津尾尋華のジャンプ打ち切り漫画紹介

週刊少年ジャンプの三巻完結以内の打ち切り漫画の紹介。時々他誌や奇漫画の紹介も。

フルドライブ  2017年

フルドライブ 全3巻 小野元暉 2017年

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世界を4度制したドイツの天才卓球選手ウルフの孫、玉城弾は日本に帰り、女子のトップ白石真凛にであったことをきっかけに、群雄割拠する「黄金の世代」に殴り込みをかける。ボーイミーツガール卓球漫画。

 

女子卓球のトップ真凛

外連味たっぷりの登場

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そして少年は少女とであった
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玉城弾は、黄金世代に殴り込みをかける

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ドイツ帰りの強豪選手が日本の黄金世代に殴り込みをかけるという梗概だけなら「卓上のアゲハ」なんですが、ボーイミーツガールの甘酸っぱさと主人公の性格を嫌味なく丁寧に描くことで、読み口を良くして好感が持てるお話にしてあります。主人公とヒロインの関係性が、ライバル心もまじえて熱いながらもどこか甘く、成長を手助けしたり、相手に追いつけていない自分への不甲斐なさに唇を噛んだり、短いながらグッとくる描写が挟まれており、好感の持てるカップル未満感がたまりません。

 

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ヒロインに自分に対する自負を述べる弾

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ヒロインに、知らずしてハッパをかけられる弾

この辺りのエピソードいいよね

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真凛に卓球エリートの育成塾を紹介された弾は、全国トップレベルの所属選手と渡り合い、スクールに通うことになる。黄金世代の先輩に磨かれ、実力を伸ばした弾は、全日本優勝の天才選手幸也との試合で己れを証明する。

 

エリート育成塾で実力を見せつけてスクールに入る弾は黄金世代の先輩と切磋琢磨していく

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中学全日本王者と対決

才能はあるがやる気のない南條雪也に苛立つ弾

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決勝で対決

お前は夢をみているロマンチスト。勝負が苦しいことを教えやるという雪也。

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世界王者に育てられたけど対人戦をこなしてない主人公が、エリートの中で磨かれて行くというスタートは、競技を始める動機、ルール説明、上達の過程を大幅に省けるため、スポーツ漫画の導入としては100点だと思います。最近のスポーツ漫画はこの路線が多くなってますね。

正直今のスポーツ漫画で、素人を育てる演出や、他競技のエリートをコンバートする演出を楽しみにする読者はいないと思うので、余程素人の地道な努力を上手くエンタメに消化させる自信がなければ、経験者が更に上に行くスタイルの方がとっつきやすいです。

 

地道に描いたからこその「左手は添えるだけ」とか、コンバートを上手く描きながら、素人の採用という部分でルールの説明をわかりやすく行った灼熱カバディなど例外もありますが、よほど筆力がないと現代では成功しにくいと思います。テコンダーがサッカーする事自体にワクワクする読者はもういないよ。

 

主人公のキャラも、熱血タイプでも単純素直なタイプでも、実力を鼻にかけた俺様タイプでもなく、ヘラヘラしてるけど内に熱を持つ珍しいタイプで、熱の迸る部分では感情移入できるいいキャラです。少年誌スポーツものではやや珍しい、強いていうと初期の陸奥九十九あたりが近いタイプ。

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けっこう、この情熱に関してのやりとりも随所にみられ、AONがやりたかったことをエンタメにうまく組み込んだらこうなったと思うと感慨深いものがあります。独りよがりにならずに、情熱をかたるのって結構ハードル高いと思うんですよね。

 

序盤、スクールとの出会いで

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雪也との戦いで、描かれる勝負と情熱、スポーツに向かう意思とそこでしか「何者」になれない自分たち

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とはいえ、3試合こなしたところで打ち切り。主人公ヒロイン以外のキャラがちょっと弱かったとか、競技的に地味な面はありましたが、惜しい作品でした。締め方も丁寧です。

 

全日本ジュニアで2人優勝し、同じ立ち位置に来てから、弾の決意表明、真凛から「何者」かになったのを認める言葉。ドイツへ帰ってプロになるという旅立ちと告白。

 

気持ちいい終わり方。

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やっと並んだ二人

 

認められる弾
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最後に告げられる告白
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打ち切り漫画のスポーツ漫画でも綺麗にまとまっている良作だと思います。