津尾尋華のジャンプ打ち切り漫画紹介

週刊少年ジャンプの三巻完結以内の打ち切り漫画の紹介。時々他誌や奇漫画の紹介も。

番外編 アカテン教師梨本小鉄

アカテン教師梨本小鉄 全4巻 春日井 恵一 1986年 

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博打の天才破天荒教師梨本小鉄が、博打を通して生徒に人生を教えていく人情ドラマ。初期は博打で生徒を鍛えたり、トラブルに巻き込まれた生徒を助けたり、クラスの成績をカンニングであげたりと学園ものなんですが後半トーナメントが始まります。

 

まあ、初期も生理現象と時間の組み合わせで集団カンニングを行い、「この程度の不正行為が分からねえ教師に教壇に立つ資格はねえよ」とか無茶苦茶いってるんですが、経営難の生徒の喫茶店を助けたり、登校拒否児を生徒会選挙に勝たせるなど人情物の一面もあります。

 

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生理現象を使った「通し」で集団カンニング

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無茶苦茶言うなあ

 

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福本先生でもやらないような札束便器流し勝負で高利貸しをギャフンと言わせたり

 

後半貴王子が登場したあたりから雲行きが怪しくなります。最新の設備と最高の環境で行われるエリートによるエリート教育、人呼んで「教育界の貴公子」。小鉄の生徒を貴王子が教育する事で一悶着あり、解決した直後、「全日本有能教師トーナメント」が始まります。

 

教育漫画で!

トーナメント!!

GTOでもない展開!!!

 

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7人の超教師ってそんな7人の悪魔超人みたいに言われても…。異様にクセのある教師集団が集められ、コンピュータージローも加えトーナメントが開かれる事になります。暴力教師、警察教師、博打打ち×2、超能力教師、女性上位教師、エリート教師、コンピューター、ろくな奴がいねえ!

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しかもトーナメントとは名ばかりで、小鉄は各人の過去のトラウマをついてリタイヤさせていきます。いや、これ、指導力とか全然関係ないし、そもそもトーナメントしてないよね?


決勝はネパールの超能力教師。テレパシーで生徒に答えを教えるカンニングで勝利を目指します。結局カンニングかよ!

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しかしアビ先生は、小鉄の天に向かって唾を吐くと虹ができる技を見て戦意を喪失してリタイヤします。なんで?テレパシーカンニング続けてたら勝ってたよ?理屈はよくわからないですが雰囲気で小鉄が勝ち進み、コンピュータとの一騎打ちに。

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小鉄の選んだ勝負内容は「ジャンケン!」

いや、だから、教育とそこ関係あるぅー!?

 

なんだかんだでコンピューターを破る小鉄ですが、優勝した事で有名になった小鉄はマスコミに追われ素行が問題になり退職せざるを得ない事に。最後に生徒たちと酒を飲み、姿を消します。

少年たちと酒を酌み交わす相手が坂本龍馬のところに時代を感じますね。

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先生漫画は定番のジャンルであり、ジャンプでもミスターライオンやぬーべー、ルーキーズ、暗殺教室ぼくのわたしの勇者学保健室の死神などが連載されていました。

他誌ではGTOを筆頭に、ごくせん、ドラゴン桜、最近では、今からここは倫理ですや女の園の星などが挙げられます。今後もちょこちょこ取り上げられそうな題材ですね。

まあ、ここまで無茶苦茶なのはもう無理でしょうけど。割と打ち切り漫画の中でも記憶に残ってる人の多い漫画だと思います。

 

蛇足ですが、札束便器流しの回は、酒を医者に止められてる生徒の父(元小鉄の子供時代のヒーロー役を演じてた役者)が高利貸しに酒を強要されるのを助ける為に高利貸しと戦ってやり込めた上、経営難だったお店を助ける為に300万を得るんですが、小鉄に助けてもらったお父さんが止められた酒を飲もうと持ちかけるんですよね。

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「男には体の具合も省みず飲まなきゃならん夜もある!」じゃねえよ!

 

お前に酒を飲まさない為にギャンブル勝負やってたんだろうが!

 

この数日後にお父さん死んでしまうんで子供心にもあれ?この話おかしくない?と思ったものでした……。

 

 

番外編 サイバーブルー

CYBERブルー 全4巻 原作BOB  脚本 三井隆一 作画 原哲夫 1988年 

 

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生命維持装置がないと生きられない惑星ティノスで生まれたブルーは、罠に嵌められ死亡するところに居合わせた300年を生きるコンピューターファッツと合体。人の心と300年の叡智をもつ機械の融合した生命体サイバービーイングとなり、惑星の秘密を探ることなる。北斗の拳で一世を風靡した原哲夫によるサイバーパンクガンアクション(途中まで)

 

原先生も北斗の拳臭を消したかったんでしょう、拳法バトルからSFガンバトルに路線変更。過酷な環境で生き抜く人間達の生命讃歌とユーモア、スタイリッシュガンアクションを描くつもりだったんだと思います。当初は…。

 

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スタイリッシュガンアクション!

 

サイバービーイングって、サイボーグと何が違うのかとか、ガンアクションと言いつつ途中から肉弾戦じゃねーかとか、決め台詞の「300と17だ」の300歳部分全然生かされてなくない?とか色々思うところはあるんですが、この作品といえば「ファック」です。

 

キックボクサーまもるがチャランポを子供達に教えたとすれば、サイバーブルーは「ファック!」を教えてくれました。

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津尾さんの周りでは大流行して、なんとなく大人の香りのする言葉に憧れる小学生が意味もわからず「ファックファック」連呼していたものです。

ジャンプ史上最も口の悪い正直主人公という異名を得たこともあり、あんまりブームにならなくて良かったかもしれませんわね。

 

領有権を主張する為に過酷な環境の惑星で殺し合いをさせられたティノスへの移住者達は地球を恨み、地球征服のためテロを起こそうとする。地球との戦争を避けようとした最初の移住者は、その記憶と記録をファッツに託し、戦士としてブルーが選ばれた。というストーリー。

コンピューターでの分析、精緻な射撃、サイバーシティーのコンピューターをコントロール、脳内のハッキング、300歳の経験から紡がれるユーモアという、おそらく寺沢武一の「ゴクウ」をやりたかったと思うんですが、バトルがどんどん肉弾戦になって行き、それにつれて消しきれない北斗の拳臭が漂ってしまいました。だいたい無力な子供達や市民、理不尽な権力者と、ヒャッハー達という構図が北斗の拳なんだよ!

 

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筋肉質な男達が、男の誇りをかけて肉弾戦を行なって友になるのはもう北斗の拳なんよ。

 

地球征服作戦を止める為に4人の元老の腕輪を集めることになるのですが、地球に向かったあたりからその傾向が強くなります。生物の遺伝子を掛け合わせて作られたバイオビーイングが登場し、蜘蛛のバイオビーイングドーベルマンのバイオビーイング、獅子のバイオビーイングが敵として立ち塞がります。

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バイオビーイング虚数エネルギー・シャドウフォースを操る新人類!

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全然わからない説明なんですが、なんだかすごいエネルギー波をだしてくるので普通の手段では戦えません。ブルーも光子(フォトン)で対抗します。

遊戯王くらい前提条件のわからない戦いに後出しで能力が追加されて行きます。これもうわかんねえよ。

 

結局人の意志の力がサイバービーイングを進化させて戦いに勝利します。まあ、ちょっと打ち切りも仕方なかったわね……。

 

しかし、北斗の拳亜種に見えますが、ちょこちょこと「笑い」に挑戦していまして、原先生の笑いのツボが読者層とあっているかは置いておいて僕は結構好きでした。

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女を褒めるのにスキャンした内臓を褒めるブルー

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ラスボスが急激に老化してギャグジャンプ

 

でも北斗の拳でも、「あるのかないのかどっちなんだ?」とか「お前のようなババアがいるか」とかやってたから原先生の素かもしれませんね。

 

一応、原哲夫パワーで、ゼノンでリメイク作『サイバーブルー 失われた子供達』『クロスバトラーズ』が掲載されたので気になる方は御一読を。

 

 

番外編 瑪羅門の家族

瑪羅門の家族 全4巻 宮下あきら 1992年

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とある事情で知っている人も多い宮下先生の打ち切り漫画。

念を打ち込む事で人の行動を操る瑪羅門一族が、悪に仕置きする必殺仕事人物。後半はジャンプらしくバトル漫画に転向して世界を陰から操る魔修羅一族と瑪羅門7人の選ばれし戦士が戦います。

 

根本的には必殺仕事人なんですが、まずジャンプにはブラックエンジェルズという仕事人物の大先輩がおり、次に念で行動を操る能力なんですが、こちらもタイムラグのある死・行動の操作は北斗の拳という前例があります。つまり、なんとなく新鮮味が薄かったんですよね……。

 ブラックエンジェルズほど悪人がド外道ではなく、北斗の拳ほどの拳法のインパクトがない。更に念で操ることで自白などもさせられるので、物語が最も都合よくたたんでしまえるという予定調和感。 

 

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念を打ち込むことで相手の行動を操るんですが、

「護衛している大統領を盾にテロリストに命乞いをした上で大統領をテロリストに差し出し、死にたくないから逃げると言わした上でトラックの前に飛び出して轢かれる」ところまでコントロール可能です。ちょっと能力が行き届きすぎだったんだ……

 

 結局仕事人編は弾けずに、バトル編に突入します。悪を裁く瑪羅門に対して、歴史の裏から人々を操ってきた魔修羅一族。ヒトラーも信長も奴等の傀儡だったのだ。

 

 でたー!80年代によく見た歴史上の人物が巨大な組織の操り人形やったやつや!だいたいヒトラーが皆勤で次点でナポレオン、ジャンヌダルクアレキサンダー大王がその後に続くといった感じ。

 

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貴重な宮下あきら織田信長カット。

信長名鑑には登場したのだろうか…?

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これに合わせて、瑪羅門の念を打ち込む能力は、7つの能力の一つということに変更、7つの力をもつ7人の戦士を集めて魔修羅と戦う展開になります。

念能力以外は、力持ち、素早いやつ、身の軽いやつ、動物と喋れるやつ、炎を出すやつ、なんでも砕くやつ。

なんかこう、能力といい、設定といい当時でも"懐かしい"感じのテイストでした。

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当然ブレイクするはずもなく4巻で終わってしまうんですが、民明書房みたいな慣用句(?)からこじつけた能力の紹介は宮下先生らしかったのでもっと見たかったです。

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さて、 打ち切り漫画大好き津尾さんが、瑪羅門の家族を気に入っているのは懐かしいテイストの設定ということもありますが、真骨頂はその終わり方にあります。7人の戦士を揃えて、魔修羅最強の男と対決をするところで作品は終わりを迎えるのですが、

「ラスボスは先にある宮殿で主人公達を待ち構える」

「ラスボスと戦う資格を示すために3人の敵を倒す必要がある」

「最終回で怒りで新たな能力に目覚めて強敵を倒す」

「3人の敵の最後の1人は、仲間達ではなく謎の人物が倒してくれた」

「謎の人物の正体は『いずれわかる』でごまかす」

「最終ページは『行くぜ‼︎』で終わり」

という原色超人ペイントマン(https://utikirimanga.hatenadiary.com/entry/2021/04/02/121935)並みの打ち切り仕草が炸裂します。

 

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新たな能力が突然発動するけど特に説明はないぜ!

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最終回なのに「いずれわかる」というあからさまな説明放棄アンド闘う尺がない敵の処分

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打ち切り漫画の華、大コマで行くぜ!

 

サスケ忍伝、ペイントマン、ビルドキングに並ぶ打ち切りムーブだと思います。そういうの、好きだぜ。

 

 

 

 

番外編 ゆうれい小僧がやってきた

フォロワーさんから、Twitter版でやってた4巻以上の打ち切り漫画もブログに上げてくださいというリクエストがあったので、ちょっとだけ番外編として追加していきます。

 

ゆうれい小僧がやってきた 全5巻 ゆでたまご

1987年

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2身1体の妖怪百太郎、琴太郎は合体して亜鎖亜童子に変身し、火山の噴火により封印から逃げ出した108体の妖怪を退治するという妖怪退治物。前半はクラスメイトの関わる怪異を解決。後半はジャンプらしく西洋妖怪とのバトル物へ。

 

鬼太郎やどろろなどの名作妖怪退治物に憧れていたというゆでたまご先生による現代風妖怪退治物。妖怪退治物としては比較的ベーシックな作りで、正義の妖怪亜鎖亜童子がクラスメイトの周辺で起こる怪異や呪いと闘います。鬼太郎とかぬーべーとかに近いフォーマット。

 

人間の欲望が妖怪を引き寄せたり、過去の伝承を忘れた人間が安らかに眠る妖怪の目を覚ましたり、妖怪の生きにくい世界になったので妖怪が人間を利用したり、単に悪い妖怪が人間を苦しめたり、この辺りは妖怪物の定番と言ってもいいんですが、妖怪が流行りのパズルを使って2人の合体を阻止しようとするあたりがゆで先生です。

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迷宮を破るときに亜鎖亜童子に組み変わりますが敵にダメージもないしこれを使って戦うわけでもないし特に意味はありません。ゲエエーじゃないんだよ。

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特徴はニ身一体妖怪なんで、2人が離されたり、絆にヒビが入ると変身できなくなるという点。まあバロム1にウルトラエース、超機動員ヴァンダーなんかの形式で、主人公は強くしたいけど強いとあっという間に敵を倒してしまうので、合体前という段階を作り、同時に2人の関係性で物語を膨らませる手法です。

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ただ、この作りのせいで、日本屈指の正義妖怪亜鎖亜童子をなかなかだせないため、実質的に百太郎ベースで話が進みます。主人公があんまり出ないというデメリットとストレスはあったかもしれません。子供心に焦ったいと思っていました。

 

前半路線のクラスメイトと妖怪退治路線も悪くなかったと思うんですけど、爆発的に跳ねるというほどではなく、2巻からは西洋妖怪との対決というバトル路線に進んでいきます。まあ、妖怪物の定番の一つではあるんですが、そこはゆで先生、一味違います。

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ゲェーッ!妖怪物なのにリング⁉︎

 

妖怪がリングでプロレスというヤクをキメたかのような発想でバトル編に突入します。流石ゆで先生!こんなこと考えるの先生だけだぜ!そこに痺れる憧れるぅ!

 

と思ったら妖怪にプロレスをやらせる企画が現実にもありました。

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どいつもこいつも何考えてやがんだーッ!!

 

 

白眉は、悪の西洋妖怪が攻めてきて、日本妖怪のアジトを聞くシーン。基地の場所を聞いておいて即虐殺を行い「これで、奴らの味とがわからなくなってしまった…」シリアスな笑いか?超シュール。

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バトル編となればゆで先生の独壇場。もはや妖怪ってなんやろと考えさせられますが、超人オリンピックみたいな予選を経て7人の正義妖怪が選出されます。勿論このメンバーは妖怪募集で読者から募集した妖怪が何割かを占めています。

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この辺りで読者も、ちょっとこれキン肉マンに寄せすぎじゃないかしらという疑問が頭をよぎりますがゆで先生は止まりません。

ビリヤードリングや竜巻リング、スケボーリング、コールタールリングと妖怪?こまけえことはいいんだよと言わんばかりのリングで西洋妖怪とのプロレスが繰り広げられます。

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これが、妖怪の闘い?

 

流石に前作に寄せすぎたのか会えなく打ち切りを喰らうんですが、単行本版書き下ろしで一応ケリをつけるところまではやってくれています。

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本誌のラスト。この後書き下ろし12ページで決着がつきます。

 

四次元エレメント交差の原形もかいまみえますし、なんだかんだでゆで先生好きなんでオススメはしておきますが、サイレントナイト翔、サイバーブルーなどと同様前作の大ヒットを引きずり過ぎた失敗の一つというのは否定できないと思います。

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一応アニメ化のオファーが来てたらしいので、紙一重くらいだったのかもしれないですけど…。

前半路線で行って欲しかった作品です。

 

ところで、「妖怪物の漫画を描くと怪現象に出会う」という妖怪・怪奇物でよく言われる現象ですが、この妖怪プロレス漫画ですら作者は原因不明の体調不良に襲われたらしいので妖怪たちのカウントはだいぶシビアと思われます。オンドボハンランジキソワカ…。

 

 

レッドフード  2021年

レッドフード  川口勇貴 全3巻 2021年

 

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食人衝動に目覚め人肉を食らう怪物となった元人間・人狼が現れた村で、小さな狩人ベローは、伝説の狩人が設立した怪物退治専門の組織「狩人組合」からきた凄腕狩人グリムと出会う。

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高田ちゃん、スターアンドストライプ、一心、ヤマトとでかい女が流行りのジャンプに、デカイ女とショタの活劇が始まりました。

 

人狼に襲われる小さな村、村に受けた恩を返すために人狼を倒したいベローは凄腕狩人グリムとの出会い、素質を認められ戦いに臨む。

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 村の危機に才能ある少年が、師匠となる対魔物戦闘のプロと出会って弟子入りし、才能を見出されて戦いながら成長していくという筋立ては比較的わかりやすい王道少年漫画です。

 

3話までで人狼という人類の敵があり、それに対する狩人組合という組織がある事、人狼の強さ、銃はあるが近代兵器はないという世界観の説明とベローのキャラと立ち位置の説明と地味めながらスムースに話が展開します。幼女→巨女に変身するグリムのフックもあって悪くない立ち上がり。

 

5話までで最初の戦いを終え、挫折を覚えて狩人組合の試験をうけるパートに移るのですが、赤ずきん(レッドフード)に対して意味ありげな灰の魔女(シンデレラ)の登場、なぜ人狼が生まれるのか?小さな村が焼かれたのは何故か?血の目録とは?直参とは?グリムにかかった魔法とは?人狼を滅ぼす計画とは?と、怒涛の謎が振りまかれて1章が終わります。

王道どころか90年代末のエヴァンゲリオンの後追い作品みたいな読み口になってるけど大丈夫かコレ!?

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6話からは人狼を倒すために狩人組合に入るための試験編。外の世界や試験官、仲間になるキャラ描きつつ、試験が始まるまでに3話。オイオイ、死んだわアイツ。

 

正直序盤の展開が遅いのは死亡フラグなので、謎の回収もせずに主人公の成長するでもない幕間回を3話続けただけで死んだと思いましたが、なんとこの3話の間に起こった出来事は、いかにも仲間になるチルチルミチルモチーフのチルチ、ミルチ兄妹が凄腕だけど前回の試験に落ちたほど試験が難しいことが判明。タッパとケツのでかい女試験官デネボア登場。試験仲間ボンカース登場。同じく童話モチーフの爺さんブレーメンが意味ありげに登場して5ページで退場します。このくだり必要だったかしら……。

 

 

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名入りで登場して

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5ページで退場……

 

9話からは試験が手錠ケイドロということがわかり、ルールの説明とこの3話で登場したキャラと力を合わせて試験をクリアするんですが、前振りが長かった割に試験自体が盛り上がりません。

6話かけてそんなにキャラが立ってない仲間たちと死ぬわけでもないぬるめな試験を見せられてもなあ……。正直なところここで打ち切りは決まってしまったと思います。

 

15話からは3章に突入。 

この世界は、上位存在に与えられた「真実の本に書かれた物語」が現実になったものであり、組合は本にシナリオを書き込み世界を動かしていたこと、つまり、この世界の悲劇は全て組合の演出した自作自演だったこと、村長はそれに反乱してシナリオを無効化する魔術生命体・ベローを作ったこと、上位存在はシナリオが面白くなければ世界を終わらせることが怒濤の設定開示で明かされます。

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唯一シナリオの影響を受けないベローの選んだ選択肢は……?というところで18話完結。

 

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久しぶりに打ち切りらしい打ち切りというか、未消化の謎、怒濤の設定開示、たくさん出た割に掘り下げられてないキャラクター、俺たちの戦いはこれからだ。となかなかやってくれた作品でした。読切版は見た目通りの王道少年漫画だったので、本誌連載に際して「世界は上位存在を満足させるために、描かれたシナリオ通りに動かされている」という厨二臭い設定を追加したということなんですけど。どこか手垢のついた設定をねじ込んでわかりにくくするんだったらその分をキャラの掘り下げやバトルに使った方がよかったわよね……。シンデレラやポルッツェンは可愛くて動きも良く、ボンカースやメリオピリスも味のあるキャラだったので、グリムも含めて活かしようはあったと思うのですが、どうにもバトルも試験も展開も突き抜けきらない中途半端な出来になってしまった印象でした。

 

ちょっと仕方なかった感のある打ち切りでした。

 

NERU ー武芸道行ー 2021年

NERU  ー武芸道行ー  比良賀みん也 全3巻 2021年

 

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祖父に憧れ、なにもない村で幼い頃から武芸の鍛錬を続けてきたネルは、一目見たものを己の体で再現する才能を持つ武芸家。祖父と縁のある武芸家の女子高生•拝庭朱琵と出会ったことから現代に生きる武芸家が通う高校、天門武芸十八般高校へと進学する。

 

ちょっと不思議な雰囲気の古流武芸漫画。通常この手の漫画は最強を目指すか、父や復讐相手を倒すことを目的にするんですけど、主人公のモチベーション的にも話の色合い的にも少年漫画らしい最強論よりは、どう生きたいかという生き方の選択をメインに描いています。飄々としているところは陸奥九十九や早坂暁などこの手の漫画には珍しくはないんですけど、最強を証明するとか誰かを倒したいとかではなくて、己が何者なのか知りたいという、修道的なキャラクター造形。

 

1話でネルの生い立ちと才能を掲示して、拝庭朱琵との運命の出会い。芽生える目標。2、3話で高校の紹介とライバル登場。4話から試験編。ネルの性格、才能、規格外な部分などは描けてるんですけど1巻7話かけて入学までの部分で、核となるキャラクターが配置されません。拝庭姉弟は魅力的なんですけど、お互いの関係性が強すぎて、物語の中心には入ってこない。というわけで、飄々とした主人公だけが配置され、話が膨らましにくいまま進行するため求心力に欠ける出来になっています。

アメノフルもそうだったんですが、ここ最近の打ち切り作品て丁寧に作ってあって及第点なんですけど70点をとる秀才っ感じの仕上がりでちょっと熱量に欠けるお行儀のいい序盤が多いです。大体一巻を超えるあたりから本領を発揮して作者の業が見えてくると面白くなってくるんですけど、そこまでついてきてる読者が少なくなってしまっているという…。

その点タイパラ、血盟は良い意味でも悪い意味でも異色作でした。

 

殺陣は結構かっこいい

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仮面のミニスカ女子高生剣術使いお姉さん拝庭姉は魅力的だったんですけど、1話の密着からラブい展開に移行しなかったのはお姉さん好きの津尾さんとしては残念でした。憧れの女師匠ポジションの方が話は転がりやすかったと思いますが、姉弟で立ち位置が固まってたんでそうもいかず、連載用に三強に据えた丈九郎が電子短期連載版より強い位置にいる分すぐ話に絡めにくいという、連載用に話を再構築した歪みが出てしまいました。

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7話から登場のヒロイン・要と絡み出してからは結構楽しめましたが、1巻かけて主人公以外のレギュラーが定着してないのはちょっときつかったです。朱琵は遠い目標、丈九郎はその手前の目標なので、手近な目標となるライバルがおらず、一緒に話を進めてくれるのがキャラが立っていないクラスメイトの脇キャラな2人しかいないんですよね。

この辺りは電子短期連載版の方がスッキリバトルして、丈九郎が当座の届かなくもないが少し格上のライバルポジションにいるので収まりが良かったです。

 

要ちゃんはツンデレ可愛い

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入学試験に合格後、入寮試験で要と仲良くなり合格。授業が始まってからは、同室の先輩と組んで一年主席とナイフナメナーメパイセンとタッグマッチとサクサク進行するんですが、敵がポッと出で感情移入しにくいです。「戦いたいです」で戦う為、悲壮感や危機感に欠ける。そこまで悪いやつでもないのでモチベーションも低い。と、盛り上がりに欠ける展開になってしまいました。試験編で主席と因縁を作っておくとか、類型位的にはなりますが要ちゃんがらみでナイフナメナーメパイセンに絡まれるとか、試合編を盛り上がるブックがほしかったです。月間の少女漫画誌で、色々なキャラを出して複数掘り下げていくのを待てるなら情緒的でいい面が活かせた気もしますが、週間の速度でこれはきつかったです。とはいえ、後書きによるとかなり序盤で打ち切りが決まったため、モチベーション保つのが難しかったとのことで、タッグマッチ編は話を作り込む状態ではなかったようです。

 

最近あんまり見ないナイフナメナーメパイセン

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結局チーム戦後、まとめのお話と5年後にみんなの将来を描いて2話で終了。全18話なので実質2巻分くらい。後書きによると、3〜5話くらい前に告げられると思っていた打ち切りがかなり序盤で決定したということ、18話で5話前なら13話よりかなり前となると、おそらく入寮試験編で打ち切りが決まったということだと思います。

 序盤、7話までがやはりきつかったか…。電子版の方は4話でバトルまでこなして丈九郎がライバルポジションを張ってくれているので、正直こちらの方がジャンプ向きではあったとおもいます。

 

単行本は2巻に4コマ、3巻に電子版4話収録、書き下ろし拝庭姉弟の短編が収録されており、カバー下にボツネームも配置されています。この辺りは作者の愛とサービス精神を感じます。

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興味がある方は是非購入してみてください。

 

 

 

アメノフル  2021年

アメノフル 全3巻 原作 たけぐし一本 作画 みたらし三大 2021年

 

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水瀬ツムギはペロペロキャンディのお菓子使い。東京を滅ぼしたペロペロキャンディのお菓子使いと間違われないように正体を隠して暮らしていた。しかし、暴走したお菓子使いを止めるためにお菓子警察〈ルセット〉のメンバー三鳥ミサキの前で能力を使ってしまう。ツムギは冤罪をはらし、真犯人のペロペロキャンディ使いを捕まえる事ができるのか?

 

評価に悩む打ち切り漫画、正直、魅力的なキャラ、速い展開、画力の最低ラインは満たした上でうまく噛み合わなかったような作品です。

 

「お菓子使い」という見た目と語感のインパクトを武器にはじまったの能力バトル。ただ、学園で能力物で反政府組織と、公的組織が能力で戦うのはヒロアカなんですよね…。主人公がヒロイン、内容がコメディ、能力がお菓子由来というところで差別化を図ろうとしているのはわかるんですけど、「お菓子使い」という概念が、「スタンド」や「個性」「念能力」と比べると能力の幅や凄さがストレートに伝わりにくすぎました。

 直接キャラクターの内面と結びつける事ができる「スタンド」「個性」「念能力」と違い、「お菓子使い」の場合は、どのお菓子が選択されているかというのがキャラクターの内面と結びつきにくく、尚且つお菓子自体が幅広いニュアンスを含んでしまうため、このお菓子使いだからこういうキャラというイメージがない上に、このお菓子ならこういう能力というのも伝わりにくかったです。ガムとグミはまあわかりますけど、ポップコーンでギリギリ、ペロキャン、マカロン、ドーナツあたりはかなり苦しい。また、「スタンド」「アルター」ならビジュアルでイメージを見せることもできますがお菓子使いは既存のお菓子のビジュアルから外れる事ができないため、かなり扱いにくい設定となってしまいました。

 

アバウトな能力の定義が最後の逆転の肝になる構図なんですけど、定義ができていないので、各キャラの能力の幅がわからない。そのため能力バトルの中核となる、「出力差でなく能力の相性や使い方で勝つ」という部分の面白みが薄いです。そもそもなぜ、お菓子が出てくるのか、召喚なのか、なんらかの物質から具現化しているのか、精神エネルギー的な物なのか、体から精製されているのか、それがお菓子なのは何故か、何故特殊効果が付与されているのかなどの説明が何もないため話に入り込みにくかったです。

 

ツムギのペロペロキャンディでさえ、サイズ自由で具現化可能、硬度の調整が可能、柄の部分は伸縮自在の直接打撃武器だが小さいサイズを飛ばす事で飛び道具としての使用も可能という自由度が高すぎる仕様。近中遠距離までカバーする物理攻撃のお菓子。解釈の幅が広いのはいいんですけど、能力に対するなんらかの納得感が欲しかったかなあ。それこそ、内面の発露たる「念能力」や「スタンド」なら能力の本質は己の心、認識次第で能力の幅は広がるとかでもよかったと思うんですけど、その辺りの掘り下げもないんですよね。

 

 メインキャラの1人入江先輩はバニラアイスクリームのお菓子使いで、物理攻撃以外に凍結能力をもつのですが、チョコアイスや、ミントアイスなど他のアイスや、シャーベット、かき氷など氷菓子系の能力は入江先輩以外いないのか?いるなら同じ能力なのか、ミントアイスとバニラアイスの能力差は?など瞬時に疑問が浮かんできます。

作中では、ペロペロキャンディ、ドーナツ、マカロン、バニラアイス、ポップコーン、グミ、ガムのお菓子使いまでで結局被りはしなかったのですが、おかしに紐づけてる能力なのにお菓子から能力が想像しにくいのはマイナスだったかなと。

 

結局、これだと普通の能力にした方が飲み込みやすく、あえて「お菓子使い」にしたことによる作品上のメリットが感じにくかったです。

 

立ち絵はかっこよかったですが
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能力バトルなのに上記の理由から駆け引きがほぼないバトルなのが残念でしたが、反面掛け合いは面白く、途中から吹っ切れたようにキャラが魅力的になりました。

 

味方の逃すために攻撃を受けてやられた隊員をダセーと馬鹿にする敵お菓子使いの、

「ダセいっていうのはそいつみたいなやつのことだろ?」「それと比べて、俺のどこがダサいって?」

を受けて

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ペロペロキャンディ使いというのを秘密にして友達を守る為に戦っていると勘違いした敵の

「心あたりがあるだろ?こいつらに言えない後ろめたい事が…」

を受けて

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この辺りのノリは好きだったので、最序盤からコメディ全振りにするか、開幕からお菓子使いとのバトルは突入すればテンポ良く進行したと思うんですけど。

 

 

 話自体はスムーズに進行しており、1話→世界と主人公と相棒の紹介、3話→頼れる味方入江先輩登場、6話→ルセット(お菓子使い組織)への入隊試験、8話→悪のお菓子使いの侵攻とサクサク進みます。よく言われる展開が遅いわけではないんですが、ペロペロキャンディ使いとバレると終われるので正体を隠さないといけない設定が足を引っ張り能力が開示しにくい、身代わり兼協力者が必要、その身代わり隊員ミサキが個性が薄い事が序盤の印象を悪くしました。

更に、試験編で新キャラ•マモルと手を組まされるんですが、ミサキのキャラも曖昧なのにもう次の相棒出すの?しかも2人ともお菓子使いではないのでバトル的には戦力外で、結局戦うのはツムギなんですよね。なんでこの2人分けたんでしょう…?

 

中盤で展開したような、正体を隠して戦うツムギと、その手柄を請け負うためどんどん勘違いされて階級が上がっていくミサキをやりたかったのか、番外編で描いたようなマモルの恋の迷走を描きたかったのか、どうにもストーリーの進行を支える脇キャラが、キャラが立たないまま話に放り込まれていくので、こんなのも描きたいという作者の嗜好が先走った、とっ散らかった印象を受けました。 

 

 愚直な味方のやられるところを見せて、敵を撃つ展開や、敵の嫌なところを見せて、溜めてでかい一撃を食らわせることで爽快感を出す作劇はうまかったので、ミサキやマモルと1話からルセット入隊仲間にして、手柄あげながら3人組でのしあがっていくか、ペロキャン被りの設定をやめて、ルセット育成枠の機体のお菓子使いとして登場させ、五菓子(ステラアントルメ)と絡めたバトルメインにすれば、早めに強キャラを出すことができて、バトルの幅も広がり話もスッキリした気はします。

 

ルセット五菓子の1人入江先輩は、とぼけたキャラクターと強キャラ感、なんだかんだでいい人というキャラ造形でファンも多かったので、同じくらい強力なキャラを序盤に敵味方に配置できれば化けたと思うんですけど、ちょっと敵に魅力が薄かったです。まあ、これは尺を使えなかったというのもあるとは思うんですけど。単行本収録の特別番外編では本編でのフォロワーが少なかったマモルと敵のお菓子使いにスポットが当てられています。

 

ボケキャラから入って

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強キャラ感

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で、基本的にはいい人という美味しいキャラ造形

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なんか文句ばっかり書いてしまった気もしますが、悪くはない出来だったと思います。ちょっと煮詰めきれてなかったかなと。次回作に期待です。