反映させるかで勝負が決まりますので、この辺りをうまく処理できたのは評価に値すると思います。

 

演算

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タイマン
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運命

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キャラの濃さに助けられた面はありますし、ハガデスあたりはかなりぶっ飛んだ設定にしてありますが、この辺はっちゃけた2巻中盤からの方が面白くなっていると思います。まあ、バイトリーダー和泉といいこのあたりのコミカル要素が人を選んだかもしれません。

 

作中最もインパクトがあり、最も物議を醸したキャラ・ハガ

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共感覚を武器にしてデートの邪魔者を排除するバイトリーダー和泉
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ハガに関しては、己への戒めとして自分の体の拘束。己のないコピー戦法。追い続けた天才に名前すら覚えられていない悲劇。着ぐるみ。最終的に名前をよばれるカタルシス。コピーを極めるという決意。看守。と、もう1人の主人公と呼んでもいい描き方をされています。インパクト凄い。

 

西の天才と呼ばれていたが太に惨敗。

さらに名前さえ知られていなかった悲劇。

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天才を追いかける凡人 こういうの大好物

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逆にこのリアルとファンタジーの境界キャラが面白さの源でありながら、読み手の新規参入へのハードルになってしまったかもしれません。最後の対戦の中継とかメタってて面白いんですけどね。

 

ニコ動らしき中継画面
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デビリーマンから大幅にあがった画力といい、2作続けての話の畳み方のうまさといい、今後も期待したい作家です。

 

正直後半、天童世代が出てからはかなり安定して面白かったので、序盤が上手く纏まっていればと思わずにはいられません。打ち切り漫画の中には好きだけど、まあ仕方ないという作品も多いですが、ふたりの太星に関しては続いていればそこそこ面白くできたんではないかと思っています。

 

コミカルな描写も面白い

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単行本では、4話で謎のヒキを見せたキャラの補足がつきます。

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太の師匠で名人の予定だったらしいですが、名人がジジイに変更され、そのまま行き場を失ったようです。

 

 

 

ちなみに続いていれば良作だったと思っている打ち切り漫画は
ダブルアーツ
②ゾンビパウダー
③神緒ゆいは髪を結い
④ふたりの太星
⑤P2
⑥メタルK
⑦フルドライブ
⑧アリスと太陽
アイアンナイト
⑩歪のアマルガム
です

 

最後の西遊記  2019年

最後の西遊記 全3巻 野々上大二郎 2019年

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 ある日突然父親が連れてきた手足がなく目が見えない少女・コハルは人間の恐怖を実体化する力を持つ、世界すら滅ぼせる能力を持っていた。龍之介はコハルを守る為、混世の従者と呼ばれる妖怪を生み出す物と戦うことを決める。

 

冒頭

一風変わった導入

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おどろおどろしい導入から、他人の恐怖を実体化する能力、恐ろしい能力を持ちながら心優しい少女コハルと真っ直ぐな少年龍之介の交流、不気味な妖怪との戦いと、一部の人に絶賛されたジャンプらしからぬ捻ったスタートの1話。

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主人公、ヒロイン、設定に惹かれた読者には好評でした。

しかし、小3男子に四肢欠損の女子の面倒を押し付け、学校も辞めさせ、自分は家にいもしないくせにトラブルがあれば息子のせいで蔵に閉じ込める親父が理不尽を超えて虐待だろうという不快さを感じている意見も多く、開始早々反感を買ってしまいました。正直、僕も当時この親父002みたいな顔の割にひでぇなと思いながら読んでましたし。

 

一応、他に目的があったというフォローは後出しで語られるのですが、それにしたって子供2人放置はないだろ!とか最初から事情を話せ!とか思われても仕方ない展開だったかと思います。

 

理不尽というか虐待親父

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ここだけでなく、初期と後半で設定が変わっている。もしくは、語られた根幹の設定がフェイクで真相が別にあるため、非常にわかりにくい作品になっています。妖怪退治をやりながらこの辺の設定を少しづつ開示していけば良かったと思うのですが、打ち切り事情も相まって、どんどん設定を打ち込んでくるため、説明回が非常に多くなってしまい、テンポが悪くなってしまいました。

 

恐怖を妖怪として実体化する能力、即ち己の恐怖との戦い。真人に近づく事で強くなる代わりに人間らしさを失う設定。地球を滅ぼす災害の妖怪化。あたりがうまく回れば面白かったと思いますし、この辺りの設定とストレートなキャラクターの描き方で好きな人が多いのもわかります。

 

妖怪を倒す組織「討怪衆」の元で保護され、妖怪を倒さなければコハルと引き離される龍之介は一緒にいる為に妖怪退治を行かことになります。討怪衆の仲間エステル、その先生フルカと病気の妖怪虎狼狸を倒していく4人。ここまでで人気が取れなかったんでしょうか、結末に向けて物語は加速していきます。

 

エステルちゃんとチューとかは良かったんですよ。少年漫画らしくって。

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バトルも構図も見栄も少年漫画らしくて、スッキリ。能力も初期から使いこなせるので、その点でももたつきはなかったです。

攻防一体の如意棒、自在に変形するため、使い方のアイデアは豊富でした。

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少年漫画らしい見栄

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今まで敵として語られてきた混世の従者が同じ組織の仲間であり、味方を強化するための装置だった事が判明。術師による憑物落としで、妖怪の原因となった事象の改変を行うことができる。しいては、地球の滅亡も回避ができるという壮大な話になりますが、まだ、ろくに混世の従者と戦ってもいないのにそんなこと言われても困るよ。こういうのは10巻くらいかけて戦ったり、時に味方になったりを匂わせてからやってくれえ。

 

妖怪退治による、現実の改変

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憑き物を落とす為に蒙を開くことで真人に近づくがそれはイコール人間性の喪失というところは面白かったと思うんですが、ちょっと説明が多すぎました。

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多分先生自身練りに練って、話を始めたんだと思うんですけど軌道に乗る前に説明が多くなり、更に打ち切りで設定を打ち込んだせいでこんなふうになってしまったのかと…。

 

西遊記にちなんで、西遊記好きの芥川龍之介から主人公の名前を取り、

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その芥川が西遊記と同じ舞台の、唐の小説杜子春をリライトしたものを下敷きにコハルの名前と真人を生み出す行として設定。

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真人を生み出す行は杜子春になぞらえて、幻想の世界であらゆる苦痛を味わい一言も喋らないでいる時間が長いほど能力の高い真人がうまれてくるというもの。

 

思い入れは凄く感じます。

 

 

問題点の方はこちら、

わかりにくい点1  秘匿された設定が多い

開始時点での設定・目標 

・他人の恐怖を実体化させてしまうコハルが人間に悪意を持たないよう。世界を守る為に龍之介を好きになってもらう。

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・世界を妖怪で満たしてほろぼそうとするもの混世魔王「系」の従者からコハルを守る

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・世界を滅ぼそうとする百番目(最後の)妖怪を真人となって倒す

(ただし、真人になると人を超越して、腕の再生などの能力を得る代わりに人間らしさを喪失する。)

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実際、混世の従者の副リーダー「サイ」登場時は、人類の敵として小学生を殺しており、龍之介の友達しげちゃんも死にそうになっています。

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あかされた目的

・世界を滅ぼそうとする百番目の妖怪を倒す

 (これは同じ)

・世界を滅ぼす天変地異を妖怪化したものが百番目の妖怪。つまり現象が先で、それを回避する手段が妖怪化。物語形式にした99の妖怪を倒す事で、天変地異を妖怪化する儀式を行う

 

妖怪を倒すことで原因となったものを祓うことができる。

天変地異の妖怪化により世界を滅亡より救うことが真の目的

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・その為に真人に近いものを増やす(ここも同じ)

・真人を作るために、人類の敵として苦難をあたえる「修行」が混世の従者の目的

・その修行の為に、妖怪を出現させ、多くの人間を殺した

 

まあ、そういう組織だし世界の危機に甘いこと言ってられないってのはあるでしょうけど、少年漫画としてこれが味方の組織っていうのは受け入れにくかったです。

 

わかりにくい点2

そもそもなぜ西遊記なのか?

最初は、唐の時代に如意棒を使い妖怪を倒す旅をした三蔵法師がいたことがかたられ、その如意棒を受け継ぐ龍之介たちが、三蔵一行の現代の姿であり、混世魔王(混世魔王自体が西遊記の敵キャラクターです)をたおす「最後の西遊記」ということなのかと思ったのですが、混世の従者のサイが孫悟空のかたわれであり、系と2人で孫悟空のモデルであることがあかされます。そうすると、サイとケイ2人の孫悟空の物語だから西遊記ってことになるのですが、これだと「最後の」部分が弱い。

更に、物語にそって天変地異を倒す儀式をする一つ目が「ラーマヤーナ」、二つ目が「西遊記」、三つ目が今回なので、厳密には西遊記でもないんですよね。強いていうと二回目であり最後となる西遊記って解釈なのかな…。

ここ、作者も有耶無耶にしちゃってると思うの。あと多分天変地異というか「破壊の概念」を倒してます?

 

如意棒は西遊記要素なんですが、

この流れで現代の孫悟空なのかと思いきや

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妖怪を産むものと倒すものがまとめて孫悟空と呼ばれたことが語られます。

 

二回目の天変地異が西遊記、今回はもも物語。え、じゃあ、西遊記じゃなくない?

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ちょこちょこ妖怪や真人を西遊記で例えて説明するのでなおさらどこが西遊記なのかわかりにくかったです。

 

ラストは全員集合で、100体目の妖怪と戦うところでエンド。終わり方も、多分初めから考えてたんであろう終わり方で綺麗です。

 

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全体的に構想は面白かったんで、少し腰を据えて描かせてくれるところで連載するか、ジャンプでやるなら、コハルを守ると決めた4話以降は混世の従者とのバトルをカッコ良く見せることに力を注いだほうが良かったのかなと。

1、2、3話かけて世界とキャラクターの説明したあと9、10話が説明回、20、21話が説明回なのはバランスが悪すぎました。

 

でも、無刀ブラックの時もそうなんですけど、野々上先生単純なバトルより人を描きたい作家なんですよねえ。